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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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 目覚めた兵士に黒騎士が言葉を掛ける。


「どうだ? まだ体の自由が効かぬか? 」


「いえ…… 大丈夫です。痛みも消え、体も自由に動かせます」


 良かった、後遺症は何もないみたいだ。なら早速何があったのか聞いてみよう。


「貴方が何時、何処で隷属魔術を掛けられたか覚えていますか? 」


「…… 君は? 」


「この者がお主に刻まれた隷属魔術を消した魔術師だ」


「そうでしたか、あの痛みから解放してくれてありがとうございました。えっと、何時自分が隷属魔術に掛けられたかですよね? …… あれは、一月程前の事です。何時ものようにオーガ共と戦い、疲れはてた自分はテントで眠っていました。そしてふと目覚めると、そこは前線基地のテントの中ではなく、見知らぬ場所で何か台のような物の上で寝かされていたのです。慌てて起き上がろうとしたのですが、手足が縛られているのか、身動きが取れません。周りを良く見回すと、自分と同じテントで休んでいた兵士達も同じような状況でした。その中の一人の側に、あの女が立っていたんです」


 その時の恐怖を思い出しているのか、兵士の顔からは血の気が引き、微かに震えだした。


「あの女とは、もしかして髪が紫色した女性ですか? 」


「えぇ、確かそんな色をしていたと思います。その女は一人、また一人と兵士達の側に立ち、何かをしている様子でしたが、その何かは良く見えなくて分かりません。徐々に此方へ近付いてくる不安と恐怖で、自分の頭は混乱していました。自分はその女に、助けてくれ! と大声で叫んだのです。すると、―― 大丈夫、心配しないで。何も怖い事はないのよ。貴方達にはこの世界から魂を解放する手伝いをして貰うわ―― その女の声は柔らかく、優しい眼差しを自分に向けてくるのです。それが却って恐怖を煽り、自分の心を折るには十分でした。女が自分の体に手を翳した時、見えない何かが中に入ってくるのを感じました。今考えれば、あの女の魔力だったのだと思います。何か…… そう、自分の心を鎖でぐるぐる巻きにされたような圧迫感が自分を襲ったのです。必死の抵抗を試みましたが突然眠気を覚え瞼が重くなり、気が付くと他の兵士達と一緒に自分が休んでいたテントで寝ていました。先程のは夢だったのだろうか? そう思った自分は、近くの兵士に聞こうとしたのですが、あの時の事を話そうとすると口が貝のよう閉じて開かなくなるのです。文字で伝えようとしても手が動かなくなる。他の兵士達もそれは同じでした。あれは夢ではなかった。俺達はあの女の傀儡にされたのだと、そう実感したのです」


「隷属魔術を掛けられた他の兵士達は今どうしているのですか? 」


「殆どはオーガとの戦で命を落としています。生き残った者達は自分と同じように今回の戦いに出ていた筈ですが…… すみません、今何処にいるかはまでは分かりません」


 兵士は力が抜けたのか、がっくりと肩を落とし地面へと視線を向ける。そんな彼に労いの言葉を掛けて、俺と黒騎士はテントを後にした。


 あの兵士が言った女とは十中八九カーミラの事だろう。オーガキングの死体を奪ったあの魔術で、テントに休んでいた兵士達を拐い、魔術を施したのか。他の隷属魔術を掛けられた兵士達の所在と安否が気になるところだ。


「うむ…… これは帝都に戻ったら纏めて検査する必要があるな。やれやれ、またあの厄介な問題が引き起こされるのか」


「確か、過去にも隷属魔術での騒動があったと聞きましたが? 」


「あぁ、あの頃は酷いものでな。とにかく疑わしい者は殺せという風潮が広がり、何処の国も死体の処理に困る程の死屍累々であった。己が法を犯したのは隷属魔術で無理矢理やらされたからだと言う輩が大勢いてな、それらを裁くには多くの時間と人を費やしたものだ」


 うわぁ…… 想像もしたくないね。中には隷属魔術のせいにして好き勝手暴れてた奴もいるのだろうな。そんなのを一々ちゃんと調べて裁いていたらきりがない。そんな風潮が広がるのも分かる気がする。


「お主はこれからどうする? リラグンド王国に戻るのか? 」


「先ずは帝都へ行ってみたいと思っています。仕入れたい物もありますので。それからは聖教国で隷属魔術を見破る魔道具を見せて貰う予定です。何とか持ち運べるくらいにまで小さく出来たらと思いまして」


「そうか…… もしそれが完成したら帝国にも譲ってくれぬか? 無論、金は払おう」


「はい、勿論良いですよ。完成したらお持ち致します。それと、これも受け取ってくれませんか? 」


 俺は魔力収納からマナフォンを取り出し、黒騎士へ渡した。


「ん? 何だこれは? 金属の板か? 」


「これはマナフォンと言いまして、通信の魔道具となっております。これで何処にいてもお互いに連絡が取れます」


「ほう、これが通信魔道具だと? 帝国にも持ち運べる物はあるが、ここまで小さくは出来なかった。是非とも技術部で調べて量産したいところだ」


「それは端末ですので、それだけ調べてもあまり意味がありませんよ? 」


 本体は俺の店の地下にあるからな。端末を幾ら作っても、本体に登録しないと使えない。


「成る程、本体とは分けてあるのか。それは良い事を聞いた。有り難く貰っておくぞ。余もあの愚か者共について何か分かればお主に伝えよう。そうだ、これを渡しておく。これは余のエンブレムでな、それを持っていれば帝国内で不自由になる事はないだろう」


 胸についている盾の形を模した金属製のエンブレムを受け取る。そこには動物のような模様が刻まれていた。黒騎士が言うにはグリフォンなんだそうだ。


「ありがとうございます。此方も何か掴め次第、報告させて頂きます。それではこれで失礼致します」


「うむ、息災でな。また会おうぞ」


 あの兵士のように、カーミラは色んな国の人達を隷属魔術で操っているのだろう。だとすると、今優先するべき事は隷属魔術を見破る魔道具の小型化になる。それを量産して普及させれば、カーミラも思うように動けなくなる筈だ。


 でもその前に帝都にも寄っておきたい。世界の安全も大切だけど、身近にある生活も疎かには出来ない。ふぅ、要領の悪さは自覚しているけど、中々難しいな。

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