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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十二幕】戦争国家と動き出した陰謀
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8

 

 あの衝撃的な宴を終えた翌日、俺達はアンネの精霊魔法によりインファネースに戻り、もう片方の転移門を店の屋根裏に設置した。妖精達には、ハニービィと同じように屋根裏から出入りさせた方が良いと思ったからだ。


 しかし昨日はあまり眠れなかったな。皆には悪いが少し眠らせてもらい、起きた時にはもう午後を回っていた。


 俺が寝ている間に、妖精達は既にインファネースに来ていて好き勝手に飛び回っているらしい。一応、言いつけ通りに人間達へ悪戯は仕掛けていないが、それが何時まで続くのやら。少し心配ではある。


 エレミアに街の様子を伺ってみたけど、突如現れた妖精達に街の住人や冒険者達は驚いていたが、領主から先触れがあったのでパニックになる程ではなかった。午後になった今ではかなり落ち着いているようだ。随分とインファネースの人達はこういう事に慣れてきているな。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 妖精達がインファネースに訪れるようになって数日…… 妖精達は俺の予想よりも早くこの街に馴染んでいった。


 朝になると転移門を通じて、フェアヴィレッジからやって来て店の屋根裏にある天窓から外へ飛んでいく。そしてそのまま街に駐在する者もいれば、フェアヴィレッジに戻る者もいる。今の所大きな問題もないようで、一先ずは安心だ。


 肝心のカーミラの手先なんだけど、まだ見つかってはいない。街の人間を全員調べた訳ではないが、ちょっとだけ胸を撫で下ろした。だけど妖精達は話が違う! と文句を言ってくる。それもそのはず、件の人物を見つけたら特別報酬を渡すと言ってあるからな。見つからなければ報酬も無しである。でも謝礼として定期的にフェアヴィレッジに甘味やお酒を送るんだから別に良いだろ?



「やっほぉ! デイジー! 紅茶飲んでんの? あたしも交ぜて~ 」


「あら? 確か、ピッケちゃんだったかしらぁん? 先日はありがとね。あれだけの上等な薬草を持ってきてくれて助かったわぁ♪ またお願いしてもいいかしらぁ? 」


「あんなもんでいいならお安い御用よ! でも、ちゃんとお菓子は用意してよね。今度は三角のケーキじゃなくて、大きくて丸いのがいいな♪ 」


「ウフフ、分かったわ。今度買ってきてあげる」


「やったぜい! ふへへ、これであの丸いケーキの真ん中に思いっきり飛び込むという夢が叶うぞ!! 」


 やっすい夢だな。店の片隅にあるテーブルで、薬屋のデイジーと妖精が紅茶とクッキーを一緒に楽しんでいる。いつの間に仲良くなったんだか。


「まったく、この街に妖精共が来るとはのぉ…… 厄介な事じゃ」


 ブツブツと呟きながら来店してきたのは、鍛冶屋でガンテを鍛えているドワーフのドルムだった。如何にも不機嫌ですって感じだ。


「いらっしゃいませ、ドルムさん。何時ものお酒ですか? 」


「おう! 頼むぞい。しかし、必要なのは分かっているんじゃが…… 何とかならんか? こうも妖精が飛び回っていては集中出来んわい」


「一応、街の住人達には悪戯はしないように言ってはいるんでけどね」


「はん! 連中が素直に聞くとは思えんがのぉ。ふぅ…… 住み良い街じゃと思っておったが、残念じゃよ」


 ガックリと肩を落とすドルムに申し訳なさを感じるけど、インファネースの安全の為に、どうにか我慢してもらうしかない。と、ここで一人の妖精がドルムを見つけては指を指し、大きな声を上げた。


「あぁー! ドワーフだぁ! ねぇ、ねぇ? その髭頂戴、あたしのハンモックそろそろ新しくしたいからさ」


「ふざけるな!! この髭はワシらの誇り、それをそんな事に使いよって…… もう二度とワシらの誇りは奪わせんぞ! 」


「えぇ~! いいじゃん、ケチ~。どうせまた生えてくんでしょ? 」


「遊びで奪われたくないと言っとるんじゃ! 」


 妖精が来るようになって俺の店も賑やかになった。だけど…… こんな賑やかさは求めていない。どうせなら沢山の客で賑わってほしかった。


「酒でも飲んでないとやっとれんわい!! 」


 不機嫌を隠そうともせず、ドルムは購入した酒を全部マジックバッグへ乱暴に詰めては店を出ていった。


 それと入れ替わりに西商店街の代表であるマーマル商会の会長、ティリアが入ってくる。


「よぉ! どうだい、調子は? こっちは妖精のお陰で儲けさせてもらってるよ! 」


 そう、お菓子をその場で食べられる、西商店街の喫茶店には多数の妖精が訪れる。その目的は言わずもがな、お菓子である。甘い物のある所に妖精は群がってくる習性でもあるんだろうか。


「最初は戸惑ったけど、今じゃ妖精と一緒にお菓子が食える喫茶店として有名だぜ。その噂を聞き付けて他領からも足を運んでくる奴等もいる。あの妖精達もライルが引き入れたんだろ? 他にもエルフ、ドワーフ、人魚ときたもんだ。どんだけ顔が広いんだよ、お次は有翼人でも連れてくる気か? 」


「ハハ…… まぁ、その内に会いに行きたいとは思っていますよ。でも、場所が場所だけに中々難しくて」


 彼等は大陸の東に位置するコウリアン山脈の山頂に住んでいると言う。行くのならキッチリと準備をしなくては、山登りを舐めてはいけないからね。


 でも、ティリアの所は繁盛していて羨ましいよ。はぁ…… 俺の店にも妖精様のご利益が無いものか。

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