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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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26

 

 黒騎士との邂逅を果たした翌日、俺達は何時も通り出店を開き商売に勤しんでいた。


「うおっ! …… これは参った。本当に強いんだな、恐れ入ったよ」


「当然でしょ? 人間に後れをとるほどエルフは軟弱じゃないわ」


 地面に転がる騎士にエレミアは蛇腹剣を突き付けている。何故こうなったのか…… それはエレミア目当てで集まった騎士達の中で、エレミアの強さに目をつけた者が興味本意で決闘を申し込んできたのだ。


 結果は見ての通りエレミアの圧勝。まぁ相手が油断していたからな、もし初めから本気だったなら勝負はどうなっていたか。


「油断の有無に関わらず、あの騎士は負けていただろう。中々に良く鍛えられているエルフだ。帝国に是非とも欲しい逸材であるな」


 俺の横で初代皇帝でもある黒騎士様が感心なさっている。何であんたまで来てるんだよ。他の騎士達もエレミアの実力を目にして盛り上がっているし、暇なのか?


「おい!! 貴様ら! 遊んでる暇があったら装備の点検でもしたらどうだ? 明日には前線に向かうのだぞ、余計な体力を使うんじゃない! オーガ共の為に取っておけ! 」


「はっ! 団長、申し訳ありませんでした! 」


 団長と呼ばれた騎士から叱咤が飛ばされ、集まっていた騎士達は速やかにこの場から離れていく。


「貴殿がここの店主か? 迷惑を掛けてすまなかったな」


 黒騎士の横にいる俺を見て、団長は近づき軽く謝罪してきた。


「いえ、迷惑だなんて…… 貴方が団長なんですか? それなら黒騎士様はどんなお立場で? 」


「黒騎士殿には決まった部隊はない。いつもお一人で戦場に駆け付ける。黒騎士殿の力は千の軍にも匹敵し、他の者は足手まといにしかならぬ。黒騎士殿と戦場を共にする場合は、我々騎士団が後ろを固め、黒騎士殿が先陣を切るのが昔からの慣わしでな。黒騎士殿の前では、どんな戦術を組もうとも尽く力で押し通ってしまうので意味を為さぬのだ」


 あぁ、そうか。黒騎士が強すぎて周りの騎士達では追い付かないんだな。それなら一人で敵陣に突っ込ませた方が効果的という訳か。


「まったく、黒騎士殿がいるからと気を抜きすぎだ。この先には我々の到着を待ち、オーガ共を決死の覚悟で抑えてくれている兵士達がいるというのに…… 同じ騎士として恥ずかしい。では、私もこれで失礼する」


 団長は一礼をすると、来た道を戻っていった。騎士団は黒騎士のサポート的立場のようだ。なんだかお偉いさんを接待していた時を思い出す。そう思うと気苦労も多いのだろう、団長の顔は何処と無く哀愁が漂っている風にも見えた。負けるな、団長! 頑張れ!


「他の者が近くにいると巻き添えを食らうのでな、余一人の方が存分に暴れられる」


 出たよ、この戦闘ジャンキーが。味方をも巻き込むってどれだけ激しい攻撃なんだよ。


「そう言えば、団長はご存知なのですか? 黒騎士様の中身が初代皇帝陛下だと」


「いや、余の正体を知っているのは、今の皇帝とお主だけだ。新しく皇帝になった者の最初の仕事はな、余の前に跪く事である」


 うわぁ、嫌だなその仕事。折角皇帝に就いたとしても、それ以上の存在を知らされるなんて、ちょっとばかり可哀相だ。


「勘違いするでない、余は最早皇帝ではないのだ。ただ国の為に戦い、敵を滅ぼすのみ。それが余の全てであり、存在理由でもある」


 帝国に対する執念が凄まじいね。こんな存在がいる国に狙われたらたまったもんじゃない。もし帝国が大陸制覇なんか唱えたりしたらどうなるか、想像しただけでも不安で身震いを起こしてしまうよ。


「おぉ、そうだ、忘れる所であった。お主に言っておきたい事があったのだ。此度の戦は帝国の戦。故にお主にどんな理由があったとしても、余計な手出しは無用。帝国に向けられた牙は、帝国の者が叩き折る。心するが良い」


「はい、肝に命じておきます」


 黒騎士は鷹揚に頷くとこの場から去っていく。俺としても全部任せられるんなら進んで首を突っ込むつもりはない。だけど黒騎士は帝国以外の事となると途端に無頓着となる様子が窺える。あの帝国第一主義者が国から離れるとは思えないし、それではカーミラの野望を阻止するのは不可能だ。


 どのみち俺が動くしかないのか。なに、戦争の邪魔をしなければ良い。戦う訳では無く調査するだけなら文句も言われないだろう。


 昨日のテオドアからの定時連絡では、特に目新しい情報は掴めなかったが、魔力念話を通して例の魔物の映像を見せて貰った。


 うん、肌が黒いけどこれは紛れもないギガンテスだ。これでカーミラの介入が確定したな。後はこのギガンテスを召喚し、操っている奴を見つけ出すだけ。

 ついでに前線の様子も見せて貰ったけど酷い有り様だった。戦場には人とオーガの死体が無造作に転がり、前線基地では疲弊した将と兵士達。それでも彼等の目から光は失っていなかった。黒騎士という希望を信じ、今を耐えている。


 明日の朝に騎士団は此処を発つ。前線に着くのは日が沈んだ頃になりそうだ。それまで何とか耐えきって欲しい。一人でも多くの兵が生き残れる事を祈るばかりだ。


 オーガとギガンテスは黒騎士がどうにかしてくれるだろう。此方も引き続き情報を集めて召喚者を見つけ出し、こんな戦争を早く終わらせなければ。

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