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オーガキングが倒され逃げ惑うオーガ達が向かう先にはギガンテスがいる。そしてそのギガンテス達を食らうムウナ。もう下はしっちゃかめっちゃかだよ。
オーガを追ってきた帝国軍に今のムウナを見られたら間違いなく敵と見なされるだろうから、ギガンテスを粗方倒したところで俺達は引き上げる事にした。後は帝国軍と黒騎士に任せても平気だろう。
アンネの精霊魔法で前進基地にある治療所へと戻ると、目を見開いたアグネーゼが走り寄って出迎えてくれた。
「ライル様!? 戻って来られたのですね! 怪我などはしておられませんか? あぁ…… ご無事で何よりでございます」
俺の無事を確認して安心したのか、アグネーゼはうっすらと涙を浮かべ微笑んだ。
「大丈夫、戦争は終わりました。帝国が勝ったんです」
「…… それにしては浮かないお顔ですね? 何があったのかお聞きしても? 」
そうだな、反省会も兼ねてアグネーゼに報告しておこう。休憩スペースの一角を借りて、俺達は先の戦いを振り返り話し合う事にした。
「問題はやはり転移魔術だな。我等は進入を防ぐ事ばかり考え、逃がさない術を怠ったのがいけなかった」
ギルは不機嫌そうに喉を鳴らす。安全を第一にした結果、彼等に対抗する手段を満足に用意出来なかったのは問題だな。ようは準備不足だったのだ。
「それとさ、隷属魔術はずっこいよね? もう誰が味方か分かんないよ。いくらあたし達が他人の魂が視えるって言っても、いちいち周りの人達を確認する時間も数もないわよ? 」
そう、アンネの言う通り隷属魔術を見破る事が出来るのが妖精だけというのも厄介だ。例え妖精達が全面的に協力してくれたとしても、全ての人達を視れる訳ではない。
「でも、カーミラ達の狙いは分かったわ。キングと呼ばれる魔物を集めているのなら、私達が先に見付けてしまえば先回り出来る」
「でもさ、エレミア。残りのキングと言ったら、後はアンデットキングしか知らないぞ? 他にもいるのならどうやって調べれば良いんだろう? 」
アンデットキング以外の存在を知らないからな。他にはどんなキングがいたのだろうか?
「え~っと…… 確か五百年前には、スライムキングにコボルトキングだろ? 後はインセクトキングってのもいたっけ? 」
テオドアは指を折りながら思い出すかのように言う。まだそんなにいるのか? 一体どれだけいるんだ?
「勇者は属性神達が選んだ七人の候補から選ばれるように、魔王もまた七体のキングから選ばれるのだ」
「七体…… ゴブリンキングは倒したし、オークキングとオーガキングはカーミラの手中にある。アンデットキングはクレス達が調べている最中。となると、残りはテオドアが言ったその三体か? 」
「既にカーミラの手に落ちてなければ、ね? 」
あぁ、エレミアの言うようにその可能性もあるか。そうじゃない事を願うばかりだな。
「では、その三体をカーミラよりも先に見付ければ宜しいのですね? 早速カルネラ司教様にご報告して、お調べ致します」
話を聞いていたアグネーゼは、やる気に満ちた表情で意気込んでいた。
「それじゃあ、残りのキングの捜索は一先ず教会に任せて、私達は隷属魔術を見破る術と、彼等を逃がさない術を考えるのが目下の目標ということかしら? 」
「そういう事になるかな? でも、どれも一筋縄ではいきそうもない。アルクス先生とリリィの協力が必要だよ。それと、昔の技術に似たような物がないかドワーフ達にも聞いてみよう」
「我の記憶が正しければ、隷属魔術を見極める魔道具が昔にあったような気がする。当時はそれで問題になっていたからな、手遅れになる前に速やかに見つけ出す術を開発していたと思うが……」
「それなら確かに存在致します。その魔道具は各国の首都と奴隷商人の店に設置してあると聞き及んでおります。私共の聖教国にもあるらしいのですが、隷属魔術は法律により禁止されていますので、特別な許可がないとその魔道具は拝見出来ません。それに、気軽に持ち運べるような大きさでもありませんよ? 」
そうだったな、今では隷属魔術は禁止され厳しく取り締まっている。術式も各国が厳重に管理をし、その術式を知る奴隷商人は国の厳正な判断と試験を通して選ばれる。おいそれと見せてくれる訳もないか。
だけど聖教国にもあるなら別だ。カルネラ司教から教皇様に何とかその魔道具を拝見出来るよう頼んでみよう。術式さえ分かれば改良して持ち運べるくらいまで小さくできる筈だ。
「転移魔術にしてもさ。外からの進入を防げるんだから、中から出れなくする事も出来んじゃないの? 」
今の結界の効果を逆にするって事か? 言われてみれば出来そうな気がしないでもない。取り合えず一つの提案として覚えておこう。先ずはアルクス先生とリリィの助力を得ないと、俺とギルだけでは心許ないからな。
「それとカーミラがどれだけの手下を従えているのか分からないのも痛いわね。あのキラービィとクイーンのような連中がまだいるかも知れないわ」
エレミアが危惧している事は分かる。此方の戦力は向こうにほぼ把握されているのに、今だにカーミラ側の戦力は未知数。これでは対策のしようがないのも事実だ。あんなのが後どれだけ控えているのだろうか?
「いるかどうかも分からん奴に怯えても仕方あるまい? とにかく今は分かっている事から対策を講じるのが先決だ」
「そうそう、実力なら今のところあたし達の方が上なんだしさ。だからあいつらも逃げるしかなかったんでしょ? 平気だって! 」
ギルとアンネの言う通り、分からない事を恐れるだけでは何も始まらない。先ずは判明している問題と向き合わなければ。
「それで、これからどうするの? 」
「そうだな、戦場が落ち着いた頃に黒騎士を訪ねてみようかと思う。あの隷属魔術で操られていたと思われる兵士が気になってね。何か見ているかもしれないから話を聞いてみたいんだ」
俺なら隷属魔術を問題なく解除出来る。もし、あの兵士が操られていたとしたら、何時、何処で、誰が、どの様に魔術を施したのか聞きたい。
俺は日が暮れた頃に、アンネの精霊魔法で再び前線基地へと向かった。