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「着いたぞ、ここが我らの里だ」
木で出来た門をくぐると、拓けた場所に出た。周りに大きな木が沢山生えていて、幹も枝もすごく太く、広範囲に伸びている。
しかもその上に家が建っているから驚きだ。エルフ達は木の上に家を建てるのか……木と木の間には吊り橋が掛けられていて、木から降りずに移動出来るようになっている。
「長老の元へ案内するからついてきてくれ」
エドヒルの後を大人しくついていくと、周りの家より一際大きく立派な家が木の上に建っていた。ここが長老の家だろうか?
木の幹に沿って作られた螺旋階段を上り、家の中に入った俺達は、広い部屋に案内された。ここは応接室みたいなものか?
「ここに座って待っていてくれ、すぐに長老を呼んでくる」
エドヒルに薦められた通り、座って待つ事にした。その椅子は長めに作られていて、何かの動物の革を張られている。その上にクッションが敷かれていて、座ると中に綿でも詰めているのかフカフカだった。これ、完全にソファーだよな……
「おお! フカフカだね!」
アンネと一緒にソファーの座り心地を楽しんでいたら、エドヒルが一人の男性を連れて戻ってきた。
その男性は緑の髪を後ろに流し、オールバックにしている中年の男性に見えるが、俺の知っている中年とは全然違う。なんて言うか……もの凄いダンディーだ。彼がイズディアなのだろうか?
「やあ、待たせてしまったかな?」
渋い声でそう言われ、反射的に「そんな事はありません」と答える寸前にアンネが口を開いた。
「おっそーい! せっかく会いに来てあげたのに、何してんの!」
おい! いくら知り合いでも、エルフの長老にそんな態度で大丈夫か!? 内心焦っていたら
「ハハ! 相変わらずだなアンネ、元気そうで何よりだよ」
と、正面のソファーに座りながら、にこやかに対応してくれた。良かった、気にしていなくて……それにしても、アンネの性格は昔から変わっていないようだ。
「でも、どうしたんだい突然、会いに来るなんて……しかも、人間を連れて」
イズディアはまるで値踏みをするかのように見つめてくる。
「大した理由な無いわね、偶然近くを通っただけだから」
「そうか、私にその子を紹介してくれないのか?」
あっ……そう言えば自己紹介がまだだったな、すっかり忘れていた。
「そうだね! この子はライル、今はわたしと一緒に旅をしてるんだよ!」
「ライルです。どうぞよろしくお願いします」
俺はソファーから立ち、深く一礼した。
「これはどうもご丁寧に……私はイズディアと言う、この里の長老をしている。こちらこそよろしく」
そう言うと、立ち上がり握手を求めてきた。
「あっ……すみません……」
向こうも気づいたようで、
「いや、此方もすまない……配慮が足りなかった。いつもの調子でついな……」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
それを聞いたイズディアは少し目を見張った後、懐かしそうに目を細めた。
「似てるでしょ?……クロトに」
それを見ていたアンネがイズディアに言った。
「そうだな、懐かしい感じがする……ライル君だったかな、アンネに気に入られてしまって大変だろう?」
「ちょっと! 大変ってどういう意味よ!? めちゃくちゃ助けてあげてるっちゅうの!」
アンネがプリプリと怒ってるのでフォローを入れることにした。
「いえ……色々と教えて貰って、助かってます。アンネがいなかったら、どこかで野垂れ死んでいたと思います」
「ほら! ライルもこう言ってるでしょ! 全く、失礼しちゃう!」
我が意を得たりとアンネはイズディアに噛み付いた。
「ハハハ! 悪かったよ……しかし、ちょうど良かったよ、アンネが来てくれて……少し相談に乗ってくれないか?」
「相談? どったの? 困り事?」
イズディアは渋い顔をして、
「ああ、とても困っているんだ。君の助けが必要だ」
「ふ~ん……いいよ、何があったの?」
昔からの知り合いの頼みだからか、アンネは協力するようだ。
「ありがとう、助かるよ……エドヒル、ライル君にこの里を案内してあげなさい」
「はい、わかりました」
お? これは部外者には聞かれたくない話しなのか……
「ん? なんでライルを追い出すの?」
あれ? アンネが不機嫌になってきたな……
「いや、長い話しになるからね……ライル君も退屈だろうから、この里でも見て回ったらと思ってね」
「ライルを仲間外れにするつもり?」
アンネの気持ちは嬉しいけど、イズディアの気持ちも解らなくはないんだよな……きっと、とても重要な事なんだと思う。ここは大人しく従った方がいいだろう。
「アンネ、俺はエドヒルさんと里を見てくるよ」
「ライル……いいの?」
「ああ……だから、イズディアさんの力になってあげてほしい」
俺のせいで二人の関係が拗れるのは嫌だしな。
「はぁ……わかったよ! チョチョイと終らせてやるわ!」
「すまないね、ライル君……助かるよ」
イズディアにお礼を言われ、俺は部屋から出ていった。
部屋から出ると、エドヒルが待っていたので「お待たせしました」と言って近づいていった。




