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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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24

 

 最悪だ…… どうしてこうなった。俺は今、蛇に睨まれたカエルのように固まり、身動きが取れずにいる。


「へぇ、噂以上の美しさだ。それに凄く強いんだってね? どう? 帝国に仕える気はない? 何だったら俺が上に口利きしても良いよ? 」

「おい、止めないか。すまないね、こいつは顔こそ恐いが根は良い奴だからさ」


 どうやら基地内部でエレミアの噂が予想以上に拡がっていたようで、それを聞き付けた騎士達がこの屋台まで確認に来てしまっていた。


 尚も勧誘を続ける騎士達を適当にあしらっているエレミアを横目に、俺は目の前の人物にどう対応して良いのか分からず絶賛戸惑い中である。


 全身を黒く染め、触れたら指が切れ落ちるんじゃないかと思うぐらい刺々しい鎧、二対の角を生やした禍々しい兜に覆われていて表情は窺えず、何を考えているか全く分からない。


 そう、あの帝国の英雄である黒騎士様が無言で俺の前に突っ立っている。もうかれこれ十五分はこうしているぞ。此方から話し掛けても何も言わないし、ここから離れる訳にもいかない。こいつは何がしたいんだ? 兜の中からでも視線を感じるほど凝視されているのが分かる。もしかして警戒されてるのか? 別に何かした覚えはないんですけど?


「はぁ~…… あの黒騎士様をこんな近くで拝めるなんて、滅多に無い事っすよ! ライル君! 」


 人の気も知らないで、レスターは憧れの瞳で黒騎士を眺めては感動にうち震えている。だったら俺と代わってくれ、威圧感が半端なくて怖いんだよ! 冷やかしなら早く帰ってほしいよ。


 いい加減にしてくれとげんなりしていた時、黒騎士の魔力が伸びて俺と繋がった。


『店を閉め次第、余のテントへ一人で来るが良い。神の気配を宿す者よ』


 これは魔力念話? 黒騎士は一方的に告げると何も買わずに去って行く。おい、何でもいいからひとつぐらい買っていけよ。


 店が終わった後に一人で来いって? それに俺の事を神の気配を宿す者とも言っていた。黒騎士とは初対面の筈、ならこの短時間で何かを察したのか?


『ギル、あの黒騎士は本当に人間なのか? そこから見てて何か気付いた事はない? 』


『解らぬ…… 人間のようではあるが、そうだとも言い切れない。闇の気配が濃すぎる、それに…… いや、何でもない』


『ん? 何か気になる事でも? 』


『…… 確証がないのでな、おいそれと口には出来ぬのだ』


 何やら心当たりはあるけど、気軽に話せない内容のようだ。ギルがそういう風に気を使うのは、やっぱり神様関連だよな?


『誘われたけど、黒騎士の所へ行った方が良いと思う? 』


『うむ、その方が良いな。明確に敵と定めた訳では無かろう、それに我もあやつには興味がある』


 ギルがそう言うなら行ってみようかな。アンネの意見は…… 聞かなくてもいいか。特に興味も無いようだし、俺が怖い思いをしている最中に餡ころ餅を嬉しそうに頬張っていたからな。


 ◇


「ほんとに一人で大丈夫? 私が傍にいた方が良いんじゃない? 」


「傍にいなくても魔力収納内で待機してくれるんだろ? なら大丈夫だよ」


「うん、黒騎士だか何だか知らないけど、ライルに危害を加えるようなら容赦はしないわ」


 そう意気込むエレミアを魔力収納へ入れて、約束通り黒騎士の元へと向かった。


 夜の帳が下り、松明の灯りだけが辺りを照らす夜道を歩く。騎士団の為に設置されたテントが密集している場所の中に、半球状で細かな刺繍が施された大きなテントを見つけた。

 あれには見覚えがある。俺がインファネースから持ってきてオーギュスト砦のヘイザルへ売った、貴族用にと見た目を華やかにしたマジックテントだ。あの中から馬鹿デカイ魔力の塊が視える。恐らくあそこに黒騎士がいるのだろう。


 そのマジックテントの入り口に近づいた俺は、さてどうしようと少し思案する。インターホンはないし、布だからノックも意味はない。だからと言っていきなり入るような愚行はしてはならない。となると、ここから声を掛けるしかないか。


「すいません! あの、黒騎士様のテントはここで合っていますか? 先程、黒騎士様の元へと来るように仰せつかった商人の者です」


「…… 入れ」


 暫く間を置いて、テントの中からくぐもった声が聞こえてきたので、恐る恐るテントの中へ入ると、広い空間にテーブルと椅子、そしてベッドがあるだけの簡素な部屋だった。だいぶ空間をもて余しているな。英雄様にしては随分と寂しい部屋だな。もう少し部屋の内装を頑張って欲しかったね。此方の世界にも見栄というものがあるだろうに。


「座るが良い」


 黒騎士に言われ素直にテーブルの前にある椅子へと座る。その対面に黒騎士も腰を掛けた。どうでもいいけど、部屋の中でも鎧は脱がないんだね? 戦闘体勢バッチリ整ってるじゃないですか。もしかして鎧のまま寝たりして?


「さて、お主には確かめたい事がある故、余の元へと来て貰った」


「はぁ…… ? 確かめたい事とは何でありましょうか? 」


「では、お主に問おう。神の力を授かりし者よ、何用で余の国に立ち入った。もし帝国を害するつもりなら容赦はせぬぞ? 全身全霊を捧げ、お主を排除する」


 目の前の黒騎士から突き刺すような鋭い殺気が俺を射抜くと、直ぐに収めた。


 ヤバイ…… 一瞬とは言えあれほどの殺気を当てられたのは初めてだ。どうしよう、冷や汗と震えが止まらない。これは迂闊な事は言えないな。

 生きてこのテントから出られるだろうか、不安でどうにかなりそうだ。

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