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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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36

 

「フッ、どうやらお前の仲間は苦戦しているようだな? 貴様も観念したらどうだ? 」


「それはどうでしょう? 私の結界を破らない限り貴方に勝機はありませんよ? 」


 ハニービィ達の活躍により、キラービィの数が少なくなっている様子を見たギルは、余裕の笑みを浮かべる。しかしダールグリフも自慢の結界があるからか、少しも慌ててはいなかった。


「ライル、キラービィは私達に任せてギルの方を」


「…… 分かった。後を頼む」


 キラービィ達をアンネとクイーンとエレミアに任せ、俺はギルとダールグリフの戦いに意識を向ける。そこには結界を破れず膠着状態が続いている二人がいた。

 こうなったら魔力支配のスキルでダールグリフの結界魔術を強制的に止めてしまおう。その間、俺自身は無防備にはなるが今は結界の中、外から襲われる心配はないだろう。


 俺は魔力を伸ばし、ダールグリフを包む結界の解析を開始した。頭の中に術式が流れ込み、その一部を魔力で強引に削り取る。するとシャボン玉が弾けるように結界が弾けて消えた。


「なっ!? これは、まさか! 」


 驚愕したダールグリフと視線が交差する。俺の仕業だと気付いたのだろう。急いで再度結界の魔術を発動させようとしたのか、魔力を込め始める。しかしそれをギルは許す筈もない。結界が破られた事により生じた隙を狙い、ギルの大剣がダールグリフの腹を貫いた。


「ごふっ!」


「戦いの最中に余所見とは、我もなめられたものだな」


 吐血するダールグリフだが、その口は不気味に歪んでいた。


「クク、まさか魔術を強制的に止められるとは思ってもいませんでしたよ。流石、我が君が警戒するだけのことはある」


「これで結界を張っても無意味。貴様はもう終わりだ」


 ギルが突き刺した大剣を上に押し上げようするのを素手で抑えながらも、ダールグリフは尚も笑みを崩さない。不気味だ、何を企んでいる?


「何か勘違いしておりませんか? 私は別に結界魔術しか使えない訳ではありませんよ? 」


 そう言うとダールグリフの手元に魔術陣が形成され、警戒したギルはダールグリフの腹を刺している大剣を引き抜き距離を置く。


 魔術陣からは何やら金属製の棒が出て、ダールグリフがその棒を引き抜くと、ゴツゴツとした柄頭が取り付いたメイスだった。

 ダールグリフは見るからに重量がありそうなメイスを軽々とその場で振るう。既に大剣で貫かれた傷は癒えているようだ。


「ほぉ? 我と接近戦をしようと言うのか? 」


「えぇ、これでも多少は腕に覚えはありましてね? 」


 そしてまたひとつ魔術を発動するダールグリフ。今度は何だ? 魔力の動きからして、何かしらの魔術を使ったのは分かるけどこれと言って変化が見えない。


「たぶん身体強化じゃないかしら? 」


 傍にいるエレミアがそう推測する。身体強化か…… それだと魔力支配で止める事は難しいな。結界のように目に見えているのなら良いけど、身体強化のように肉体に影響を及ぼす魔法や魔術を止めるには、その本人に直接魔力を注がなくてはならない。そうなれば当然すぐに気付かれて抵抗されてしまう。


 でも身体強化を使ったとしても、ギルの力には及ばないだろう。だがそんな俺の考えはダールグリフの放つ一撃で脆くも崩れてしまった。


「ぐっ!? これは、とても人間の膂力ではないな」


 ダールグリフが振るうメイスを大剣で受けたギルが大きく後退し、その威力に驚いている。


「私の体はもう普通の人間のものではないのですよ? 我が君より授かりし肉体と、更に魔術で強化された私に敵はありません! 」


 立て続けにダールグリフはメイスを振り、その怒濤の攻撃を受けるギルの表情には、先程までの余裕が消えていた。それほどまでに早く、重い打撃がギルを襲う。


「ぬぅ、しかし解せんな。いくら特殊な肉体だったとしても、ここまで力を高めるとは…… 」


「なに、単純な事です。魔術で身体能力を十倍に強化しただけですよ」


 なに!? 確か、身体強化は元の身体能力の二倍以上には強化出来ないよう制限を掛けなければならない筈だ。それ以上の強化をしてしまうと肉体が負荷に耐えられず、内側から崩壊してしまうと教わった事がある。


「ククク、普通ならとっくに私の体は壊れていたでしょう。しかし! この肉体をもってすれば何処までも強化が可能なのです! 今の私の力は龍にも匹敵する程ですよ? 」


「我と同じとは戯れ言を…… その傲り高ぶった考えを改めさせてやるわ! 」


 ギルから魔力が溢れ出し、体が徐々に変化していく。両腕と両足は龍形態の時の様に鋭い爪を生やし、こめかみから二本の角が伸び、背中からは翼が、腰からは尻尾が生え、全身には服の代わりに黒い鱗に覆われ、血管のような細く赤い模様が浮かび上がる。


 その姿はまるで人と龍の中間、まさしく龍人とも呼べるような姿であった。


「初めてみる形態ですね? 龍という存在はまだまだ謎が深い」


「この姿は貴様の様な小さき者と本気で相手をするのに丁度よいのだ。さぁ、我が龍の力を存分にその身で受けるが良い」


 大剣を構えたギルがダールグリフへと一瞬で距離を詰め、龍に変貌した腕で大剣を振り下ろす。

 それをメイスで受けるダールグリフだったが、ギルのあまりにも強力な一撃を受け止めきれず、地面にまで叩き落とされてしまう。


 もくもくと上がる土煙の中で睨み上げてくるダールグリフに、


「フンッ、貴様はそうやって地に伏している方が似合っているな」


 と、ギルは強気に見下ろしていた。

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