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「はじめまして、俺はライルと言います。この度は妖精の皆様にお願いがあって来ました」
「はい? 女王様が連れてきた人間? あたし達にお願いとはなんですか? と言うかあなた本当に人間なの? 」
そんなに人間に見えないのかなぁ…… 何だか自信を無くしてしまうよ。
不思議そうに見詰める女王代理の妖精に、これまであった事を伝え、力を貸して欲しい旨を説明した。
「ふ~ん、それであたし達の目が必要なのですね。ここに来た目的は分かったけど、これ以上仕事は増やしたくないのよね~」
アンネが言っていた通り、素直に協力してくれる気はなさそうだ。なら、協力したいと思わせれば良い。
「そうですか…… それはそうと妖精の皆様にお土産をご用意致しましたので、どうぞお受け取り下さい」
「え!? お土産! 」
おぉ、目に見えて態度が変わったな。他の妖精達もお土産と聞いてわらわらと集まってきた。現金な奴等だ。
「ん? ねぇ、ライル…… そのお土産ってまさか…… 」
アンネは俺が用意したお土産について思い当たる節があるのか、魚のように口をパクパクさせ、わなわなと震えだした。
俺は魔力収納からデザートワインが入っている、妖精サイズに加工した酒瓶を一本取り出した。それを受け取った女王代理は瓶の蓋を外して香りを嗅ぐと、カッと目を見開き、瓶に口を当てそのままデザートワインを一口飲む。
「こ、これは!? 酒精が強いのに関わらず、この果実が凝縮された濃厚な甘さ! こんな飲み物があったとは…… 人間、恐るべし!! 」
うん、どうやらデザートワインはお気に召したようだ。 女王代理は頬を赤く染めて興奮している。その反対に、アンネは青ざめて硬直しているけど、放って置いても問題はないだろう。
「あ~!!! リーネだけズルい!! 」
「あたし達にも飲ませろ!! 」
「そうだ! そうだ! 」
女王代理の様子を見ていた他の妖精達が自分もと喚き出す。しかし女王代理は誰にも渡さないと、しっかり酒瓶を抱えて離そうとはしない。
「まぁまぁ、ちゃんと人数分あるから心配しないで」
俺は人数分のデザートワインと木で作ったグラスを用意した。その刹那、妖精達が我先にとグラスを手に取り、デザートワインを注いでは飲んでいく。
「な、なんだこりゃー! 」
「こんなのはじめて~♪ 」
「キツいけどあま~い! 」
「香りも凄く良いよ」
「はぁ~…… これなら毎日でも飲みたいよぉ」
きゃいきゃいと騒ぎながらデザートワインを楽しむ妖精達。さて、此処からが正念場だ。今も大事そうにデザートワインを飲んでいる女王代理に再度話し掛ける。
「どうです? お味の方は気に入りましたか? 」
「え? え、えぇ。大変美味しく頂いています」
「それは良かった。それで提案なんですけど、もし協力してくれるのなら、それを含めて果実酒、蜂蜜酒を定期的にご用意しますよ」
蜂蜜酒!? と妖精達は色めき立つ。だが、それに待ったをかけたのが、硬直状態から脱したアンネだった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!! 蜂蜜酒も? あたしの蜂蜜酒もあげちゃうの? それじゃあ、あたしの飲む分が減っちゃうじゃないのさ! 」
「アンネ…… お前だけ贅沢するのは良くないだろ? 特に女王代理には迷惑を掛けてる訳だし、これぐらいはしないと他の妖精に申し訳が立たないんじゃないか? 」
俺のこの言葉に妖精達は、
「良く言った!! 」
「もっと言ってやって! 」
「横暴な女王様を許すなー! 」
「そうだ! そうだ! 」
と、やんややんや言い出した。
「うっさい!! この! あたしがライルと出会ってなければこんなに旨い酒は飲めなかったんだからね! 感謝こそされども文句を言われる覚えはないぞぉ!! 」
アンネと他の妖精達が何やら言い争っている間に、こっちは女王代理と話を詰めてしまおう。
「それで、返事はお決まりですか? 女王代理様」
「リーネと呼んでください。あたしも貴方の事をライルとお呼びしたいので」
女王代理、もといリーネはそう言うと少し考える素振りを見せる。
「もっと詳しく聞かせて下さい。定期的とはどのくらいですか? それとあたし達に頼むと言う仕事の内容は? 」
「はい、先程言ったお酒を一月に一度纏めてお持ちします。その他にも、魔力収納内で育てた果物で作ったジャムや蜂蜜クッキー等のお菓子も用意出来ます。俺が貴女方に頼みたいのはインファネースにいる人達を視てもらいたいのです。妖精の目で魂が視えない者、隷属魔術が掛けられている者を見付けたら、すぐに報告して頂きたい」
「成る程、それがカーミラとか言う者の仲間なのですね? その者達をあたし達に見分けて欲しいと…… あたし達には本来の使命により、この場所をあまり留守には出来ません。それに人間の街へ行くのですよね? あたし達が行っても大丈夫なのですか? 」
「使命に支障が出ない人数で良いんです。それとインファネースの領主には既に許可を頂いていますので、街に行く分には何も問題はありません。インファネースにはエルフ、ドワーフ、人魚も普通にいますので、街の人達も他の所に比べれば慣れているはず。そう騒ぎにはならないと思います。どうか力を貸してくれませんか? 」
難しい顔をしてリーネは悩んでいる。恐らく使命と報酬で揺れ動いているのだろう。どうにか両立出来ないかと一生懸命に頭を絞っているようだ。