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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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32

 

「何奴だ! 姿を見せよ! そこにいるのは分かっておるぞ」


 黒騎士がいると思われるテントへテオドアが入ると、直ぐ気配に気づいたのか、黒騎士は剣を抜き警戒を高めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺様は敵じゃねぇよ! ライルの仲間だ! あんたに知らせたい事があって来たんだ」


 慌てて姿を現したテオドアを見ても、黒騎士は剣を納めず警戒体制は崩さない。


「レイスがライルの仲間だと? それを証明出来るのか? 出来ぬのなら、アンデットを見逃すつもりはない。ここで仕留めてくれようぞ」


「ほ、本当なんだって! 相棒が魔力念話で話したいって言ってっから、あんたの魔力を俺様に繋いでくれ。そうすれば相棒と話ができる筈だからよ」


 少しの間テオドアの言葉を吟味していた黒騎士だったが、意を決したのか魔力をテオドアに繋いでくれた。これでテオドアを中継して黒騎士との念話が可能になる。


『聞こえますか? ライルです』


『あぁ、聞こえておるぞ。そこなレイスの言葉は正しかったようだな。しかしレイスに斥候を遣らせるとは、思い切った事を考えたものだ。普通は思い付いたとしてと実行しようとは考えないものなのだがな。お主に常識は通用せぬようだ』


『それはお互い様なのでは? いえ、それよりも急遽お伝えしたい事がありまして、この様な強引な手段を使わせて頂きました。無礼をお許しください』


『良い、許そう。余に何の用があって来た? 』


 剣を納めた黒騎士に、カーミラの手の者が黒騎士を利用してオーガキングを捕らえようとしている事、そしてオーガと帝国兵の死体を回収している事を伝えた。


『成る程、余を利用するだけでなく兵士達の死体まで奪っていくか…… 何処までも舐めた真似をしてくれる。ふざけおって、良いだろう。誰を敵に回したか存分に思い知らせてやろうぞ! 』


 まだ見ぬ敵に殺意を漏らす黒騎士の姿は死神のようにも見えた。俺から確認出来ないけど、テオドアの視界が揺れていのは分かる。恐らく黒騎士の殺気を当てられて恐怖で震えているのだろう。


『それで提案したいのですが、私達がカーミラの手の者を抑えるので、黒騎士様には予定通りオーガキングを討ち取って頂きたく存じます』


『先にも言った筈だ。これは帝国の戦だと…… それでも手を出すと申すか? 』


『確かに、この戦は帝国とオーガのものです。だからこそオーガキングには手を出しません。しかしカーミラに関しては別です。これは世界に関わる事、帝国だけの問題ではありません。私にだって守りたい人が、場所があるんです。帝国内だからと言って放っておく事は出来ない! 貴方が協力せずとも、私は動きますよ。これ以上カーミラ達の好きにさせたくはありませんので』


 そう、黒騎士がどんな考えを持っていようと、此方も止まる訳にはいかないんだ。自分の大切な人達を、帰る場所を奪われたくない。あの平穏で退屈だと嘆いている時間が、如何に贅沢で幸せな時間か俺は知っているから。


 黒騎士は何を思っているのか、黙したままテントに備わっている椅子にゆっくりと腰を掛けた。


『お主の言い分は理解した。確かにカーミラに関しては、お主の戦いでもある。余が止める権利も権限もない。すまなかったな、少し頭に血が上っていたようだ。オーガキングは余と帝国の兵達に任せるが良い。お主はその愚か者共を頼むぞ、余もオーガキングを仕留め次第、直ぐに向かおう』


『ご理解頂き、感謝します。カーミラ達はどんな手を使って来るか分かりません。十分にお気をつけ下さい』


『あぁ、お主もな…… 死ぬでないぞ。お主とはまた落ち着いた場所で話してみたいのでな』


『はい。その内に、お互いに時間がありましたら。その時を楽しみにしております。それでは失礼致します』


 黒騎士に別れを告げ、テオドアが姿を消してテントから出ていく。


『はぁ~…… まったくよ、生きた心地がしなかったぜ! こんなのはもう頼まれたってやらねぇからな! 』


『生きた心地って、もう死んでるだろ? 』


『んな細けぇことはいいんだよ! 』


 まぁ今回テオドアは大いに役立ってくれてるからな、何かご褒美でも考えておくか。


 何はともあれ、これで黒騎士との話もついた。引き続きテオドアには監視の目を光らせて貰うとしよう。


 今確認出来たのは、ダールグリフと索敵能力に長けた謎の小さな生物と無数の虫らしき影。ダールグリフがいるだけでも厄介なのに、もう片方は正体すら掴めていない。

 不安要素は幾つもあるがのんびりと構えている余裕もないし、腹を決めるしかないね。


『あたしがいるんだから、不安になる要素なんてある訳ないじゃん? ど~んとまっかせなさいよ! 』


『また一つ不安要素が増えたな。まぁ我も出来る限りは力を貸すから安心するが良い』


『ライル、ムウナも、いるぞ! あんしん、する! 』


『私達はあまり戦闘は得意ではありませんが、ライル様の力になれるなら喜んでお貸し致します』


 そうだな、何も俺一人で戦う訳ではない。皆で力を合わせればどんな困難にでも立ち向かえそうだよ。でも、それと同じくらい皆を失うのが怖い。


 もっと…… 俺がもっと強ければ、そんな不安も無くなるのだろうか?


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