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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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12

 

 インファネースを出発して三日、特にトラブルもなく旅は順調そのものだ。流石にこれだけ旅をしていれば馴れてくるというもの。馬車を引くルーサも上機嫌で足取り軽く、天気も良好。絶好の旅日よりだね。


 空間魔術で馬車の内部を拡張してあるので、態々外で野宿する必要はないし、食事は魔力収納内でエレミアが作った料理を馬車の中で食べれば良い。衛生面も魔力収納にある家の風呂にエレミアは入っているが、俺にはそれが出来ないので魔力支配のスキルで体の垢や汚れを取り除いている。これで十分綺麗になるんだけど、お風呂に入った後のサッパリ感がないので物足りなさを覚える。あぁ、また温泉に入りたいよ。


 アスタリク帝国迄は往復で最低でも半月は掛かると見越している。向こうの戦況も考慮すれば、インファネースに戻ってくる頃には一月は経っているだろう。

 その間、妖精達への報酬の支払いは母さんに頼んであるけど、大丈夫かな? 妖精が住むフェアヴィレッジと繋ぐ転移門は、妖精のサイズに合わせて作ってあるので、どうやってお酒の入った樽やお菓子を運ぶのだろうか? 参ったな…… 妖精達が大丈夫だと言うのでつい勢いで頼んだけど、そこまで考えてなかった。


『だいじょ~ぶ! あたし程じゃないけど、あの子達も精霊魔法が使えるのよ? 空間の精霊の力を使えば楽勝よ! 』


『それは、フェアヴィレッジへと空間を繋ぐって事だよな? それじゃあ、転移門は必要だったのか? 精霊魔法を使えば自由にインファネースへ来れるんだろ?』


 それを聞いたアンネは、やれやれと首を振り、まるで出来の悪い子供でも見るような眼差しを浮かべた。


『話はきちんと聞きなさいよね。あたし程ではないって言ったでしょ? あの子達の魔力量ではそんな頻繁に多用出来ないのよ。一口に精霊と言っても色んな種類がいて、力を借りる為に渡す魔力量も違ってくる。その中でも空間の精霊はかなりの魔力を渡さないといけないの。だったら転移門を利用した方が良いって訳』


 へぇ~、全種族中トップクラスの魔力量を誇る妖精でもそんなに使えない精霊魔法を、平気な顔して多用するアンネは本当に凄いんだな。そのアンネにも驚かれる俺の魔力総量は如何程のものなのか? そりゃ妖精達に人間かどうか疑われもするよ。


 そう考えたら、何だか不安になってきた。俺は本当に人間なんだよな? 魔力濃度が濃い場所では普通の動物が魔物になる程の影響が出る。なら人間は? 妖精や龍が驚く程の魔力を内蔵しているんだ、人体に悪影響を及ぼす危険性は無いとは言い切れない。


『なぁ、アンネ。今さらだけど、人間が大量の魔力を持つのはどうなんだ? 長時間に渡って魔力濃度が濃い場所で過ごしたら何か影響が出るように、内にある魔力も量によっては何かしらの危険性があるとか? 』


『ん? そりゃ危ないわよ。動物が魔獣になるのよ? 人間だって例外じゃないわ』


 はい? てことは…… 俺も危ないんじゃないか? その内に何かしらの異常が発生する可能性が?


『まったく…… それだけだとライルに不安しか残らないではないか。言葉足らずが過ぎるぞ、この羽虫め』


『にゃにお~! これからちゃんと言う所だったのよ』


 アンネとギルが俺を置いて、また言い争いを始めた。あの~…… 出来れば説明をお願いしたいのですが?


『うむ。そもそも一般的な生物はそんなに魔力を持つことはできない仕組みになっているのだ。異世界の知識にもあるように、生物が生きるために必要な酸素も過剰に集まれば、その身を破壊する毒となる。それと同じで許容範囲を越えた魔力をもつ事は死を意味する。だからこそ、生きる為に急激な変化を遂げる必要がある。それが魔獣化や魔物化と呼ばれる現象なのだ。分かりやすく言うのなら、“進化” と言ったところか』


 成る程、進化か。魔力が生物に与える影響は理解出来た。人間も例外ではないと言うのなら、魔力収納にいるハニービィと馬のルーサ、鶏達、そして様々な植物達の変化も頷ける。その場所に適応した存在へと変化する。それは進化と呼べるものなのかも知れない。


『だが、いくら肉体が強化されようとも、内側から蝕む魔力には意味を為さない。新しく魔力を溜め込む場所が必要になる。それが魔核だ。この魔核が形成される事により、魔力による肉体の崩壊を防ぎ、尚且つ自由に操る事が可能になる。これは魔獣や魔物の話だが、なら人間はどうなのか? 大量の魔力を取り込み、魔核を形成した人間がどうなったか…… それは既に結果は出ているな』


『…… ヴァンパイアか』


 テオドアが苦々しい顔で呟き、ギルは肯定の意を表すように頷いた。


『なら俺もその内ヴァンパイアになるって言うのか? それと長く魔力収納にいるエレミアにも影響は? 』


『まぁ落ち着け。元から魔力との親和性が高い者はそのような影響は受けない。神の世界から遣わされた種族であるエルフ、ドワーフ、人魚、有翼人、そしてそこの羽虫と我を含めた龍族は、細胞の造りが他の生物とは異なるのだ。お前もスキルで調べたから分かるであろう? 我等の肉体の半分は魔力で形成されている。それは、細胞のひとつひとつが肉と魔力で出来ているということ。差し詰め、“魔力細胞”とでも呼ぼうか。だからこそ我等は魔力による影響は受けないのだ』


 魔力細胞…… 体の作りが人間とは根本的に違う。だから数百年、数千年と生きていられるのか。


『そして彼の方に選ばれし者、ライルよ。お前もその強大な魔力を扱う為、スキルの力により我等と同じ魔力細胞へと作り変わっている途中なのだ。気付かなかったか? 生まれてから今まで、お前の肉体は徐々にゆっくりとその膨大な魔力に馴染むよう変化していることに』


 え? それじゃ…… ギルの話が本当なら、俺は人間でなくなって来ている?

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