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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
241/812

10

 

 リリィとシャロットと合流した俺達は、女王様が遣わした案内人を待つ。すると、海の方から声が聞こえてきた。


「おーい! こっち、こっちだよ! 」


 声のした方には、海面から顔を出して手を振る人魚の姿が見えた。あの赤いショートヘアには見覚えがあるぞ。


「ヒュリピアじゃない、案内ってあの子だったのね」


 エレミアがそう呟いた事で思い出した。好奇心が旺盛で、漁師の網に引っ掛かる程のお転婆娘の女の子だったな。


 魔力収納から前に作成したのを少し改良を加えて広くしたボートを取り出し、そのボートに乗り込んでヒュリピアの所まで近付いた。


「久しぶり! もう、全然遊びに来てくれないんだもん。店に行っても留守ばっかりしてるしさ」


 海面から勢いよく飛び上がり、ボートに乗り込んだヒュリピアは、不満そうに頬を膨らませた。


「転移門があるから、人魚達の島に行く必要がなくなっちゃったものね。ゴメンね、あれからどう? 料理の腕は上がった? 」


「うん! みんな美味しいって言ってくれるよ! 早くエレミアにも食べて貰いたいなぁ」


 ほんとにエレミアに良くなついているな。さっきからエレミアとばかり話して、俺には軽く挨拶しただけ。


「ヒュリピア、こっちの二人とは初対面だっけ? 」


「うん? 金髪巻き巻きは知ってる。りょーしゅって言う偉い人間の娘なんでしょ? そっちの青い子は知らない」


「き、金髪巻き巻き…… ですの? 」


「…… 私、青い子」


 ヒュリピアの歯に衣を着せぬ様子に、シャロットは笑顔をひきつらせ、リリィは自分の青い髪を弄っていた。


 その後、お互いに自己紹介を済ませた頃を見計らい本題に移る。


「ヒュリピアがその、島らしき所へ案内してくれるんだよな? 」


「そうだよ! いつもより遠出してたら見付けたの。動く島って不思議だよね。だから女王様に報告したの」


 ヒュリピアが第一発見者の一人だったのか。それで案内役に選ばれたのかな。


「その島がある場所は遠いのかしら? 」


「う~ん、ちょっと遠いかな? 私が全力で泳いで半日は掛かるよ。でもあの島は動いているから、更に遠くなってるかもだよ」


 人魚が全力で泳いで半日だと、このボートで飛ばしたとしても、最低一日は掛かりそうだ。女王様の仰った通り、年を越してからじゃ遅かったかもな。


 俺はヒュリピアの案内の元ボートを進めた。ボートを改良したので四人位なら余裕で乗れる。しかし、始めの内は海を眺めていたシャロットとリリィだったが、代わり映えしない景色に直ぐ飽きがきてしまい、魔力収納へと入って行った。


 先導してくれるヒュリピアは、かなりの速度で泳いでいる。若いと言っても、流石は人魚である。海の中で人魚以上に泳げる種族はいるのだろうか? 聞いた話によれば、シーサーペントよりも早く泳げるらしい。


『リリィさん、お紅茶は如何ですか? わたくしの家から良い茶葉をお持ち致しましたのよ』


『…… ありがとう。いただく』


『クラリスから貰ったクッキーがあるから、それをお茶請けにしよう! 』


 魔力収納内にある家の中では女性達三人がかしましく紅茶を楽しんでいる。優雅な船旅だね。


『くっきー! ムウナもたべる! 』


『あら? 良いですわよ。ムウナ君も一緒にお紅茶を楽しみましょう』


『こうちゃ、いらない。くっきー、だけで、いい』


 あら、そうですの? と、首を傾げるシャロットにアンネは呆れた様子で口を開く。


『そうなの、ムウナってば、飲み物全般に興味がないみたいなんだよね。咽が乾かないんかな? 』


『…… 根本的にこの世界の生物とは造りが違う。そもそも世界の理すらもムウナには通じないのかも知れない。心配するだけ無駄』


 へぇ、ムウナには水分補給の必要はないのか。言われてみれば、封印を解いて戦っていた時、いくら傷付けても血らしきものは流れなかった。ゴブリンを食べていた時も、消化出来ない鎧と一緒にゴブリンの血も吐き出していたっけ。また一つ、ムウナの生態が分かったな。


 その後、昼食を挟み、日が沈むまで船を進ませた所で、この日は休むことにする。夕食は道中で捕らえた魚を使って、エレミアとヒュリピアが魔力収納内で料理をしてくれた。


 俺達はボートの上で、海を眺めながら食事を済ませる。食事中、ヒュリピアは頻りに料理の感想をエレミアに聞いていた。よっぽど食べて貰いたかったんだな。そこにリリィとシャロットが加わり、ああした方が良いこうした方が良いと、実に賑やかな食事だった。



「なんだよ! べつに良いじゃねぇかよ、見るぐらい。減るもんじゃねぇし」


 魔力収納内の家には勿論風呂もある。ならば入らないという選択は彼女達にはない。しかし、収納内には要注意人物―― いや、魔物がいることに彼女達は気付き、こうしてテオドアは外に追い出されたという訳だ。因みに、ヒュリピアは収納内の湖で休んでいる。


「なぁ、相棒だったらバレずに覗けるよな? ていうか覗いてるんだろ? へへ、俺様にもその映像をちょっとばかし見せてくんねぇかな? 一緒に楽しもうぜ」


「そんな事するわけないだろ? 何で自分から命を捨てる真似をしなきゃならないんだ。俺だって命は惜しい」


 まぁ、命までは取られないにしても、地獄を見ることには変わりない。


「あのエルフの女だろ? おっかねぇよなぁ。あいつらは自分達の事を争いを好まない種族だと言っているが、一度身内として受け入れた者と同族に関しては、異常な程の執着心を見せるし、他人の話を聞かずに攻撃的になりやがる。人魚は基本的に海の中以外には無関心だし、ドワーフは頑固で延々と引きこもって物づくりに取り憑かれてる。有翼人は自尊人の塊だ。他種族にまともな奴はいねぇよ」


「それを言うなら人間だってまともな者はいないとは思うけどな。そもそも、まともな者なんているのだろうか? 誰しも少からず異常な面はあるんじゃないかな? 自分も含めてさ。だって自分がまともだなんてどうして言える? 向こうも人間達の事を異常だと思ってるかも知れないしね。それに正常と異常の判断基準なんて曖昧で明確には定められてはいない。結局は自分の価値観で判断するしかない」


「ふぅん、でもそれが普通なんじゃねぇ? 理解出来ねぇもんは出来ねぇんだからよ、無理にする必要もないしな。それで別に死ぬ訳でもねぇし、ようは人其々ってやつだな」


「それでも、どうにか折り合いをつけて納得してる所もあると思う。自分の理解出来ないものを異常だと言って切り離すよりも、受け入れる方が難しい。人の常識や普通なんてものは、大衆意見でしかないし、それが絶対に正しいなんて誰も証明なんて出来やしない。それと同じで間違いもまた証明のしようがない。世界中の人達、種族達に、一人一人聞いて回るなんて不可能だからね」


 例えば、前世ではどんな理由でも人殺しは犯罪だ。でもそれは長い歴史の中で普遍化されてきたもので、誰しも人を殺すのは罪だと思っているからこそ罪になっている訳で、もし、誰もがそれを罪だと思わなくなってしまったら? 自分が普通だと思っていた事が実は少数意見だったら? ふとした拍子で常識は簡単に覆ってしまうのかも知れない。


 俺も死んでしまう前は、生まれ変わりなんて信じていなかったし、この世界に生まれ変わってからは、俺が思っていた常識との齟齬が大き過ぎて、今でも戸惑う事が多い。別の世界の記憶を持つ俺は、分かりやすい異常者とも言えるのだろう。


「相棒はいちいち面倒な事を考えるんだな。周りなんか関係ねぇ、自分が正しいと思ったら正しい。間違いだと思ったら間違いなんだ。赤の他人がどうして俺様の事が分かる? 文句があるなら掛かってこい、返り討ちにしてやるぜ! だからよ、相棒も気難しく考えてないで、気軽に覗こうぜ!」


 ようは勝てば正義ということか。確かに、それも一つの考えでもある。これも、テオドアが今まで生きてきた中で培ってきた常識であり、普通なんだ。だからと言って、覗きを容認する訳にはいかないけどね。テオドアの考えに乗っ取って、止めさせて貰おうかな。


 結局、彼女達が風呂に入り終わるまでテオドアの覗きは阻止された。勿論、俺も覗いていない。「相棒も、俺様のように正直に生きりゃ良いのによ」 なんて言い残し、テオドアは魔力収納へと入って行った。


 テオドアのようにねぇ…… それはちょっと遠慮したいな。だってどう見ても成功者とは思えないよ。

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