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女王代理であるリーネがなかなか決断出来ずにいると、話を聞いていた他の妖精達が群がってきた。
「なになに~? 人間の街に行くの~? 」
「久しぶりに人間で遊びたいね~ 」
「ねぇ、またあのお酒出してよぉ」
小うるさいのが集まってきたな。おいこら! そんな所を調べても何もないぞ。
「人間、これあたし達で作ったの~。友好のしるしだよ! 」
別の妖精が木の実と蔦で作成したネックレスを俺の首へ掛けてくる。お土産のデザートワインが効いたのか、歓迎してくれてるのかな? いや、ネックレスを渡した妖精が此方をチラチラと様子を伺っている。
俺は魔力収納から果実酒が入った酒瓶を一つ取り出してその妖精に差し出した。それを妖精は嬉しそうに受け取った後、蓋を外して匂いを嗅ぎ、チッ! と舌打ちをする。
「ねぇ、どうだったの? ちゃんと貰えた? 」
「駄目、違うお酒だった。せっかく作ったのに、ケチな人間だよ」
「な~んだ。気の効かない人間だよね~ 」
おい、聞こえてるぞ。やっぱりデザートワインが目当てですり寄って来たのか。
「今、リーネとも話していた所でね。俺に協力してくれたら、報酬として渡すけど…… どうする? 」
「それって、人間の街で何かするってこと? 何すんの? 」
「俺の住んでいる街の中で、魂が視えない人間、隷属魔術が施されている人間を見付けたらすぐに報告して貰いたいんだ」
「ふ~ん、そんなんであのお酒をくれるんだったら、別に良いよね? 」
「それに人間の街にも行けるしね。久しぶりに悪戯しちゃおうよ」
「いいね! あたし人間の子供と遊びたいな! 」
協力してくれそうな雰囲気だけど、何だか危なっかしいな。
「ちょっと待ってくれ。出来れば悪戯は無しの方向でお願いしたいんだけど」
慌ててそう頼むと、妖精達は信じられない! と言いたげに驚いた表情を浮かべた。
「はあ!? それ本気で言ってるの? あたし達の存在意義を否定するつもり? 」
「悪戯禁止って無理だよね~。人間に呼吸するなって言ってるようなもんだよ」
「悪戯しない妖精は妖精じゃねぇやい!! 」
そりゃ大袈裟すぎやしませんかね? まいったな…… これじゃ妖精達の助力を得られたとしても、インファネースが悪戯の被害にあってしまう。それではあまり意味がない。
「じゃあこうしよう、街や街の人達には悪戯をしないで欲しい。その代わり、さっき言った魂が視えない人間と隷属魔術が施されている人間には悪戯をしても良い。さらにその人間を見付けてくれた妖精には特別報酬として、人間サイズの酒瓶に詰められたデザートワインをあげるよ」
「おぉ! マジで!? 」
「太っ腹~♪ 」
「働かざる者、飲むべからずってやつ? 」
「でも此処にいるよか楽しそうではあるよね? 」
伝言ゲームのように話が広まって行き、妖精達が浮かれ始めている中で、女王代理であるリーネが妖精達に問い掛ける。
「皆さん! あたしはこの話を受けても良いとは思っていますが、異議はありませんか? 」
「別に良いんじゃない? あのお酒がもらえるんならさ」
「うへへ、いっぱい見付けて沢山貰ってやるぞぉ~ 」
「でも悪戯しちゃ駄目っていうのがねぇ…… 」
「それは普通の人間にはって事でしょ? その、なんだっけ? 魂が視えない人間と隷属魔術が掛かっている人間にはしても良いと言ってたよ? 」
「人魚もいるんだよね? あたし会ってみたい! 」
そうして暫く妖精達の言葉に耳を傾けていたリーネがくるりと踵を返し、此方へ近付いて来る。
「特に反対意見もありませんでしたので、その話を受けてみようかと思います。だけど此処の管理もありますので、全員を街へ送る事は出来ませんよ? 」
「ありがとうございます。どのくらいの数なら大丈夫なのですか? 」
「そうですね…… あたし達妖精の数はざっと八百人程ですので、二~三百ぐらいなら大丈夫ですよ」
さ、三百か…… 思ったより多いな。領主の許可は頂いてるとしても、いきなりそんな大人数の妖精がインファネースに押し掛けて来たら、街中がパニックになりかねない。
「ありがたいのですが、いきなりその人数は多いですね。一週間ないし一月に百人ずつで回すのはどうでしょうか? 」
「成る程、そうすれば皆公平に街へ行ける訳ですね? 分かりました。一週間交代で百人の妖精を街へ送りましょう。転移門は設置してくれるんですよね? 」
「勿論です。妖精しか通れないように、小さめの転移門をお作りします」
早速、妖精サイズのミニ転移門を作り、マナの大樹の枝に設置する。後はもう片方を店の方に設置すれば、妖精だけが自由にインファネースとフェアヴィレッジを行き来できるようになる。
リーネに聞いた所、妖精は皆精霊魔法が使えるが、その場にいない精霊の力は借りられないらしい。
「本来、精霊魔法とは周囲にいる精霊に自分の魔力を渡す事で力を貸して貰う魔法なのです。エルフ、ドワーフ、人魚、有翼人も精霊魔法の素質はありますが、力を貸してくれる精霊は制限されています。ですが妖精は全ての精霊の力を扱えるのです」
「でも、自分の周りに目当ての精霊がいなければその精霊魔法は使えないんですよね? アンネみたいに呼び出せる訳ではないのか」
「女王様には “精霊支配” というスキルがありますから、それが可能なのです。普通は出来ませんよ」
へぇ、流石は妖精女王だな。
「へっへーん! どうよ? あたしってばすんごいのだ!! 尊敬しても良いんだよ? 」
アンネはこれでもかと言うほどのドヤ顔を披露している。これがなければ素直に尊敬できたのにな……