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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
246/812

15

 

 食事の用意が出来たと、アイリスに食堂へと案内された俺達は、夕食をご馳走になった。料理は魚と野菜が中心で、肉類は一切使われていない。


「野菜や茸は島で自生しているものを、魚は先程捕ったばかりなので鮮度は良好です。ただ、大陸へ戻った人達が家畜も連れていってしまいましたので、肉料理はご用意出来ませんでした。申し訳ございませんが、ご容赦下さい」


「いえ、とても美味しいそうですよ。突然の来訪にもかかわらず、この様なおもてなしをしていただき、ありがとうございます」


 魚をマリネしたものや、魚介と野菜をソテーしたもの。豆腐ハンバーグには細かく刻んだ蓮根が入っていて、食感が楽しい。手作りのウスターソースと合わさり、実に旨い。肉を使っていなくヘルシーということでシャロット達に好評である。健康に良い料理というのは、此方の世界の女性にも受けが良いようだ。


 俺はフライ料理が気に入った。既にフライされているので何の魚かは分からないが、美味しいから別にいいか。

 魔力収納からジパングで仕入れたビールを取り出す。やっぱりフライにはビールでしょ。この苦味と喉越しの良さは、大陸のエールでは味わえない。ホップは偉大だね。


 存分にビールを楽しんだ後は、落ち着いて米酒を楽しむ。肴は豆腐があるので冷奴と厚揚げにしてもらい、持ち込んだ醤油をちょっと垂らして食べる。さっぱりとした豆腐に辛口の大吟醸が合う。


「ふぅ…… 日本酒―― いえ、この世界に日本はありませんので清酒と呼べばよろしいでしょうか? どちらにせよ、お米のお酒はやはり格別ですわね。何だか懐かしく思いますわ」


 純米酒を飲み、染々とシャロットは呟く。


「あぁ、そうだな…… 目を瞑ると、一人呑みをしていたあの居酒屋の喧騒が浮かんでくるよ」


「わたくしも、良く一人で呑んでいましたわ。うれしい時も、悲しい時も」


 シャロットも俺と同じように、酒を呑んで騒ぐタイプではないようだ。大学時代の時に、酔うとテンションが上がってはしゃぐ奴がいたけど、見る分には別に良い。周りに迷惑さえ掛けなければね。俺自身は必要以上に騒がず、落ち着いて酒と料理を味わいたい。


「ぷはーっ!! これでもかと言うほどのこの甘さ、やっぱりデザートワインは最高ね! 」


 アンネは素面でも酔っていても、変わらず騒がしいから慣れてしまったよ。


「リリィ、貴女はまだ駄目よ」


「…… ここはどの国にも属していない。よって大陸の法律は適用されないと進言する。なので私もお酒を呑んでも大丈夫」


「あら? リリィさん。領主の娘であるわたくしの目の前で、そのような法律違反は見逃せませんわよ。それに、この島に法律が無いとは限りませんわ。ですわよね? アイリスさん」


「はい。基本は大陸法と同じです」


 ですって―― とドヤ顔でシャロットに言われてしまい、不服そうに酒瓶から手を離すリリィ。又しても飲酒を阻止されてしまった。成人と認められるまで後二年の辛抱だね。


『どれも、おいしそう。でも、にくがない。ざんねん』


 ムウナは肉が無いのが不満なようで、収納内でだらぁっと横になっていた。ゴブリン討伐の際にたらふく食ったからか、最近のムウナの食欲は大人しい。

 ギルにいたっては、まだクラークの研究資料と本を読んでいる。あれほど好きな酒もすっかりと頭から抜け落ちてるようだ。呆れる程の知識欲。リリィも酒が飲めないと知るや否や、魔力収納に入って続きを読み始めた。

 何だか徹夜しそうな感じ。ギルは良いけど、リリィはちゃんと睡眠は取るんだぞ。


『くそっ! 俺様にも肉体があればなぁ。あ~、酒が飲みてぇ』


 レイスであるテオドアには、食事の必要はないし出来ない。酒が飲めないのは辛いよな。心中お察しするよ。


「お気に召したようで何よりで御座います」


「えぇ、とても素晴らしいお料理でしたわ。所で話は変わりますが…… 本当によろしかったのでしょうか? 貴女のマスターの研究成果を持ち出してしまって」


 いくらもう死んでいるからと言って、人の研究を横から奪うようで、心苦しく思っているシャロットにアイリスは抑揚の無い言葉で淡々と答える。


「はい。むしろシャロット様のようなお方に、マスターの研究と技術を継いで貰って有り難く存じます。マスターの偉業が世に広まるのは願ってもない事。これは、マスターが生きた証しです。ここで埋もれさせて良い物ではありません。どうか、お役に立てて下さいませ」


 この時ばかりは、アイリスからクラークを想う気持ちが伝わってきた気がした。


「分かりましたわ。貴女のマスターの研究を決して無駄には致しません。偉大な発見として、国にも報告させて頂きます。彼の生きた証しは、リラグンド王国に知れ渡り、未来に伝わって行く事でしょう」


「感謝します。マスターもきっとお喜びになります」


 いい感じに酔いが回った所で夕食はお開きになり、アンネとシャロットも魔力収納へと入って行く。


 客室へ戻った俺とエレミアは、ベッドに横になり暫く雑談でもしていたが、いつの間にか眠っていたようで、気が付くと部屋の明かりは消されていて暗くなっていた。


 いま何時だ? 時計ではまだ深夜だが、地下にいるので朝か夜かの区別がつかない。収納内ではシャロットとアンネが酔いつぶれて寝ている中、ギルとリリィは寝ずに資料を読んでいた。本当に徹夜でもする気か?

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