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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
284/812

27

 

 翌朝、開店準備をしていると、前線方面から大喝采が聞こえてくる。黒騎士を含んだ騎士団が前線へ向けて出立するみたいだ。


「いよいよっすね、漸くこの戦争も終わる。やっとゆっくり休めそうすよ」


 レスターはまだ鳴り響く喝采の方へ顔を向け、安堵した表情を浮かべていた。確かに、帝国民からの黒騎士の信頼は厚い。だが俺みたいな他国の者からしたら、何時敵に回るか気が気でない。


 騎士団が出立し、基地内部に静けさが戻ってくる。俺は店番をエレミアに任せ、アグネーゼが働いている治療所を訪ねる事にした。


「出来ればレスターにも店番をして貰いたかったんだけどな」


「いやいや、俺はライル君の護衛なんすよ? ついていくのは当然じゃないすか」


 ふ~ん、護衛とか言ってるけど、監視も兼ねているんだろうな。如何に正当な取り引きだとしても、他国の商人を監視もつけずに重要な基地へ送るなんて真似はしない。だからと言ってどうするつもりもないけどね。

 俺が戦場に現れるギガンテスに興味を持っている事は向こうも分かっている筈だし、今まで通り気にしないで情報を集めて行こう。


「あぁ、これはライル様。ようこそお出でくださいました。こちらへどうぞ」


 此方に気付いたアグネーゼが駆け寄り、奥にある神官達の休憩スペースへと案内された。

 大きいサイズのマジックテントの中にはベッドが所狭しと並べられ、運び込まれた兵士達が寝ている様子が窺える。


「どうぞ、帝都で有名なデットゥール商会の紅茶です。凄く美味しいんですよ? 」


 おっ、この紅茶はドワーフの城で飲んだ物だ。はぁ、やっぱり旨いな。早く帝都で茶葉を仕入れたい、絶対インファネースでも売れる筈だ。


「美味しいですね。この茶葉を売っているのはデットゥール商会と言うのですか? 」


「そっすよ。帝都に本店があって、他の町にも支店が幾つかあるんす。帝国に住んでる者なら知らない人はいないぐらい有名なんすよ」


「私も帝国に派遣されて初めて飲んだのですが、一口で虜になってしまいました」


 成る程、随分と大きい商会のようだ。景気が良さそうで羨ましいね。是非とも大成する秘訣を教えて欲しいものだよ。


「ところで、どうです? あれから何か掴めましたか? 」


「いえ、例の魔物については聞きますが、やはり召喚者らしき者については何も…… 」


 アグネーゼは力なく溜め息を吐いては肩を落とす。


「まぁ、直ぐに見つかるとは思ってはいないので、そんなに気を落とさないで下さい」


「しかし此処にいる人達は皆、あの魔物のせいで大怪我を負った者達なのです。早く召喚者を見付ければ、それだけ傷つく者が減ります。私達では怪我を治す事は出来ても、失った手足を戻す事は出来ません。そのような人達をこれ以上は増やしたくないのです」


 気持ちは分かるけど焦っても仕方ない。自分で出来る範囲で無理をせず頑張ればいい。


「良く話が見えないっすね。ライル君達は噂の魔物について何か知ってるんすか? 」


「まあね。詳しくは言えないけど、聖教国に協力してるんだ。これ以上はちょっとね…… 」


「へぇ、只の商人じゃないとは思ってたけど、教会の関係者だったんすか」


 ふぅ、悪いけど教会の名前を利用させて貰ったよ。こう言えば深くは追求してこないだろう。それに嘘は言ってないしね。


「聖教国は中立の立場を厳守しているとは言え、情報の開示くらいはして欲しいっすよね。あの魔物について教えて貰えてたら被害も少なかったかも知れないっすのに」


「私達としても意図して黙っていた訳ではありません。此方もまだ調べている最中で、開示出来るものがないのです。戦場で現れた魔物についても教会は何も知り得ていません。ですからこうしてライル様のご助力の元、情報を集めているのです。聖教国は助かる命があるのなら、情報を惜しむような真似は致しません」


 心外だとばかりに不満を顕にするアグネーゼ。確かにレスターの言い方だと聖教国のせいだとも聞こえてしまう。アグネーゼが不機嫌になるのも無理はない。


「いや、そんなつもりは無かったんすけど、言い方が悪かったすね。すいませんでした」


「あっ、此方こそつい、申し訳ありません」


 二人の間で気不味い空気が流れる。あまり良いとは言えない雰囲気だ。


「まあまあ二人とも、お互いに誤解があっただけで悪気はない訳だし、これでおしまいにしましょう」


 俺は魔力収納から果物とお茶菓子にと蜂蜜クッキーと大福を出した。


「態々ありがとうございます。この果物のお陰で随分と助かっております」


「そう言えば、回復薬は置いていないのですか? 」


「え? 回復薬は全て前線基地にあります。ですが従来の回復薬では軽い怪我しか治せません。なので重症患者はここへ運ばれて来るのです」


 あ、そうなんだ。エルフの里で作った物しか知らないから、そんなに効き目が薄いとは思わなかった。鉱山町で売った時も質が高いと驚いていたし、改めてエルフのもつ高度な薬学に感心するよ。


「なら、この回復薬を使ってみて下さい。エルフが作った物ですから効果も高いと思います。でも前線に送る程の量はないので、ここだけで使って頂くしかありませんが」


「エルフが作りし回復薬ですか!? そう言えばライル様はエルフの里と知己を得ていたのでしたね。エルフの回復薬といったら従来の物よりも段違いの効力があると聞き及んでおります。前線にお届け出来ないのは残念ですが、これで治療待ちの兵士を出さなくても済むかも知れません。ライル様の慈悲と神の御導きに感謝を…… 」


 アグネーゼは、回復薬を握り締め床に膝をつき祈り出してしまった。


 ちょっと困るな。ほら、周りの人も不思議そうに俺達を見ているよ。うぅ、視線が痛い。どうも彼女は俺の事を神使のような存在と認識している節があるみたいだ。そんな大袈裟なもんじゃないよ俺は。だから何かある度に一々祈り出すのは勘弁してほしい。

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