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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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10

 妖精達が街に来てもう一月が経つ。その間にカーミラの隷属魔術を掛けられていた人を二人、妖精が発見してくれた。


 だがしかし、隷属魔術で無理矢理操られ、この街の情報収集を命じられていただけで、この人達からはカーミラに関する詳しい情報は得られなかった。


「なによ~、思ったよりいないじゃない」

「これじゃあ、あの甘いお酒が沢山貰えないね」

「どうなってんのよ!」


 目的の者があまりに現れないので、特別報酬のデザートワインが貰えずに不満を顕にする妖精達。


 文句を言ってるけど、街の人達からお菓子や果実酒等を貰ってるから別に良いんじゃないか? デザートワインを買った人にすり寄って一緒に飲んだりしているのも、俺は知っているぞ。


 う~ん、妖精達をインファネースに投入した事で警戒されてしまったか? まぁそれならそれで、街の安全に繋がるから良いんだけどさ。


『…… やっと形になってきた。後はこの魔術を施した魔道具を量産すれば、ゼパルダのような化け物に対抗できる筈』


 魔力収納内にある家の地下研究室に籠っていたリリィが、自動人形であるアイリスから授かった破壊魔術の解読と理解を終えて上がってきた。

 リリィの集中力は凄まじく、妖精郷フェアヴィレッジで大勢の妖精達とギルが魔力収納の中で暴れていた時も、ひたすら研究に没頭していた。食事も地下室に運ばないと食べるのを忘れるくらいだ。流石は魔術界の異端児と呼ばれているだけはある。


 早速リリィの教えを受けて、俺も術式の理解を深めようと勉強を開始する。完璧に術式を扱えるようになるまでもう暫く掛かりそうだ。教えを受けてもこれだけ難しいのに、この短時間で術式だけを解読して使えるようになったリリィは、正に天才と言っても過言ではない。


 一通りリリィは講義をした後、眠いと言って魔力収納内にある家のベッドで存分に惰眠を貪っている。今まで頑張っていた分、思いっきり休むつもりのようだ。術式の事で分からない所があったらギルにでも聞くとするか。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日も店に来る客は多くもなく、かといって少なくもなく。片隅のテーブル席には何時もの人達が寛ぎながら他愛のない世間話で盛り上がっている。平穏無事な日常風景だ。ゆったりと流れる時間の中で、こっくりこっくりと船をこいでいると、突然ポケットに入れていたマナフォンが震え出す。


 うぉ! と変な声を漏らしてビクリと体が跳ねた俺は、寝ぼけ眼でマナフォンに出た。


「ふぁい…… もしもし? どなたですか? 」


「おや? お休みの所すみません。カルネラです。どうしてもお伝えしたい事があり連絡致しました」


 うん? カルネラ…… ? あっ! カルネラ司教か! やばいやばい、すっかり寝惚けていたよ。


「あぁ、カルネラ司教様。失礼しました。少し居眠りしていたもので…… それで、伝えたいこととは? 」


「ハハ、そちらは何事もないようで安心しました。それでですね、ライル君はアスタリク帝国とオーガキング率いるオーガの軍団との争いはご存知ですよね? 」


 あぁ、確かそんな話をクレス達から聞いたような覚えがある。帝国の軍事力ならオーガ達を倒せるだろうとも言っていたな。


「実は…… そのアスタリク帝国がオーガ達に押されて劣性になっているとの報告がありまして。それだけなら別にライル君にお伝えする事では無かったのですが、その原因が問題でして…… 」


 えっ? 帝国ってのは戦争国家とも呼ばれる程争いが得意な列強の一つじゃなかったっけ? それがオーガ達に苦戦しているだって?


「一体何があったんですか? 」


「私も帝国にいる神官から報告を受けただけで、詳しくは存じ上げておりませんが…… 正体不明の巨大で黒いひとつ目の魔物が突如複数現れ、大勢の帝国兵士の命を奪っていったらしいのです。そのせいで帝国は前線を後退せざる得ない状況に陥りました。ライル君からジパングでの事を聞いていましたから、もしかしてと思いまして、こうして連絡するに至った次第です」


 巨大でひとつ目と言ったら、ギガンテスか? でも黒いってのは知らないな。ギガンテスの肌は灰色だった筈だ。


「そのひとつ目の魔物には、他に特徴はあるか聞いていませんか? 」


「そうですね…… 凄まじい再生力だと報告があります。それと、体を傷付けた時、血が一滴も流れず、とびちった肉片は溶けて無くなったとも聞いていますね」


 これは間違いなさそうだ。カーミラめ、ムウナの細胞をギガンテスに組み込みやがったな。ゼパルダのように硬い肉体ではないのがせめてもの救いか。それでも厄介な存在には変わりないけど。


「連絡して下さりありがとうございます。恐らくカーミラが関わっていると思います」


「やはりそうでしたか。それで、ライル君はアスタリク帝国に赴くのですか? 」


「はい。少しでもカーミラの手掛かりが掴める可能性があるのなら、行ってみようかと考えています」


「でしたら、困った事がありましたら帝国にある教会を訪ねて下さい。力を貸すよう連絡しておきます。教会に訪れた際には私が渡した教会の証しをお見せ頂ければ通じますので」


「お心遣い感謝致します。助力が必要になりましたなら、訪ねさせて頂きます」


「くれぐれもお気をつけて。貴方の行く先に神のご加護がありますよう」


 マナフォンを切り、深い溜め息を吐く。カーミラが遂に直接争いに介入してきたか……

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