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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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39

 

 前線基地では、今だに興奮覚めやらぬ兵士達が勝利を祝い盛り上がっていた。オーガ達の犠牲になった者は少なくはない、だがやっと戦争が終わったんだ。今この時だけは感情に身を任せても誰も咎める者はいないだろう。


 嬉しさのあまり叫ぶ者、大いに笑い喜ぶ者、静かに涙を流す者、誰もが戦争の終わりを実感していた。そんな中を俺はこっそりとお邪魔して、黒騎士の魔力を探る。


「来たか…… お主も無事だったようだな」


 盛り上がる兵士達から離れた場所で、一人空を見上げていた黒騎士を見つけた。どうやら俺が来るのを待っていたようだ。


「オーガキングを奪われてしまった。帝国の戦だと啖呵を切っておきながらこの様だ。なんとも情けない限りである」


「俺もです。隷属魔術の存在をすっかり失念していました。あの兵士はどうなりましたか? 」


「あぁ、あの兵士は生きて捕らえてある。だが話を聞ける状態ではないぞ? あの手の隷属魔術は魂に直接刻まれる。術式を施した者以外では解く事は出来ぬ。もし無理矢理にでも魔術を解こうものなら、魂を傷つけ生きた死人になるやも知れぬ」


「俺なら、何の後遺症もなく魔術を解く事が出来ます。なので会わせてくれませんか? 」


 その言葉を聞いた黒騎士がゆっくりとこっちを向いた。


「それが本当なら実に喜ばしい事だ。これであの者を殺さずに済むのだからな」


 もしかして殺すつもりだったのか? 間に合って良かったよ。無理矢理操られていても同じ帝国の仲間なのだから、表情が兜で見えないけど黒騎士も何だかホッとしている様子だ。


 俺は黒騎士に連れられて、とあるテントへとやって来た。見張りの兵士に俺の事を腕の立つ魔術師だと説明し、中に入れてもらう。


 テントの中は薄暗く、小さな魔道具の灯りだけが辺りを照らしている。その奥に身動きがとれないよう縄でしっかりと縛られている人物が、苦悶の表情を浮かべ横たわっていた。


「何故彼はこんなに苦しそうなんですか? 」


「うむ、どうやら目的を遂行したら自害するように命令されていたようでな。縄で動きを封じなければ自ら命を絶とうとするのだ。そして命令を実行できないこやつは、隷属魔術により魂に害を加えられている。話によれば、その激痛は想像を絶するものらしい」


 言うことを聞かなければ痛みを与えるのか。それは死んだ方がましだと思うくらいの激痛なんだろうか?


「…… こ、ころして、くれぇ。は、はやく、らくに…… 」


 苦しみで顔が歪み、殺してくれと涙ながらに哀願してくる兵士の姿は見るも痛ましい。


 彼の望み通り早く楽にさせてやりたい。ただし、殺すのではなく魔術を解く方向で。


 俺は魔力を兵士に伸ばし、解析を始める。すると彼の魂に見知った術式が視えてきた。エレミアの時と同じ術式、あれが隷属魔術だな。魂を傷付けないよう慎重に術式を消していく。


 完全に消し終わる頃には、兵士は力尽きたようにぐったりとしていた。微かに胸が上下している事から死んではいないようだ。彼を襲っていた激痛がなくなり、安心して気を失ったのだろうと黒騎士が言う。


 無理に起こすのも悪いし、自然と起きるまで待つか。その間に黒騎士とは色々とお互いの話をした。


「そうか、お主も大分苦労しておるのだな。良く今まで生きて来れたものだ」


「私一人ではとっくに諦めていました。ですが、良き仲間と出会いに恵まれ、何とかここまで来られた感じです」


「仲間か…… 信頼し、肩を並べる者がいるのは心強いものだ。余にもいたのだがな…… 長い年月を経た今では、そういう者も出来なくなってしまった。今の余には、帝国だけが拠り所である」


 そうだよな、黒騎士だって普通の人間だったんだ。それが七百年も生きる事になって、しかも人間以上の強さを手に入れた。肩を並べる者がいないのも無理はない。

 七百年もの間、一体どんな想いで過ごして来たのだろう? いずれ俺も長い時を過ごす事になる。聞きたくないけど、聞いてみたい。そんな矛盾とも言える思いが頭の中でぐるぐると駆け巡る。


「しかし、全てのキング種を集めひとつにとは…… そら恐ろしい事を考えたものだな。本気で人間を―― いや、大陸中の生物を根絶やしにするつもりか」


「たぶん、そうだと思います。カーミラはこの世界を、神を恨んでるようでしたから」


「なんとも愚かとしか言いようがない。理解に苦しむ」


 まぁ、この世界の住人なら普通はそう思うよな。でもカーミラは五百年前に、俺と同じ日本の記憶持ちだった勇者クロトと出会った事で、この世界とは異なる常識を知ってしまった。そしてクロトの苦悩を間近で見ていたからこそ、そんな思想になっていったのだろう。


 五百年、拗れに拗れたカーミラの思想は最早修正は不可能。話し合いで解決なんて今更だよな。それでも、心の何処かで同情している俺がいる。もしかしたら、なんて甘い考えが抜けきれない。それが自分自身の足を引っ張る事になると知っている筈なのに……


「うぅ…… う? こ、ここは? 」


 お? どうやら気絶していた兵士が目を覚ましたようだ。彼から詳しい話を聞いてみよう。

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