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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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16

 

「う~ん…… 此方としましても、これ以上は難しいですね」


「お酒や食料の値下げは応じますが、マジックバックとテントはそうもいきません。まだレグラス王国内でもそんなに生産されてはいない物をこうして帝国へ持って来ている訳ですし、そこはお願いしますよ」


「しかし、予算がですね…… 」


 そう言って渋い顔をして悩むヘイザル。かれこれもう一時間は値段交渉を続けている。戦時で苦しいのは百も承知しているが、こちらも商売で生活もある。悪いけどその金額では納得出来ない、もう少し釣り上げさせてもらうよ。


「…… 分かりました。マジックバックとテントはどうしても欲しいですから、これでどうでしょうか? 」


 そうしてヘイザルは算盤のような道具を見せてくる。ここまでが限界か? これ以上粘っても無理そうだな。


「では、この金額で了承する代わりに、此方の質問に答えてくれませんか? 」


「代金の代わりに情報を求めますか。面白い…… 良いですよ、何を聞きたいのですか? 」


「前線を後退する原因となった巨体で黒いひとつ目の魔物について、詳しく教えて下さい」


 ヘイザルは予想外といった風に目を剥き、息を飲んだ。


「成る程、既に情報は掴んでいるようですね。一体どこから漏れたのかは存じませんが、それはまだ前進基地と軍の上層部だけにしか伝わっていない情報ですよ? ライル君、貴方は只の商人ではありませんね? レグラス王国の間諜ですか? いや、ギルドカードは本物でした。商工ギルドに属している者がこんな事をしたらどうなるか分かっている筈ですし…… 」


 何だか勝手に深読みをして、勝手に思考の渦に飲まれている。


「あの…… 一応言いますが、私は間諜の類いではありませんよ。風の噂を小耳に挟みまして、興味本意で聞いただけです。だってあの帝国の軍を退けたのですよ? 興味も湧きますよ」


「そ、そうですか。いやそうですよね。そんな事になれば商工ギルドの信用は地に落ちると言うもの。しかし噂ですか…… そんな噂が流れているとは。箝口令が敷かれている筈なのですが、やはり人の口に戸は立てられないようです」


「何故、箝口令を? 」


「それは、武力を誇る帝国軍が、正体不明だとしても魔物に敗れたとなれば外聞が悪いというもの。只でさえ前線を後退した事が諸国に広まっているのに、そんな魔物もいると知られれば、これを勝機と見て周辺国が攻めてくる可能性もあります。自慢ではありませんが、この国は結構周りから警戒されていますからね。隙あらば遠慮なく仕掛けてきますよ」


 本当に自慢にはならないな。他の国もこれ以上帝国には国土を広げて欲しくは無さそうだ。何時の世も、覇権国家の誕生は許容出来るものではないし、次は自分達の国が侵略されるかもと思うと、叩ける内に叩いておかないと安心は出来ないのだろう。帝国という国は、良くも悪くも世界から注目されている国なんだな。


「ですので、これからする話も口外無用でお願いします。えっと、正体不明の魔物でしたね? 私も報告書で読んだだけで、直接姿を見た訳ではありませんが…… 我等帝国軍は順調にオーガの軍勢を圧していました。その日もまた一歩、オーガ達を後退させられると思っていたのですが、突然地面が光り出し、その光の中から例の魔物が複数体現れたのです」


「地面が光り、その中からですか? 」


「えぇ、報告書ではそう記されていました」


 ジパングと古代遺跡の島で見た、奴等が使う召喚魔術の発動現象と似ているな。


「その魔物は身長が三、四メートル程あり、体色は黒く眼はひとつ。額からは角が一本生えており、凶暴性が強いとあります。突如戦場に現れた魔物はオーガをも巻き込みながら、我が軍に突撃してきたそうです」


「オーガもですか? 」


「はい。オーガの味方かとも思いましたが、あの報告書を読む限りでは第三勢力と考えても良さそうですね。その際に多くの犠牲を出しましたが、どうにか一体だけは仕留めるのに成功しているようです」


 おぉ! 撤退しただけでなく、一体倒したのか。流石は帝国の兵士だな。ただでは転ばないね。


「しかし、死体を検分する暇も与えず、真っ黒い泥のように溶けて無くなったと書いてあります。結局、その魔物の正体は解らず、多大なる犠牲と前線の後退という不名誉な結果が残るだけとなりました。しかもその魔物達は一通り暴れて満足したのか、逃げ行く帝国軍に追い討ちもせず、背を向けて去っていったらしいのです。帝国の建国以来、こんなに馬鹿にされた記述はありません。私も報告書を読んでいて腸が煮えくり返る思いでしたよ! 」


 その時の事を思い出したのか、ヘイザルは力強く握った拳をテーブルに勢いよく叩きつけた。ドンッ! と鈍い音が部屋に響き、俺とエレミアは思わずビクリと身を震わす。それを見たヘイザルが「失礼しました」 とずれた眼鏡を指で押し直した。


 あぁ吃驚した。知性的て大人しい人かと思ったけど、やっぱり戦争国家と呼ばれる国の軍に所属しているだけはある。裏方でもこんなに迫力があるとは…… 周辺の国々もそりゃ警戒もするよ。隙があれば攻めて国力を少しでも落とそうとする気持ちも分からないでもない。

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