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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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 龍人形態になったギルと、魔術で肉体を大幅に強化したダールグリフが激しい空中戦を繰り広げている中、下では巨大な化け物に姿を変えたムウナがギガンテスとオーガを貪っている。


「くそっ! やっぱり駄目だ!! 」


 何処からかテオドアの悔しそうな声が聞こえてきた。一体どうしたのだろう?


『どうしたテオドア、何があった? 』


『いや、それがよ。あのギガンテスに取り憑こうとしたんだけど出来ねぇんだ。魂が何かに守られているようで、思うように主導権を握れねぇ』


 成る程、恐らくあのギガンテス達はカーミラ達と同じように、魂を魔力結晶で保護しているのだろう。だとするとテオドアでは少々厳しいかもな。


『下はムウナに任せて、テオドアは黒騎士の様子を見ててくれないか? 』


『おう、分かった。そんじゃ行ってくんぜ! 』


 さて、ギガンテスはムウナが危なげもなく抑えてくれている。キラービィとそのクイーンはアンネとエレミアとハニービィ達が、そしてダールグリフはギルと激しくぶつかり合っている。


「くそっ! いい加減ウザイのよ!! 」


「んだとー! それはこっちの台詞だ、こんちくしょう!! 」


 アンネの猛襲で逃げ回るしか出来ないキラービィクイーン。その苛立ちは最高潮に達しているようだった。あれほどいたキラービィも、ハニービィ達による決死の攻撃でその数をどんどん減らされていく。


「どうした! 我と匹敵するのではなかったのか? 」


「くぅっ! あまり調子に乗らない事です。力が足りないのならば、更に強化すれば良いだけ!」


 ギルの方も上手くダールグリフを抑えている。この調子なら黒騎士が来る前に片付きそうだな。


 そう思っていると、テオドアから今の黒騎士の様子が魔力念話で送られてきた。

 そこには息も絶え絶えなオーガキングに止めを刺そうと剣を振りかぶる黒騎士の姿が視える。


 そして振り下ろされた黒騎士の剣で左肩から袈裟斬りにされたオーガキングは、真っ赤な鮮血を吹き出し倒れ込んだ。


 その瞬間、あれほど騒がしかった戦場がまるで時が止まったかのような静寂に包まれる。突然オーガ達は動きを止め、オーガキングがいる方向へと顔を向け始めた。

 これには戦っていた帝国軍も何事かと釣られてオーガ達と一緒に顔を向ける。


 黒騎士とオーガキングの近くにいた兵士達は、今見ている光景を頭で理解してきたのか歓喜の声を上げ始めた。その声は周りに伝染し、何時しか戦場全体に勝鬨が響き渡る。


 オーガ達も自らの王が負けたと分かると、バラバラになって逃げ出していく。オーガキングによる統率が崩壊したのだ。


「残党狩りだ! オーガ共を逃がすな!! 」


 その様子を見た騎士団長は、すぐさま追撃の号令を掛ける。


 オーガと帝国の戦争は、帝国の勝利で終わりを迎えた。だが黒騎士が今見ているのは、オーガ達の後方で暴れているギガンテスだ。約束通り此方へ向かうつもりなのだろう。黒騎士が加勢してくれるのなら勝ったも同然だな。


 その時の俺は、帝国の勝利と黒騎士の加勢とで完全に油断していたようだ。黒騎士の背後からオーガキングに近付く者に気付くのが遅れてしまったのだから。


 一人の帝国兵が平然と黒騎士に歩き寄ってくる。それだけなら特に怪しくもなかった。しかしその兵士の目は虚ろで、意識が薄いように思える。何か嫌な予感がした俺はテオドアに叫んだ。


『テオドア! あの兵士を止めろ!! 』


『へっ? あの兵士ってどの兵士だよ!? 』


 何だ? 兵士が懐から何かを取り出してオーガキングの死体へと投げた。あれは…… 石? いや、魔核だ!


 黒騎士も気付いたがもう遅い。兵士が投げた魔核はオーガキングの傍で割れると、地面に魔術陣がオーガキングを囲うように浮かび上がる。


「な、なんだ!? 」


 黒騎士が呆気に取られている間に、オーガキングの死体は魔術陣と共に消えてしまった。


 やられた! まさかカーミラの手に落ちた者が帝国軍に潜んでいたとは…… いや、その可能性を考慮しなかった此方の落ち度だ。あっちには隷属魔術があるのを知っていた筈なのにすっかり失念していた。なんて間抜けなんだ。


「クハハハ! 目的は達成した! これで我が君の願いに一歩近付いたのだ!! 」


 遠目に魔術陣の光を見たダールグリフが、高らかに笑い歓喜する。


「なに? まさか貴様、始めから我等を? 」


「えぇ、貴方方にいられたら都合が悪い。だからわざと離れた場所でギガンテスを召喚して目立つようにしたのです」


「誘き出されたのは我等の方であったか」


 悔しそうに喉を鳴らすギルの前で、ダールグリフは魔術陣を形成する。まさか用が済んだから逃げる気か? そうはさせない。俺は魔力を魔術陣に伸ばし、魔力支配のスキルで強引に消す。


「フッ、それは囮ですよ。本命はこっちです」


 そう言うダールグリフの左手には、丸く加工された魔核が握られていた。


 ダールグリフの左手の中で魔核が割れ、後ろの空間が歪む。あれは転移魔術か?


「逃がすか! 」


 ギルはダールグリフを逃がすまいと向かうが、それを妨害するようにキラービィがギルの行く手を阻む。


「こらぁー!! どこ行くんだ! 逃げんじゃねぇ! 」


「はあ? 嫌よ。もう用事は終わったのに、何であんたみたいなめんどくさい奴の相手なんかしなくちゃならないの? バイバ~イ♪ お間抜けさん達、キシシシ! 」


 アンネをキラービィで足止めしたキラービィクイーンは、素早い動きでダールグリフの後ろにある歪んだ空間へ入っていった。


「それでは、私もこれで失礼しますよ。あっ、ギガンテスはこのまま残して置きますので、あしからず」


「待てぇ!! 」


 キラービィを振り払ったギルが、ダールグリフへと大剣を突き出す。しかしすんでのところで届かず、ダールグリフは消えて歪んだ空間も閉じてしまった。


 まんまとしてやられた。オーガとの戦争には勝ったが、オーガキングの死体を奪われ、またカーミラの企みを阻止出来なかったか。しかもご丁寧に置き土産も用意しやがって…… これじゃハニービィ達は何のために犠牲になったんだ。ちくしょう…… なんて無様で情けない。


「ライルよ、悔しいのは我も同じ。逃げられたのは遺憾だが、先ずは下で暴れているギガンテスを倒す事が先決だ」


「そだね。ムカツクけど、もうどうしようもないからね」


 …… そうだな、反省は後でも出来る。今はムウナに加勢してギガンテスを倒そう。

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