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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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17

 

「では、馬車から荷物を運び入れさせて頂きます」


 代金を支払ったヘイザルは、部下を引き連れて馬車へと向かう。俺とエレミアもそれについていくと、馬車と馬の世話を任された人と兵士らしき人達が向かい合っていた。何やらよろしくない雰囲気だ。ヘイザルもそれを感じ取ったのか、歩む速度を速めた。


「おい、貴様。上官の命令に逆らうと言うのか? 素直にそこの馬車と馬を此方に引き渡せば良いのだ! 」


「だから何度も言いますが、小官はヘイザル隊長の指揮下にありますので、いくら総司令官であらせられるジガルド卿でも、非常時以外での小官への直接的な指揮権はありませんし、それに従う必要もないと愚考致します。先ずはヘイザル隊長へ掛け合って頂きたい」


「ふん! 輜重兵の分際でこの儂の命令が聞けんとは、軍務違反として懲戒処分にでもしてやろうか? それが嫌ならさっさと寄越せ! 」


 周りの兵士よりも立派な鎧を着た男性は、どうやら偉い立場の人のようだ。ヘイザルの部下から総司令官と呼ばれていたので、彼が軍の指揮を担当しているのかな? その総司令官様が俺の馬車と馬をご所望とは、面倒な事になったな。


「これはジガルド卿。私の部下を脅すのは止めてくれませんか? それに略奪行為は軍規違反です。その馬車と馬は商工ギルドに属する商人の物。勝手に手を出されては困ります。ギルドを敵に回したいのですか? 」


「ふん! 荷物の運搬しか出来ぬ奴等が何を偉そうに…… 馬車のひとつ奪った所でギルドは何も言えやしない。我が帝国と事を構えるような愚か者ではあるまい? なに、露見しなければ良いのだ」


 確かに、只の商人である俺一人の為に、大国に喧嘩を売るような行いはしないだろうな。


「私共の後方支援があってこそ、貴官方が此度の戦に集中出来ている事をお忘れなく。それにこの馬車の持ち主は、レグラス王国にあるレインバーク領の領主が贔屓にしている商人です。何かあればすぐに貴官のした事は向こうに露呈しますよ? 今彼の国との関係が拗れるのは得策ではありません。その場合、貴官は軍法会議にかけられ、相応の罰が課せられるでしょう。そのお覚悟がありますか? 」


 ヘイザルの言葉にジガルドは悔しげに息を詰まらせる。


「しかし、貴様も分かるだろう? この馬車の有用性が。空間魔術が施された馬車だぞ? 戦に活用せずしてどうすると言うのだ! 」


「えぇ、確かにその馬車の有用性は認めます。ですが、それ一台では今の戦況を変える事は不可能です。少なくとも十台は必要であると、私は具申致します。仮にこの馬車を手に入れ、技術部で調べたとしても、実用化に至る頃にはこの戦も何らかの決着がついていると思われます」


「ぐっ…… もう良い!! 戦わず荷物運びばかりする貴様らには、戦場の事など理解出来ぬのだ! 」


 そう言い残して、ジガルドは部下の兵士を連れて去っていった。


「申し訳ありませんでした。我が軍の総司令官が迷惑をかけてしまいまして」


「いえ、結果的に何も起こらなくて良かったですよ。ありがとうございました」


「そう言って頂き、安心しました。インファネースには帝国も何かとお世話になっていますので、お互いの関係が悪くなるのは此方としても望んではいません」


 こっちもそうだよ。こんな大国と好んで敵対しようなんて奴はそうそういないだろう。だけど随分と強情な人だったね。これじゃ盗賊とさして変わらないのではないか?


「今回の戦は予期せぬ事ばかりでしたから、彼も焦っているのでしょう。何としてでもオーガを殲滅しないと、此度の前線後退という汚辱を払拭する事は出来ません。だからこそ何を仕出かすか…… この砦を出るまで警護の者をつけておきましょう」


「それは有り難いのですが、それにしたって横暴過ぎませんか? 帝国の兵士はああいう者達が多いので? 」


「そうですね、そういう輩が多いのは認めます。帝国では志願すれば誰でも兵士として採用されるのです。ここに来るまで盗賊の類いに襲われた、又は被害にあったと言う話は聞きませんでしたか? 」


 ん? 言われてみれば、帝国領に入ってからそんな話は聞いていないな。たまたまかと思ったけど、何か理由でもあるのか?


「帝国の兵は威烈だと言う噂がありますからね。態々そんな国で盗賊をやる馬鹿はいませんし、食い扶持に困ったら兵に志願すれば良いのです。命の危険はありますが、食うのには困りません。同じ危険があるのなら、盗賊よりも兵士になった方が大分ましでしょう。なのでこの国には盗賊や山賊はいないのです。その分、ガラの悪い兵士が増えてしまいましたけどね。一応軍規は守っているようですが、先程のように裏で何をやっているか分かりませんので、キッチリと教育と監視をしなくてはなりません。あのジガルド卿も腕一本でのし上がり、爵位を賜るに至ったお方です。そういう貴族は帝国には沢山います。力と功績で爵位を得た者達はひとつの失敗でいとも容易く爵位を失ってしまう事も良くあるのですよ」


 へぇ~、盗賊等がいないのは良いことだけど、兵士の素性が悪いのは如何なものか? これじゃ盗賊を雇っているようなもんだよ。

 戦争は数とも言うが、統制が取れて無ければ意味がない。その為の教育と監視なんだろうけど、上官があれではね…… ほんとに大丈夫か? 不安になってくるよ。


 しかし、強ければ爵位すらも貰えるとは、噂通りの実力主義の国なんだな。聞けば次期皇帝を決めるには特別な武闘大会を開き、その優勝者が就く事になるとか…… どんだけ強い奴が好きなんだよこの国は。

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