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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
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13

 

「勝手にお邪魔してすみません。俺はライルと言います。宜しければ色々と伺いたいのですが? 」


 目の前のセーラー服っぽいのを着ている女性に、そう尋ねる。会話も出来ているので意思の疎通は問題ない筈。


「これは名乗りも上げず失礼致しました。私は管理用自動人形(オートマタ) “アイリス” と申します。以後、お見知りおきを」


 自動人形ことアイリスは淡々と言葉を紡ぐ。そこには一切の感情は感じられない。


自動人形(オートマタ)…… だとすると、完全に自律したロボット? しかも人と会話が可能な程の高度なAI。人間だと言われても誰も疑いませんわ。むしろ機械と言われた方が疑ってしまうレベルですわね。一体、どういう構造なのでしょうか? コアに施されている術式は? あぁ、じっくりと調べて尽くしたいですわ」


 アイリスを凝視したまま、ブツブツとひとり言を呟くシャロットをよそに、一通り此方側の紹介を済ませて、俺は会話を続ける。


「アイリスさん、此方こそ宜しくお願いします。自動人形と言うのも気になりますが、先ずはこの島についてお教え頂けませんか? 」


「勿論で御座います。では、マスターの元へご案内致しますので、歩きながらご説明いたします」


 そう言って来た道を歩き出したアイリスの後を俺達はついていく。周囲を確認したけど、隠れているような魔力は今の所視えない。アイリスの言うマスターとはどの様な人物か分からない内は安心しては駄目だ。待ち伏せている可能性もあるからね。まだ油断は出来ない。


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、アイリスは抑揚のない言葉で話し続けている。


「この島は、今から二千と十五年前にマスターが改造致しました。その目的は誰にも邪魔されずに研究をする為だと聞いております。しかし、当時は魔王による被害が酷く、多くの人間達をこの島に避難させていたのです。避難所のようなものだとお考え下さい」


 それがあの廃村のような場所か。


「そのマスターとは、どの様な人物なのですか? 」


「マスターは私達をお造りになった創造主であり、偉大な魔術師でもありました。島全体がマスターの研究施設でもあるのです。多くの者達が大陸から逃れ、この島で生活していましたが、勇者によって魔王が討伐された後、避難していた者達は皆大陸へと戻って行きました。そして島にはマスターと私達だけが残ったのです。これでまた研究に没頭できるとマスターは仰っておりましたが、何故か難しいお顔をされていたのを記憶しております」


 きっと寂しかったんだろうな。日に日に人が減っていく様子は結構心にくるものがあるからね。


「あの、私達と仰っていましたが、他にもアイリスさんのような自動人形がおりますの? 」


「答えはYesでありNOです。コアの経年劣化で現在の管理用自動人形は今や私一体となっております。他は全て機能が停止して動きません。私自身も劣化が激しいですが、活動を最小限に抑えて辛うじて稼動している状態です」


「それは本当に残念ですわ…… 」


 分かりやすくショボくれるシャロットにアイリスは事もなげに提案した。


「損傷は激しいですが、保管はしておりますので、それで宜しければお調べになられますか? 」


「えっ!? よろしいのですの? 是非、お願い致しますわ! 」


 今度は打って変わって機嫌が良くなった。全く、現金な人だね。


『あ、相棒! こんなのを発見したから、ちょっと見てくれ! 』


 テオドアが興奮気味に何か見つけたと言ってきたので、魔力念話で確認すると、何もない無機質な空間に巨大な鉄の塊がひとつ。そこから無数のパイプが生えて、四方八方へと伸びている。


 鉄の塊に潜り込むテオドアの目には正八面体の魔力結晶が白く輝いていた。


『相棒の店の地下にある、あの結晶にそっくりだろ? 確か大魔力結晶って言ったか? 』


『あぁ、色が白いからこれも人工的に造られた物なんだろう。成る程、この島のエネルギー源と言ったところか。島が動いているのも、結界があるのも、全部これのお蔭だな』


『へぇ~、じゃあこいつを持って行ったら、島は止まるのか? 』


 物騒な事を言っているテオドアだが、俺はそんなこと微塵も考えてはいない。窃盗になっちゃうからね。


 引き続きテオドアには地下を調べて貰うよう頼んだ所で、前方に四角い建造物が見えてきた。


「あれがマスターのいる研究所であり住居で御座います」


 思ったよりも随分と小さいな。なんて思っていたら、アイリスが扉を開けて中へと誘導する。何もない広い空間で、扉付近にはボタンが何個かついていた。


 俺達が全員入った事を確認したアイリスはボタンを押す。すると扉が締まり、少し揺れた後に浮遊感を感じた。これにはエレミアとリリィが驚きで小さな声を漏らす。

 だけど、俺は驚きよりも懐かしさを感じていた。ふとシャロットに顔を向けると目が合ったので、彼女も俺と同じように感じていたのだろう。まさかこんな昔にエレベーターがあったとはね。


「重要な施設は全て地下にあります」


 地下へと到着したエレベーターを出て、電光灯のような光に照された廊下を歩くこと数分。ひとつの扉の前に案内される。


「ここがマスターの部屋で御座います。どうぞ、中へお入り下さい」


 アイリスが中へと誘うが、訝しんだ俺はその場で躊躇する。何故ならこの部屋には誰もいない事が分かっているからだ。この扉の向こうには魔力が視えないので何もいない筈。それとも魔力を隠す装置でもあるのか?


「…… ? ライル様、如何なさいましたか? 」


 部屋の前で立ち止まる俺にアイリスが尋ねる。エレミア、リリィ、シャロットも不思議そうに俺を見ていた。


 罠か? そう思ったが、部屋に入らないという訳にはいかない。何があっても良いように気を引き締めて一歩、足を踏み出す。


 部屋の中には古めかしい本が床に無造作に積まれていた。その光景にシャロットが 「他人の気がしませんわね」 と呟く。確かに、初めて訪れたシャロットの部屋に似てなくもない。研究者の部屋ってのはみんなこうなのか?


 本の森を抜けた先には、木製の勉強机に座り心地が良さそうな椅子。その椅子に座っている者の背中が見える。恐らくあれがアイリスのマスターなのだろう。しかし……


「皆様、ご紹介致します。この方こそが島の主にして私達の創造主である、偉大なる魔術師クラーク様で御座います」


 そこに座っていたのは…… ローブを羽織っている白骨化した死体だった。

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