34
今のところ帝国軍が有利。やはり黒騎士の存在が大きいようだ。一人で千の軍にも匹敵すると言われる通りの活躍を見せてくれている。
さて、肝心のオーガキングだが、此処まで追い詰められてやっと動き出してきた。周りに屈強なオーガを侍らせ、手には不恰好な金棒を握っている。
オーガキングの強さは普通のオーガの一線を越えたものだった。金棒を縦に振るえばガードした剣ごと兵士の頭を叩き潰し、横に振るえば兵士達を叩き飛ばす。魔法も確認出来たもので、雷と火のスキルを持っている。
「俺がいる限りオーガは不滅だ! 貴様らを殺し、食らい、この国を俺達オーガの国とする!! 」
そう帝国軍に叫んだオーガキングは高笑いをしながら兵士達を金棒で潰して行く。そこに一つの真っ暗な影がオーガキングに猛スピードで迫って来た。
黒騎士の剣とオーガキングの金棒が激突する。受けたオーガキングの足下の地面にヒビが入っていることから、先の黒騎士の一撃がどれほど重いのかが窺えるだろう。それを平然と受け止めるオーガキングも大概化け物であるが。
黒騎士とオーガキングの一騎討ちは他の追随を許さない程に激しい。彼等の戦いに巻き込まれて命を落とすオーガもいるぐらいだ。何時しか黒騎士とオーガキングの周りには人が居なくなり、戦場にぽっかりと二人だけの空間が出来上がっていた。
オーガキングの体は普通のオーガと比べると少々小柄だ。しかしその分、身のこなしが軽く、しかも腕力は並のオーガと引けを取らないときたもんだ。これは黒騎士じゃないとまともに相手なんて出来ないだろう。
両者の戦いは次第に激しさを増していく。お互いの武器が打ち合わさる度に衝撃が起きて土煙が舞う。黒騎士が闇魔法を放てばオーガキングは素早く避けて反撃に出る。雷を纏わせた金棒が襲い掛かり、黒騎士は剣で防ぐが魔法で発生した雷までは防げず、その身で受けてしまう。
その様子を見てオーガキングはニヤリと口を歪める。しかし、直ぐに微笑は怒りの表情に替わった。何故ならオーガキングの魔法を浴びたにも関わらず、黒騎士が平然としていたからだ。流石は闇の神が作った鎧、防御力が半端ない。
「貴様の魔法なんぞで余の体は傷付かん。大人しくその首を寄越すが良い」
「ちっ、この化け物め…… 貴様を殺し、俺は魔王となるのだ! そして全ての魔物を率いて、人間共を根絶やしにしてくれる! 」
「フッ、余がいる限りそれは不可能というもの。貴様の命はここで尽きるのだからな! 」
黒騎士がそう宣言するように、俺から見ててもオーガキングが劣勢に思える。決着がつくのも時間の問題かと思われたその時、オーガ達の後方から眩い光が放たれ、中からあの黒いギガンテスが複数体現れた。まさかここに来てオーガに加勢するつもりなのか?
しかしギガンテスがオーガ達を叩き潰すのを見て、そんな考えは直ぐに消えてしまった。まさか帝国軍を利用してオーガ達を挟み撃ちにするなんて…… 絶対にオーガキングを逃さないつもりだな。
どうする? 恐らくあの近くにはダールグリフがいると思われる。行くか?
ふと視線を感じて顔を向けると、黒騎士の頭が此方に向いていた。此処は任せてギガンテスの方へ行けと言っているのだろうか。俺は軽く頷き、ギガンテスへと向かって飛んで行く。
◇
「おや? やっと来ましたね。待っていましたよ、ライル君」
そこには宙に浮かぶダールグリフと小さな人型の生物が飛んでいた。背はアンネ程で、虫のような細い羽が背中に四枚、体は黄色と黒の外骨格に包まれ、腕が四本ある。真っ赤な複眼と額には二本の触覚、蜂のような昆虫の腹部が腰から生えている様は、まるで人間と蜂を掛け合わせたかのような出で立ちだ。
「キシシシ、このキモイ奴の言った通りだね。のこのこと殺されにやって来たよ。馬鹿だねぇ、私達に勝てるとでも思ってんの? 」
そう言って笑う彼女の周囲には無数の蜂が飛び交っていた。見た目は前世でのスズメバチに似ているな。
『あ、あれは…… 』
ん? クイーンが何だか驚いているようだ。種類は違うが同じ蜂だから何か知っているのかも。
『どうした? あれに心当たりでも? 』
『はい、周りに飛んでいるのはキラービィという種族です。あいつらは獰猛で、私達の巣を襲撃してまだ成長しきっていない子供達を食らうのです。私も何度か襲われ巣を壊された事がありました。しかし、キラービィのクイーンはあんな姿ではなかった筈、違う種類なのでしょうか? 』
成る程、前世でいうミツバチとスズメバチのような関係なんだな。キラービィクイーンの姿は恐らくカーミラが関係しているのだろう。だとすると、普通のキラービィと思わない方が良さそうだ。
下ではギガンテス達が暴れてオーガ達を襲っている。このままではそう時間も経たずに帝国軍の元へと着いてしまう。激しい戦闘の末、オーガも帝国軍も疲労が蓄積している。そんな所にギガンテスなんかに襲われたら帝国への被害は甚大。何とかして止めないと。
『さて、我の出番のようだな』
『よっしゃぁ! いっちょ暴れてやろうじゃないの!! 』
『でっかいの、ムウナとおなじ、くいごたえある! 』
魔力収納からギル、アンネ、ムウナが出てきて俺の横に並ぶ。
「相棒、どうすんだ? 俺様達であいつらを相手にすんのか? 下にはギガンテスの他にオーガもいるんだぜ? 」
「やるしかないだろ? 黒騎士がオーガキングを倒しさえすればオーガ達の統率は無くなる。それまで持ち堪えられさえすれば、勝機はある」
今下に降りればオーガとギガンテスの餌食になる。なので空を飛びながらダールグリフとキラービィクイーンの相手をしなければならない。
これが初の空中戦だ…… 気が滅入ってしまうよ。