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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
272/812

15

 

 地図を確認しながら街道を進むこと丸三日、周囲の景色は緑豊かな土地から岩肌が剥き出す山間地帯へと変わる。道も狭くなり、ギリギリ馬車二台が並べるくらいの広さだ。


 時折、砦方面から行商人の馬車が走ってくる。その都度徐行しなくてはならないのは面倒だけど、すれ違う行商人から色々と話を伺う事も出来た。


 漸く滞っていた物資が近々纏まって送られてくるそうだ。売りに行くなら今が最後のチャンスである。それに合わせて帝都からの増援も来るらしいので、これで前線を押し返し、一気に攻め込むのでないか? と話を聞かせてくれた行商人が予測していた。


 関所にいた兵士達も、帝国兵には脳筋が多いと言っていたし、守りより攻める方が得意なのだろうか。それでオーガ達を殲滅出来るのなら良いんだけど。黒いギガンテスがどう関わってくるか、そして帝国はそれにどう対処するのかが、気になるところ。


 ◇


「見えてきたわね。あれがオーギュスト砦なの? 思ってたより小さいのね」


 前方に見えるは石造りの建物。お世辞にも強固な砦とは言えないような外観だ。だけど周りは山に囲まれ、帝都へ行くにはこの一本道を通らなければならない。それはオーガも同じ。回り込もうにも険しい山を迂回し終わる頃には体力を大分すり減らしている。監視もされているだろうから、奇襲で無い限り迂回を選ぶ馬鹿はしないと思う。だとすれば、ここは結構迎え撃つには最適な立地なのかも知れないな。


 砦の門へ近付き、門兵にギルドカードを見せて用件を伝える。


「そうか、態々インファネースからご苦労だな。今門を開ける。中へ入り少し進んだ所に広い場所があるから、其処で暫し待っててくれ。後程、担当の者に知らせて向かわせる」


「はい、承知しました」


 門兵に門を開けてもらい、言われた場所へと馬車を止めて待っていると、一人の軍服を着た男性が走ってきた。


 服は新品のようにパリッとしていて、メガネを掛けた顔付きは、如何にも軍人らしいと思える出立ちだ。少なくとも、周りにちらほらと見える兵士達よりはしっかりしてそうだ。

 しかし、あれでも兵士なのかね? 山賊と言われても信じてしまうような雰囲気だ。まるでゴロツキの集団だよ。


「お待たせ致しました。私はこの砦の兵站を担っております、ヘイザルと申します。以後お見知りおきを」


 ヘイザルと名乗る男性は、一介の商人である俺に対して、この丁寧な口調と腰の低さ。やはり見た目通りの真面目なお人柄のようだ。


「初めまして、私はライルと申します。そしてこっちがエレミアです。此方こそよろしくお願いいたします」


「では、早速商品を見せて頂いても宜しいでしょうか? 」


 挨拶が済むや否や、ヘイザルは商品の確認を行おうとする。俺はそれを了承して、ヘイザルを馬車の後ろにある扉へと連れていった。

 馬車の中に入ったヘイザルは、先ず中の広さに驚き、俺が持ち込んだ商品を確認してはまた驚いていた。忙しい人だね。


「ほぉ、これは思っていた以上の品物ですね。野菜も新鮮ですし、乾物とは言えこんな山奥で海の幸が頂けるのもうれしいです。後はお酒ですね? 素晴らしい、ここにある分全て買います。それとこのマジックバックとマジックテントも全部と…… これは洗浄の魔道具? ですか? どんな効果があるかお聞きしても? 」


 洗浄の魔道具の使い方をヘイザルに教えると、おぉ!! と感嘆の声を上げた。


「これは良いですね! 前進基地では此処の砦と違い、風呂に入る余裕も洗濯をしている暇もありませんから、とても助かります。ジパングの酒も珍しく他のも質が高いので、兵達の士気上昇にもなりますし、このマジックバックも物資の運搬に大いに役立ちますね。マジックテントは野営の準備時間を大幅に短縮させ、軍の進攻速度が上がりますよ。取り合えず、在るだけ頂きたいですね」


 興奮しているのか、ヘイザルの口数が多くなる。


「喜んでもらえて何よりです。ところで少し小耳に挟んだのですが、増援が来るとか…… 」


「えぇ、隠すような事でもありませんから言いますが、もうすぐ帝都から騎士団の増援部隊が派遣されるとの通達がありました。しかも大量の物資を持って。その騎士団が到着次第、オーガに奪われた前線を取り返し、更に押し込んで攻め立てるつもりです。そしてそれを実現させるにはしっかりとした兵站が必要不可欠。その重要な大役を私は任されているのです。なので行商人に頼み、物資が滞っているとの噂を流し、こうして商人から出来るだけ多くの物資を集めているのです。そのお陰で此方の人員を割く事なく物資を確保できました。後はこの大量の物資の運搬と、これから来る騎士団の進攻速度をどう速めるかが目下の課題だったのですが、貴方のお陰で何とかなりそうですよ」


 成る程、人員を不必要に減らさず物資を調達し、来るべき反撃のチャンスに備えていたのか。


「これから代金を用意させますので、中に入ってお待ち下さい……あぁ、そこの君! この馬車と馬の世話を頼みます。それと君は金庫から金を出して私の所まで持って来て下さい」


 手早く部下に指示を送り、「さあ、此方です」と先導して砦内の応接室らしい部屋へと案内された。


 さて、此処からは商人としての戦いが始まる。向こうは出来るだけ安く仕入れようとしてくる筈。だけどそうはいかない、こっちも趣味で商売やってるんじゃないからね。一リランでも高く売ってやるぞ。

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