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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第二幕】マナの大樹と眼なしのエルフ
28/812

12

 

「あらあら、いつまでそこに居るつもりなの? 夕飯の準備を手伝ってちょうだい」


 ダイニングルームからエルフの女性が声を掛けてきた。全体的にエレミアと似ていて、長い緑の髪を後で束ねている。

 ただひとつ、決定的に違う箇所がある――それは“胸”である。 エレミアは控えめに言って“小丘”といったところ……しかし、あのエルフの女性は、なんと立派な――それはもう“山”としか言いようがない。雄大で誰もが挑戦したくなるような見事なものだ。


「はじめまして、私はこの子たちの母でララノアよ。よろしくね」


 俺が二つの山に眼を奪われていたら、話し掛けられていた。


「あ、はい……俺は、ライルと言います。暫くの間ですが、ご厄介になります」


 母親だったのか、姉かと思った。すごく若々しい見た目をしている。外で見かけたエルフ達も、きっと見た目通りじゃ無いんだろうな……


「今いくわ、お母さん……それじゃ、また後でねライル君」


 そう言うとエレミアとララノアはキッチンへと消えていった。


「これからお前が使う部屋へ案内するからついてきてくれ」


 エドヒルが二階へ上がっていくのでついていくと、二階の端にある部屋に通された。


 その部屋は広くもなく、かといって狭すぎと言うわけでもなく、ベッドとクローゼットが置いてあるだけの部屋だった。


「他に必要な物があったら、言ってほしい」


「いえ、十分です。 ありがとうございます」


 うん、丁度いい広さだ。なんだか前世で借りていた部屋を思い出すな……懐かしい。俺が死んでから、あの部屋にあった物はどうなったのだろう。不慮の事故でパソコンのデータが全部消えたりしないかな……無理だろうな。


「夕飯が出来たら呼びに行くから、それまで休んでてくれ」


「はい、ありがとうございます」


 エドヒルが部屋から出て行った後、俺はベッドの上に寝転んだ。


 はぁ……疲れた、エルフ見たさに結界を抜けたら弓で射られるし、里に案内されたと思ったら何か住むことになって、よく分からん一日だ。

 そんな事を思いながら呆けていたら、何処からか何かを叩く音と声が聴こえた。


「お~い……ライル~、開けちくり~……」


 声の方に顔を向けると、そこには疲れた様子で窓を叩くアンネの姿があった。窓を開けるとアンネはヨロヨロと飛びながら、部屋へ入ってきた。


「つかれた~……もう駄目、魔力収納の中でやすませて~」


 大分お疲れのようだ。アンネを魔力収納の中に入れると、収納した家のハンモックへ向かい、一息ついていた。


『は~……やっぱりここは魔力が濃くてやすらぐわ~……ライル、果実酒おねが~い、桃のやつね』


 言われた通り、果実酒を出したら嬉しそうに飛びついてきた……まだ元気あるじゃん。

 

『お疲れ様、そんなに大変だったのか?』


『ん~? すんごい大変だよ。これがまだ続くと思うと嫌になるね……やめちゃおっかな……』


 何をやってきたのか知らないけど、まだ終わってはいないのか。


『結構時間が掛かりそうなんだ?』


『そだね~……まず、原因を探って、そこから解決策を考えなきゃだから……だいぶ掛かっちゃうかな』


 一体何を頼まれたのか? 聞きたいけど、聞いちゃいけないんだろうな~、アンネなら聞けばベラベラと喋りそうだけど。


『ぷは~、うまい! 今度は蜂蜜酒いこっかな~……ライル~、確かウッドベアの燻製がまだあるよね? ちょ~だい』


 こいつ、本格的に呑み始めやがった。



 暫くの間、アンネは疲れを癒すかのように酒を飲み、俺はベッドで横になって休んでいたら、扉をノックする音が聞こえた。


「ライル、起きているか? 夕飯の準備が出来たぞ」


 エドヒルが呼びに来たので、部屋から出て一階にあるダイニングルームへと向かうと、テーブルにはララノアとエレミアがすでに席に着いて待っていた。


「あら? 来たわね……さあ、ライル君は此方へど~ぞ」


「すいません、失礼します」


 ララノアの指示に従い席に着く、テーブルの上には料理が置かれていた。肉野菜炒めに焼き魚、それと茶色のスープ? いや、これは、まさか……


「?……ライル君はお味噌汁は初めてかしら?」


 それを凝視していたので、ララノアは不思議そうに尋ねてきた。


 なんだって!? 今、味噌汁と言ったのか? 味噌があるのか? 屋敷の食事には味噌を使った料理が出て来なかったから、てっきり無いのかと思っていた。


「この里には味噌があるのですか?」


「ああ、あるというか作っている」


 エドヒルの言葉を聞いてさらに驚愕した。作ってる? 味噌を? ということは、“麹”があるってことか? まさか、種麹も作っているとは言わないよな? 少なくとも、麹菌は培養しているはず……


「どうしたの? 早く食べよう?」


 エレミアの言葉で我に返り、食事を取ることにした。


「「「森の恵みと神々の慈悲に感謝を……」」」


 三人は祈りを唱え、食べ始めた。俺は軽く眼を瞑り心の中で「いただきます」と言った。


 魔力で木製のフォークを操り、肉野菜炒めを食べる……すると、口の中にピリッとした辛さが広がった。この辛さは、胡椒か?


「すいません、この料理には胡椒が使われてますよね? この胡椒はどこで手に入れてるんですか?」


「ん? 胡椒? それならこの里で作った物を使ってるよ……あっ、お母さん、醤油とって……ライル君、焼き魚にこれ掛けると美味しいよ」


 マジか、エルフすげぇ……そりゃそうだよな、味噌があるんだから醤油もあるよな。それとエレミア、焼き魚に醤油が合うのはよく知ってます。


 見た目ニジマスのような魚に醤油を掛けて食べる。ああ、醤油だ……うまい……ニジマスは塩焼きで清酒と共に頂きたいが、こういうのも悪くない。 ヒレ酒もいいな……ああ、酒が飲みたい……


 次は味噌汁に手を着けた。具は大根かな? 細く切ってあって、歯ごたえも良く、味が染みている。 はぅ……落ち着く……懐かしい味に舌鼓を打っていたら、


「本当に一人で食事が出来ているの?」


 と、エレミアが聞いてきた。


「ああ、ライルは器用に魔力を使い、食事をしている……見事なものだ」


 エドヒルが関心しながら答えてくれた。


「いや、エレミアさんも凄いと思いますよ。とても目が見えないとは思えません」


「まあ、自分の家だし、食事も慣れだからね、それより私の事は、さん付けじゃなくてエレミアと呼んでほしいな」


「分かりました。それじゃあ、俺の事もライルと呼んでください」


 エレミアは嬉しそうに頬笑み、


「うん! わかった、ライル」


 この後、俺は食事のお礼として蜂蜜酒と果実酒を振る舞ったのだが……途中からアンネが加わり、軽い酒盛りが始まってしまった。


 ちきしょう、俺も加わりたい……未成年は辛いよ

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