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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
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25

 

 ゼパルダの魂を保護していた魔力結晶が完全に消滅した。胸に大きな穴を開けたゼパルダの体は地面に倒れ、黒いヘドロのようにドロドロと溶けて消えていく。


「あぁ、ムウナの…… きえた」


 消え行くゼパルダの体を、ムウナは残念そうに見詰めていた。何故そこまでゼパルダに執着していたのか、後で聞く必要があるな。


 とにかく、ゼパルダは死んだ。俺達は勝ったんだ。


「シ、シャロット…… さ、ま…… ご、無事、です、か? 」


「えぇ…… 皆無事ですわ。これもアイリスさんのお蔭ですわよ」


 倒れているアイリスをシャロットは、優しく抱き抱える。



「おや? ゼパルダさんは殺られてしまったようですね」


 今だにギルと膠着状態が続いているダールグリフがやれやれと首を振り、呆れていた。ゼパルダの死に何も思わないのだろうか?


「仲間が死んだと言うのに、随分と余裕だな? 」


「あれは仲間などではありませんよ。ただの被験体です。今回の実験で実に良い資料となりました。これを参考にし、更に強力な兵士が作れます」


 は? ゼパルダは被験体? おいおい、こんなのを量産されたら困るってレベルじゃないぞ。


「フン、貴様とのお喋りもいい加減飽きてきた所だ。そろそろ決着をつけようぞ」


「ほぅ、何か策でもおありなのですか? それは楽しみですねぇ」


「我がただ貴様を押さえ付けているだけだと思うなよ。一撃で粉砕する為、力を溜めていたのだ。その身でとくと味わえ! 我が破滅の力を!! 」


 両手で挟み込んでいたダールグリフを結界ごと空へと放り投げたギルは、大きく開けた口から黒い閃光を放つ。ムウナの肉体を乗っ取った化け物を消滅させたあの光り、ギルのドラゴンブレスだ。


 空へ向かって伸びる閃光がダールグリフを包み隠す。勝負は決まった。最早肉片も残さずダールグリフは消滅したと、きっと誰もがそう思った事だろう。だが、閃光が収まり中から姿を現したのは、腕と足を失い、服は焦げ落ち、体の大部分が炭化してもなお生きているダールグリフだった。


「ク、クハハ…… なんと、凄まじい力なのでしょうか…… この肉体でなければ死んでいましたよ」


 やはり、本体でもある魔力結晶を破壊しない限り死なないようだ。何かの魔術を発動したのか、ダールグリフの体がみるみるうちに再生していく。あれはリリィが使う回復魔術に似ている。しぶとさだけは一流だな。


「ふぅ…… いやはや、さしもの私も危ない所でした」


「ぬぅ、溜めが甘かったか? 」


 悔しげに唸りを上げるギルに、空中に浮かんだままのダールグリフはニヤリと笑う。まだ何か企んでいるのか? そう思ったのも束の間。突然、島が激しく揺れ始めた。


「フフフ、どうやら我々の目的は達成したようですね」


 目的が達成しただって? どういう事だ? 奴等の目的は確か、この島の動力源である大魔力結晶だったはず…… 無理矢理に壊され修復するのに数日は掛かる島の結界。縦横無尽に暴れまわるギガンテス達。突如揺れる島。そして研究所がある方向を見て笑うダールグリフ……


 もしかして、最初から俺達を誘き寄せ、研究所を空にするのが彼等の役目。つまり陽動だったとでも言うのか? 結界に穴が空いているのなら、後からでも侵入は可能だ。なぜ侵入者は彼等だけだと思った? いるだろ? もう一人、転移魔術が使えて誰にも気付かれずに忍び込める人物が……


 その時、ダールグリフの傍の空間が歪み、中から紫色の長髪をした女性が姿を現した。


「カーミラ…… 」


 してやられた、全部彼女の計画通りだった訳か。


「大魔力結晶は確保したわ。ご苦労様、ダールグリフ。疲れたでしょう? 貴方は戻っても良いわよ」


「あぁ…… 我が君。なんと有り難きお言葉…… 貴女様のそのお言葉だけで、私は天にも昇る想いで御座います! しかし、我が君を残して私ひとり戻るなど、不敬の至り! 傍にいることをお許しください」


 半裸の男性が空中で悶えている様は犯罪ものだな。見てて気持ちが悪い。


「久し振りね、ライル。話は聞いていたわ。本当にそれで良いのね? 後悔する事になるわよ。今ならまだ間に合う、私と一緒に来なさい。こんな世界、守る価値も無いわ」


「お断りします。もう、決めたんだ。それに、守る価値が無いなんて俺は思わない」


 それを聞いたダールグリフが突然激怒した。


「貴様ぁ!! 我が君の慈悲を無下にするとは! その罪、万死に値する! 今ここで裁きの鉄槌を与えようぞ!! 」


 唾を飛ばしながら喚くダールグリフの前にカーミラは腕を出す。するとピタッとダールグリフは大人しくなった。しっかりと調教されているな。正しくカーミラの忠実な犬だ。


「シャロット、貴女はどう? 貴女もクロトと同じ世界の記憶持ちなのは知っているわ。私と一緒に来る気はない? 」


「どんなに理不尽だとしても、守りたい場所がある。愛すべき人達がいる。この世界が今のわたくしの居場所なのです。ですから、カーミラさんが仰る救済とやらは賛同しかねますわ」


 アイリスを抱き締め、ハッキリと拒絶の意志を込めて見返すシャロットに、カーミラはそっと溜め息を吐く。


「そう…… 残念ね、本当に残念だわ。なら、もう容赦はしない。精々足掻くことね」


 そう言い残し、カーミラとダールグリフは空間の歪みの中に消えていった。


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