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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
271/812

14

 

 インファネースを出て五日、俺達は国境にある関所へと到着した。ここを抜ければアスタリク帝国だ。


 街道を塞ぐ関所には二人の帝国兵らしき人物が槍を持ち、待ち構えていた。


「そこの馬車よ、止まれ! 此処から先は帝国領である。お前らは何者で何用があって此処を通らんとする。答えよ! 」


 俺とエレミアは馬車から降り、帝国兵に会釈する。それを見た帝国兵は敵対の意思は無しと判断したのか、此方へ近付いてきた。


「お勤めお疲れ様です。私は一介の商人でして、隣にいるのも同じ商会の者です。なにぶんこの様な成りですので、私の警護も兼ねております。帝国へは商品を売りに来ました。何でも魔物達と戦っておられるとか…… 最前線では物資が滞っているとの噂を聞き、これは商機と思いまして」


 そう言って俺は帝国兵へ商工ギルドのギルドカードを渡す。俺の魔力で詳細が浮かび上がったギルドカードを確認した帝国兵は、ほぅ、と軽く言葉を溢した。


「その若さで店を持つとは、中々に商才があるのだな。しかも発展著しいと噂のあのインファネースとは…… 馬車の中を軽く改めさせて貰うが、問題はあるか? 」


「いえ、御座いません。どうぞお調べください」


 帝国兵の二人は馬車の後ろへ回り、中を確認しようと扉を開いた。


「おぉ! 馬車の外観と反して中はえらく広いな。これがかの空間魔術か、流石は噂に名高いインファネース。こんな馬車があるとは、凄いな…… 」


「おい、感心してないで働け。食料と調味料に…… これは酒か? 後は生活用品の類いに魔道具らしき物が数種類――か。特に怪しい物は無いようだな」


 馬車の荷物を調べ終わり出てきた帝国兵は問題無しと判断し、俺は彼等に通行税を支払う。


「あれだけあれば、また暫くはオーガ共と戦えるな。頼んだぞ、必ず戦場へ届けてくれよ」


「分かりました。此方も商売ですので…… そうだ、よろしければ一本どうです? ジパングのお酒ですよ」


 エレミアに頼んで、馬車の中から大吟醸の酒瓶を渡すと、兵士は今日一の笑顔を浮かべて受け取った。


「ほんとか!? こりゃ有り難い。ジパングの酒か、楽しみだな。気前の良い商人は大歓迎だ。だが気を付けろよ、此処等はまだ安全だが帝都方面は今何かと物騒だからな。お前も噂で聞いたから知っているだろうが、オーガ共から手痛い反撃をくらってしまい、上層部の機嫌は最高に悪い。余計は事に巻き込まれないよう注意しろよ。中には変ないちゃもんをつけて商品を奪おうとする奴もいるぞ。俺が言うのも何だが、帝国の兵士は血の気の多い乱暴者が目立つ。話が通用しない奴もいるし、気を付けろよ」


「脳筋な人達が多いと言う事ですか? 」


「のうきん? なんだそれは? 」


「脳みそまで筋肉で出来ているんじゃないかと言うくらい馬鹿な人の事です」


 それを聞いた兵士は思わずといった感じで吹き出した。


「ぶふっ!? ハハ! 確かに、帝国兵には脳筋が多いな。だが実力は確かだ」


「ご忠告ありがとうございます。それではこれで失礼します」


「おうよ、こっちも珍しい酒をどうもな。商売が上手くいくよう祈っている。頑張れよ」


 俺とエレミアは御者台に戻り、馬車を走らせ関所を抜けた。十分に距離を進めてから、若干不機嫌そうな声でエレミアが話し掛けてきた。


「何もあそこまで下手にでる必要は無かったんじゃない? 売り物のお酒も一本上げちゃうし」


「何事も円滑に事が進むに越したことはないよ。それに良い情報も貰えたし、全くの無駄という訳でな無かっただろ? 」


 機嫌が良くなり口が軽くなったあの兵士から、軍の内情の一端が知れたのは幸いだった。さして重要な内容では無いにしろ、前線を後退した事により、お偉いさん方は大分苛ついているようだ。上のそういう空気は下に伝わりやすいもの。余計な刺激は与えないよう注意しないとな。

 それを考慮すれば中規模な町へは出来るだけ立ち寄らない方が良いのかも知れない。領主や貴族がいる可能性もあるし、変に絡まれて余計な時間が掛かるのは避けたい。ここは真っ直ぐ帝都へ目指すとしよう。


 ◇


 関所を抜けて二日、漸く帝都付近に辿り着いた。寄り道せずに進んでも、インファネースから一週間は掛かってしまった。予想よりもかなり遅れているな。初めての場所で、地図を確認しながらでは遅くなるのも無理はない。ここに来るまで、村にいた行商人達から聞いた噂では、どうにか今の前線を維持しているようだけど、それも時間の問題だと言っていた。


 帝都に寄る暇は無さそうだ。このまま前線拠点へ向かうとしよう。あぁ…… あの紅茶の茶葉だけでも手に入れたかったな。


「別に帝都は逃げやしないんだから、事が済んでからゆっくりと観光しましょ? その為に寄り道している場合ではないわ」


「あぁ、そうだな。残念だけど、帝都は後回しだ」


 エレミアに説き伏せられ、前線拠点であるオーギュスト砦へ進路を変更した。


『えぇ~! あのでっかい街には行かないの? ちぇっ、楽しみにしてたのにな~ 』


『仕方ねぇだろ? 時間がねぇみたいだからさ。俺様も帝国の城に忍び込むチャンスを我慢してるんだ。お前もちっとは我慢しやがれ』


『んなこと言われんでも分かってるわい!! レイスの癖に生意気だぞ! 』


『えっ!? レイスは関係なくね? 』


 ぎゃあぎゃあと魔力収納内で騒ぐアンネとテオドアを尻目に、俺は後ろ髪を引かれる思いで、帝都を通り過ぎるのだった。

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