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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
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16

 

 エレミアを起こさないよう、物音を立てずそっと扉を開けて部屋から出ていき、幾つも枝分かれしている廊下を歩く。まるで蟻の巣の中にいるようだ。

 魔力が流れているパイプを辿り、テオドアが見付けた大魔力結晶がある場所へと目指す。特に意味はないが、何となくこの目で見てみたいと思った。ついでにどんな術式が刻まれているかも知りたい。


 暫く歩いていると、一際頑丈そうなゴツい扉が見えてきた。しかしロックされていて開きそうにない。物理的な鍵での施錠なら簡単に開けられるのだが、魔術による施錠は開けられないことはないけど注意が必要だ。何か仕掛けられていたら厄介だからね。


「ライル様。こんな夜更けにどうなされました? 」


 後ろからアイリスが呼び掛けてきたので、ゆっくりと振り返った。


「いや、目が覚めてしまってさ。また眠くなるまでの暇潰しに散歩してたんだ」


「そうなのですか…… ライル様は随分と胆力がおありのようですね。少しぐらいは驚くかと思いましたのに」


 残念です―― と、冗談なのか本気なのか分からない言葉を放つ。始終真顔だから判別がつかないんだよ。


「途中から跡をつけていたのは分かっていたからね」


「確か、魔力が視えると仰っておりましたね。成る程、それでここまで来られたのですか? 」


 アイリスの口調は何時も淡々としているが、多少は疑っているんだろうな。夜中に島の動力源に近付いてるんだから当たり前か。

 俺も暇潰しに寄っただけなので、どうしてもこの部屋に入りたい訳でもないし、戻るかな。


「今ロックを外しますので、少々お待ちください」


 え? 開けてくれんの?


「ライル様はこの部屋に何があるか既にご存じの様子なので、隠す意味は無いと判断致しました」


 重厚な扉を開けて中に入ると、広い部屋の中央に巨大な鉄の箱。そこからパイプが幾つも生えていて、部屋の外へと伸びている。テオドアを通して見た光景と一緒だ。


「この中には巨大な人工魔力結晶が入っておりまして、各施設の動力として使用しております。島の結界維持にも利用されていましたがつい最近、認識阻害の術式が壊れてしまいまして、今では侵入を拒む結界のみとなっております。私達は魔術の発動は可能ですが、術式を刻む事は出来ません。マスター亡き今、私達では魔道具の修復は不可能なのです」


「アイリスはこの島をどうしたいんだ? こう言っては何だけど、このままじゃ未来はないように思えるんだけど」


「…… 分かりません。私はただ島を守り、管理するというマスターの命令に従うのみ。そこに私の意思は必要ありません…… いえ、人形ですので元々意思は無いのかも知れませんね」


 まるで自嘲するかのように、大魔力結晶が納められている鉄箱を見上げるアイリス。こうして見る分には本当に人間と遜色がない。


「マスターが過去に仰っておりました。生物には魂なるものが宿っていると。肉体の活動が停止すると魂は肉体から離れ、あの世という別次元に行くのだと…… マスターは今、そのあの世という所にいるのでしょうか? ライル様…… 人形にも魂はありますか? 先に機能停止した人形達は皆マスターの元へと行けたのでしょうか? 」


 情けないが、なんて答えて良いか分からなかった。いい言葉が浮かばない。普通に考えれば無機物に魂はないとは思うけど、アイリスを見ていると完全には否定出来ない。


 アイリスに意思はあると思う。意思無き人形だったのなら、自分や仲間達の死後の事なんて考えもしないだろう。でも、だからと言って魂があるとは限らない。結局のところ、何も分からないのだ。


「…… 申し訳ございません。ライル様を困らせてしまいましたね。失礼致しました」


 答えられず、眉を寄せている俺の様子に気付いたアイリスが、軽く頭を下げる。


「いや、此方こそ何も言えずにごめん」


 アイリスと別れ、客室へと戻った俺はベッドに潜り込んだ。


 機械に魂はあるのか…… 前の世界でもそれは分からなかった。どんなに精巧に造られていたとしても、それは機械でしかない。アイリスの想いも行動理念も、そうプログラムされているからと言ってしまえばそれまでだ。


 きっとアイリスは、またマスターに会える日を待ち望んでいるのだろう。命令を忠実に守り、長い時間この島を管理しながらその日を夢見ているのかも知れない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから俺達は、数日経った今でもまだ島に滞在していた。シャロットが中々帰ろうとしないのだ。自動人形の構造とコアの術式、防衛用自立型ゴーレムに大興奮で調べている。リリィも一緒になって魔術の研究をしているし、何時になったら帰れるのやら。


 そんな二人に、アイリスは甲斐甲斐しくサポートしている。特にシャロットに関してはまるで主従関係にも思える。


「ライル様もマスターと雰囲気が似ておりますが、シャロット様は考え方やゴーレムに関する情熱がまるでマスターそのもので、何だか懐かしくなりまして」


 ようはアイリスのマスターに激似だから放って置けないという訳か。シャロットもまんざらでもないようだし、このままいけば島の開拓も了承してくれるかも。


 俺はというと、ここ数日は研究所にあった魔道具を解析したり、リリィとギルに研究資料に載っている魔術について教えて貰ったりと其なりに充実していた。


 その間、アンネとムウナは時折地上に出ては探検と称して遊び歩き、テオドアはあちこちと飛び回っている。たまに金目の物を見つけると俺に報告して、持ち帰って金に換えようと提案してくる。元山賊の性って奴かね。

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