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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第一幕】望まれぬ子
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1

 

  さて、赤ん坊の日常をどのようにというか、どこまで伝えたらいいのだろうか?

  そこまで面白いことはないと思う。


  なので俺がどのように過ごしているのかを簡単に伝えよう。


  赤ん坊の仕事と言えば、よく泣き、 よく食べ、よく出し、よく寝ることだ。

  もともとこの体では一人で何も出来ないので今のところ腕が無くて不便だということはあまりない。

 

  俺のお世話全般は若い女性が一人で行っている。たぶん母親ではないだろう、使用人じゃないかな?メイド服ぽいものを着ているし、どうやらそれなりに裕福な家庭に生まれたらしい。

  だが、両親にはまだ一度も会ったことがない。使用人の人しかこの部屋にやってこないのだ。

  あと、俺が生まれた所は日本ではないみたいだ、使用人の人がよく俺に喋りかけてくれるのだが何を言っているのかさっぱり分からない。日本語ではないのはもちろんだが、かといって英語でもない、他の言語は詳しくないので分からない。

  とにかく俺は言葉を覚えることから始めなければならなかった。

 ・

 ・

 ・

  俺としての意識を取り戻して一年は経っただろうか。

 

  自分でも驚くほどの学習能力で日常会話程度には理解できるようになり、それによって色々とわかったことがある。

  まず、俺の名前はライル、性別はもちろん男である。そして使用人の人はクラリスというらしい。

  聞けばまだ二十代前半だという、見た目よりも結構若い。まぁ日本人なんかは向こうの人から見ればみんな童顔らしいからな、そう思うのも仕方がないかもしれない。

 

  いまだに両親はこの部屋に訪れることはない、なので顔も知らない。

 

  「旦那様と奥様はお忙しいので仕方がありませんね」


  クラリスはそう言いながら優しく俺の頭を撫でてくれたけどその目は少し悲しそうだった。


  ついこの間のことなんだが、この部屋にクラリス以外の人が訪れた。

  初老の男性で白衣のようなものを着ている、どうやら医者らしい。

  その医者は何やらペンライトのような物で俺の左右の目に光を当てながら難しい顔をしている。


  前から違和感があった、もしかしたらと……でもこれで確信した。俺の左目には光は映らなかった。そしてこれからも何も映すことはないだろう。


  医者もそう判断したみたいだ。それを聞いたクラリスは顔を俯かせ微かに震えている。だが診察はそれで終わりではなく、今度は服を脱ぎ体を診る、ここでも俺は気付いた事がある。自分の顔や体の左半分と左足の大部分の皮膚が火傷のような痕になっていたのだ。

 

  医者がクラリスへ診察結果を報告している中、俺は前世の最後を思い出していた。

 

  俺の死んだ状況と今の体はあまりにも似ているというかそっくりそのままなのではないか、これは偶然か?それとも………

 ・

 ・

 ・

  月日が経つのは早いもので俺も今年で五歳なる。

  この五年で一番うれしかったのは喋れるようになったことだ。やっぱり意志の疎通ができるのは素晴らしいのだと改めて深く実感した。

 

  最初の言葉は決めていた、いつも俺の面倒を嫌な顔をひとつもせずみてくれた彼女へ感謝を込めて、

 

  「くあいしゅ~」


  まだ一歳半過ぎの子供の舌ではこれが限界だったけどクラリスは凄く喜んでくれた。

  良かった、ちゃんと自分の名前を呼んだと理解してくれたみたいだ。


  それからはよく二人で喋るようになり、そのおかげでずいぶんと上達し今ではもう普通に会話できるようにはなった。


  コミュニケーションがとれるようになって、初めて知ったことがある。

  ここは地球ではなく異世界だということだ。何故そう思ったのか?それは魔法の存在である。

 

  この世界では魔法や魔術といったものがあるらしい、そしてそれを使用するために必要な魔力がある。

  この魔力というものは個人差はあるが生き物なら全員もっているらしい。


  それと魔物や魔獣といわれる危険な生物もいるし人間以外の種族もいる。これを異世界と呼ばずになんと呼べばいいだろうか?


  「そういえば、ライル様は生まれつき魔力の保有量が多いみたいですよ」


  クラリスは慣れた手つきで部屋の掃除しながらそう言った。


  「えっ そうなの? 自分じゃよく分からないんだけど……」


  「はい! 何でも赤ん坊のときにはもう、魔力量が一般魔法士の平均値を越えていたらしいです」


  ほぉ、俺は人よりも魔力が多いのか、魔法や魔術が使えたならこんな身体でも十分な生活ができるかもしれないな。


  「ねぇ、魔法や魔術はどうやったら使えるようになるの?」


  クラリスは掃除の手をいったん止めて、俺と向き合いながら


  「そうですね・・魔法は今は無理ですが、魔術なら大丈夫かもしれませんね」


  「その二つは何が違うの?」


  「私も詳しくはないのですが……魔法は十歳になった子が教会にいき祈りを捧げ、神様から授かるんです」


  「は? 神様?」


  「はい、七柱の神様達が私達の住むこの世界を見守ってくださっています。神様にはそれぞれ火・水・風・土・雷・光・闇の属性を司っていまして、祈りを捧げることにより属性のどれかを授けてもらえるのです」


  「授かるのはひとつだけなの?」


  「いいえ、複数の属性を授かる人もいますよ、かなり稀ですが」


  とりあえず十歳になるまでは魔法はお預けだな。


  「魔術はどういったものなの?」


  「すみません、私もよく分からないのですが、魔術言語というものを使い魔法と似たような現象を起こすとか聞いたことがあります」


  魔術言語………また新しい言葉を覚えなきゃならないのか……


  「それで、魔法は今は無理なのは分かったけど魔術は大丈夫かもっていうのはどういうこと?」


  「はい、それはですね、魔術師を家庭教師として雇うんです」


  なるほど、それなら何とかなりそうだな。

  だけど………


  「雇ってもらえるの?」


  「そ、それは……」


  そう、両親はいまだに俺に会いに来てはくれず、それどころか二年前に生まれた子供と一緒にいる、男の子と女の子の双子だそうだ。


  「大丈夫です。私が旦那様に掛け合います」


  「ほんとに? あまり無茶はしてほしくはないんだ」


  「本当に大丈夫ですよ、旦那様も悪いようにはしないはずです」


  クラリスはそう言うとさっと掃除を済ませて部屋から出ていった。

 

  後日、クラリスは家庭教師を雇ってもらえると、うれしそうに報告してきた。

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