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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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「アグネーゼさん達には大変お世話になりました。感謝しています」


「いえ、教会の者として当然の事をしたまでです。私は彼等を率いる立場ですのでここでお別れですが、何時か必ずライル様に会いにインファースを訪ねたいと思います」


 前線基地から戻って軽く仮眠を取った後、帝都へと向かう前にアグネーゼと別れの挨拶をしていた。


「すぐにカルネラ司教様に此度の事を報告致しますので、何時でも聖教国へお訪ね下さい」


「重ねてありがとうございます。そうだ、連絡にはこれを使って下さい。マナフォンと言って、小型の通信魔道具です。カルネラ司教様が持っているマナフォンも登録してありますので、すぐに報告出来ますよ」


 俺はアグネーゼにマナフォンを渡し、軽く使い方を教えた。


「こんなに小さい通信魔道具は初めて見ました。これはライル様がお作りになられたのですか? 流石でございます」


 そんなアグネーゼの賛辞に、俺の心がズキリと痛む。


「俺は貴女が敬うような人間ではありませんよ? 聞いてましたよね? 今回もカーミラ達に対して殆ど何も出来なかった。いくら神様から特別なスキルを授かっても、使いこなせなければ意味がない。どうして俺だったんだろうと、今も疑問に思っています。もっと自分よりも適任な者がいた筈なのに…… こんな俺を見て幻滅したのでは? 」


 頭が足りなくて詰めが甘いのは前世から変わらない。結果、カーミラの思惑は阻止出来ず、仲間である多くのハニービィが犠牲になっただけ。どんなに強い力を貰っても、結局俺は俺以上にはなれなかった。

 それが悔しくて、情けなくて、申し訳なくて、自分で自分が嫌になってしまう。前世の俺は自分という人間があまり好きではなかった。過去を無視して、未来からも目を背け、今を妥協して生きる日々。なにひとつ誇れるものが俺にはない。生まれ変わった今でもそんな気持ちは消えずに、ふとした拍子に思い出してしまう。

 だからなのかな? アグネーゼの俺を見る瞳があまりにも眩しく、寄せる期待の大きさに尻込みして、ついこんな愚痴を溢してしまった。


「…… 確かに、ライル様からすれば神からスキルを授かっただけかも知れません。ですが、私達にとってはそれが何よりも重要なのです。神に選ばれたという事実だけで、私達がライル様を敬う理由として十分でこざいます。それに…… この数日、貴方様を見ていて分かったのです。ライル様はご自分の弱さを知っています。知っているからこそ、その力に溺れず、何時もご自分を戒めておられる。こう言っては失礼ですが、そのお身体でもひたむきに前を進もうとする姿に私は感動したのです。今も己を嘆きながらも、失敗を糧にして対策を講じている。そんなライル様だからこそ、私は心から尊敬致します。幻滅など、する筈もありません」


 アグネーゼは強い意思を宿した瞳で俺を真っ直ぐに見据え、迷いなく言い切った。


 信じて疑わないその性格は時として危険だ。だけど今はそう断言され、少しだけ自分に自信がついたような気がする。ほんの少しだけどね。


「ありがとう。その想いと期待を裏切らないように、これからも足掻いていくとするよ」


「大丈夫ですよ。どんな事になろうとも、全ては神の御心のままに…… どうかライル様の歩む道に神のご加護があらんことを」


 アグネーゼとの別れを済ませた俺は、アンネの精霊魔法でオーギュスト砦から離れた場所へ移動し、そこから馬車で帝都を目指した。



 ◇



 馬車で来た道を戻ること約三日。遠目にも城の形が分かる程帝都へと近付いた。


『おぉ~、やっぱでっけぇな城だな! 相棒、彼処には何時まで滞在する気なんだ? 』


『目的の物を仕入れたら出ていくよ。聖教国で魔道具を見せて貰わなければならないからね。頼むから大人しくしててくれよ? 』


『わかってるって。見つからなければ良いんだろ? 任せろ! 』


 魔力収納から出るなって事なんだけどな。本当に大丈夫か? 心配になってきた。魔力は常時繋げておかないと安心出来ないな。



 帝都の入り口に着く頃には、既に昼を過ぎていた。一般の門には帝都に入る為に並んでいる人達で長蛇の列が出来ている。日が落ちるまでには入りたいけど、間に合うかな?


『ねぇ、ライル。こういう時にこそ、あのエンブレムを使うんでないの? 』


『え? 黒騎士から貰ったエンブレムのことか? でも割り込みはいけないよ』


『ここじゃなくて、他に空いてる門があるよね? このままじゃ日が暮れちゃうよ。あんまりのんびりしてらんないんでしょ?』


 アンネが言いたいのは貴族専用の門の事だろう。でも俺は他国の商人だから、そんなに上手くいくかな? まぁこのまま並んで待っていても日は暮れるだろうし、駄目元で試して見るのも悪くはないか。


 俺は馬車を列から離し、貴族専用の門に進めた。どう見ても貴族のとは思えない馬車が近付いてきたからか、二人の門兵は警戒の色を濃くしている。帝国の兵士は乱暴者揃い、問答無用で襲われるなんてのはないよな?


「止まれ!! ここは貴族専用だ、一般の者は向こうの門から並んで入れ」


 うん、至極普通の対応だ。ちゃんと話は聞いてくれそうな門兵さんだな。一先ず安心した。


「あの、これを見て頂いても宜しいですか? 」


 黒騎士から貰ったエンブレムを側にいるエレミアを介して、門兵に差し出すと、それを見たとたん目を剥き驚いていた。


「こ、これは!? ほ、本物か? まさか信じられん。この者が黒騎士様の、だと? 」


「しかしこれが本物だとして、ここで追い返したりなんかしたら、俺達が黒騎士様に殺されるぞ? 」


「そ、そうだな…… ようこそ、帝都へ! どうぞお入り下さい」


 おぅ、荷物検査も無しにすんなりと入れてしまった。なんだか申し訳なく感じてしまうな。ごめんよ、軽い気持ちでこんなものを出してしまって。黒騎士様の威光は思っていたよりも大きいようだ。次からはもっと良く考えてから出す事にしよう。


 さてと、目的の紅茶を売っているのは確かデットゥール商会だったよな? でもその前に、今日泊まる宿を先に探すとするか。

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