表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
282/812

25

 

「ち、違います! 帝国を害しようなんて微塵も考えてはいません! 」


 勘弁してくれよ。こんなのと真っ正面からやり合おうなんて、俺に自殺願望はないぞ。


「ほぅ、ならば別の目的があると言うのだな? 悪いが話して貰うぞ? お主からは神の力だけでなく、強者の気配も幾つか感じる。とても見過ごせるものではない」


 この人は俺の中にいるギルやアンネの存在まで感づいているのか。これは下手な誤魔化しは通用しないだろうな。これ以上警戒されたままでは生きた心地はしないし、話すしかないか。


 俺は正直に此処へ来た理由を話した。


「ふむ、神に仇為し世界を壊す――か。何とも豪胆な者よ。あの時の生意気な小娘が、そんな事を企むようになるとは…… 時の流れとは存外に速いものなのだな」


 うん? なんかおかしいな? 今の黒騎士の口振りだと、昔からカーミラを知っている風に聞こえるんだが?


「あの、カーミラをご存知なのですか? 」


「あぁ、あれは何時だったか…… まだ魔王が倒される以前の事、勇者に選ばれたという小僧と共にいた小娘がいた。あろうことに其奴は余に、何の見返りも用意せず魔王討伐に力を貸せと言ってきたのだ。無論その話は断った、余は帝国さえ守れればそれで良い。その後、魔王を打ち倒すと周りから賢者と呼ばれる様になり、思わず失笑したのを覚えておる」


 あれ? それが事実なら、この黒騎士は五百年は生きてるって事だよな? 聞いていた話と違うぞ、黒騎士は様々な人が受け継いできたものじゃなかったのか?


「お主の言いたい事は分かる。世間に広まっている黒騎士の噂は殆ど出鱈目だ。帝国が生まれてから今まで七百年の間、黒騎士は余の一人だけである」


「なら、貴方は七百年間ずっと黒騎士を? 失礼ですが人間ではないのですか? 」


「うぬ? 余を見ても何も気付かぬのか? お主も同じだと思ったのだがな。余は人間だったのだ…… 七百年前、帝国を護る為に余は神に願った。老いもせず、疲れもせず、眠りもせず、腹も減らず、休む事なく戦える肉体を欲した。そしてその祷りは属性神の一柱である闇の神に届き、神が作りし闇の力を宿した鎧と余の肉体が融合したのがこの体だ。この力を以て、帝国を永遠のものとする。余がいる限り帝国は決して滅びぬのだ! 」


 国を護る為だけに人間を捨てたのか。なんという愛国心の塊、いき過ぎてこれはもう狂気の類いだ。それにしても、神は祈ればそんな簡単に力を与えたりするのか?


『やはり闇の神が関与していたか。あの御方の気紛れにはほとほと困ったものだ』


『そだね~、結構考えなしに行動する所があんだよね。それで前に一度大変な事になったし、その後始末に苦労させられたよ』


 ギルとアンネはその時の事を思い出しては、呆れたように首を振っていた。過去に何があったのかは怖いから聞かないけど、闇の神様ってのはトラブルメーカー的な存在のようだ。


「神から力を得るには代償が伴うものだ。余の場合は最早生き物とは呼べぬ体になってしまった。お主のその歪な肉体も、神に力を求めた結果なのではないのか? 」


 いや、どうなんだろ? 確かに、神様の影響でこんな体になってはいるけど、少なくとも望んではいない。


「…… この体は生れつきです」


「ならば、生まれながらにして神に選ばれたという事か。それは災難であったな。余も自らが望んだとは言え、手放しで喜べる様なものではない。しかしお主は選択する機会すらも与えて貰えぬとは。酷な運命を背負わされたものだ」


 なんだろう、さっきまで警戒されてたのに今度は同情されてるんですけど。もうどう反応して良いのか分からないよ。


「お主の話は信じよう、その人の身ではあり得ない膨大な魔力が証拠だ。疑う余地はない。カーミラの小娘め、生意気にも余の国に牙を向けたか。良いだろう、自分が如何に愚かな行為に及んだのか思い知らせてやろうぞ」


「それでは、協力してくれるのですか? 」


「世界を壊すと言うのなら、帝国が無くなるも同意。それは決して許されるものではない。だが、お主に協力するとは少し違うな。余は余のやり方で帝国を護るだけ、他の事には興味もない。どんな被害が起ころうとも、結果的に帝国さえ残ればそれで良いのだ」


 絶対帝国主義者って訳だね。ある意味分かりやすい人ではあるな。それでも、カーミラの味方にならないだけでも有り難い。


「はい、それで結構です。此方としても、カーミラさえ止めてくれるのなら」


「…… お主、名はなんと言う? 」


「えっ? あっ、これは名乗りもせずに失礼致しました。私はライルと申します。レグラス王国のレインバーク領にあるインファネースという港湾都市で、小さな雑貨屋を営んでおります」


「ほぅ、あのインファネースか。噂は良く耳にしているぞ。うむ…… お主なら構わぬか、然らば余も名乗るとしよう。余の名は、“ベネディクト・ベヒトルスハイム・アスタリク” アスタリク帝国、初代皇帝である」


 …… は? 初代皇帝?


「えっと…… 何で初代皇帝陛下が黒騎士として戦っていらっしゃるのですか? 城にいなくても宜しいので? 」


「馬鹿を言え、城になぞ居ては戦えぬだろうが。玉座に座ってばかりの皇帝より、黒騎士として暴れていた方が何百倍も有意義であろう? なればこそ皇帝の座を降りたのだ。政は臣下がやってくれる。皇帝とは案外暇なのだよ」


 帝国の兵士に脳筋が多い理由が分かった気がする。最初の最高権力者がこれだもんな。皇帝を決める大会ってのも、きっとこの人が決めたのだろう。


 何が神の力を得るには代償を払うだよ。その体を思いっきり満喫してるじゃないか、この戦闘狂め。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ