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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
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8

 

 転移も防げる結界の魔道具を作成するに当たって、大量のミスリルが必要になった俺は、エレミアと久方振りに鉱山町を訪れた。


 前に来たときよりもさらに人口が増え、建物も修繕され、今や崩れている方が少なくなっている。あの閑静な町がここまで賑やかになるなんて、やはりミスリルはかなりの金を動かすようだ。


 採掘されたミスリルの殆どは国が持っていってしまっているが、最近になって市場でもちらほらと見かけるようにはなった。まぁ、他の金属と比べるとべらぼうに高いから手は出さないけど。


 アマンダの宿屋を訊ねたところ、坑夫達は仕事場の近くに事務所を建てて、そこに移ったらしい。人が増えてきているのに、何時までも宿屋に屯する訳にもいかないしね。


 事務所へ向かい、中のいる事務員に坑夫達の親方であるグラントに取り次いで欲しいと頼むと、応接室に案内された。


 随分としっかりした建物で内装もいい感じだ。前に使っていた建物をまるごと建て直したんだっけ? 出された紅茶も上等なものだとエレミアが言う。なかなかに儲かっているようだ。



「おう! わりぃな、待たせちまって」


 暫く待っていると、扉から筋骨隆々の坊主頭に不精髭を生やしたグラントが入ってきた。暑苦しい筋肉を見せびらかしてるんじゃないかと思うほどに、ピッチリとした服を着ている。

 そんなグラントの姿を見たエレミアは、複数の筋肉達に囲まれたのを思い出したのか、そっと目を逸らした。


「いえ、突然の訪問失礼します。良い事務所じゃないですか、さぞかし儲かっているんでしょうね」


「ガハハハ! 確かに、儲かってはいるな。その分寝る時間が減っちまったがよ。それと、面倒な手続き何かも増えた。ここ最近はずっと書類仕事だ。延々と紙に自分の名前を書いてんだぜ? もう、うんざりしちまったよ。書類を読んで名前を書くだけだろ? 他の奴にやらせりゃいいのによ。ツルハシを振っていた方が俺の性に合ってる」


 愚痴が止まらないね。話を聞いている限り、どうやら長い間現場を離れているようだ。欲求不満が溜まりまくっているご様子。


 ガリガリと乱暴に頭を掻き、対面のソファーに腰を掛けるグラントに、用事を伝える。


「早速でなんですが、ミスリルを譲ってくれませんか? 」


「あぁ、この前みたいに製錬される前のミスリル鉱石で良ければ持っていってくれ。でだ、そっちは酒を持ってきているんだろうな? もうすぐ年末だから、大量に仕入れたい」


 しまった、そんなことならもっと沢山用意してくれば良かった。


 グラントに何時ものブランデーとワインを渡す。清酒やデザートワインは他の酒と比べて量が少ないので、あまり多くは渡せない。

 そして俺は、大量のミスリル鉱石を仕入れた。製錬する前の状態なので、市場に出ているミスリルの半分以下の値段で仕入れることが出来る。俺の持っている魔力支配のスキルで製錬が可能であり、普通にミスリルを売るだけでも結構な儲けにはなる。しかし役人の目を盗んで譲って貰っているから、やり過ぎると勘づかれてしまう恐れがある。なので頻繁にミスリル鉱石を手に入れるのは難しい。


 倉庫へ行き、ミスリル鉱石を回収し終わると、グラントが困った様子で口を開いた。


「実はな…… つい最近の事なんだが、犯罪奴隷の一人が消えちまった」


 ん? 確か、この鉱山にいる犯罪奴隷って……


「レインバーク領で捕らえられた盗賊を犯罪奴隷として扱き使ってんのは知っているな? その中の一人が消息不明になっている」


「消息不明? 一体何があったんですか? 」


 グラントは倉庫に積まれている鉱石を眺めながら、分からねぇ―― と呟いた。


「あの日も何時も通りに仕事をこなし、何も事故など無かったと報告されている。にも関わらずだ、仕事を終えて戻ってきた時には奴隷の一人がいなくなっていた。朝、あいつが坑道に入って行くのを、俺を含めて多くの連中が確認している。蟲に食われた痕跡もないし、落盤事故も無かった。中にいる連中誰もが、気付いたらいなくなっていたと言っている」


「成る程、それで消息不明ですか…… 消えた奴隷というのは、盗賊の一人なんですよね? 」


「あぁ、盗賊の一人と言えばそうなんだが…… 消えたのは、その盗賊達の頭領だった男だ」


 は? 頭領って、シャロットに襲い掛かって返り討ちになったあいつか。その頭領が消えたって?


「国には報告したんですか? 」


「勿論、すぐに役人に伝えたさ。だけど原因は判明せず、死亡扱いになった。隷属魔術が仕込まれている首輪は、逃亡した時の為に位置がわかる魔術も刻まれている。たが、調べても首輪の反応は無かった。考えられるのは、首輪に掛けられている魔術を破ったか、首輪自体がぶっ壊れたかのどっちかだ。頭領と言ってもたかが盗賊が隷属魔術を破る事は出来ない。逃亡を図り、首輪を無理に外そうとして、首輪に掛けられた隷属魔術が発動して死んだのであれば、首輪の現在位置の反応がないのはおかしい。なのに役人達は坑道の奥で迷い、首輪と共に蟲にでも食われたのだろうと決めつけてやがる。終いには俺達の監督不行届きなんて言って来やがった。あいつらが目を離したのは事実だが、それはほんの数分の事だ。逃げ出したとしても、坑道を知り尽くしている俺達からは逃げられねぇはずなんだ」


 う~ん、死体が見つかっていない以上断言は出来ない。それにこれは個人的な意見だが、あの頭領がそんな簡単に死んだとは思えない。


「俺はあの野郎がくたばったと思ってはいない。根拠はねぇけど、そんな気がする。犯罪奴隷になった者は、死ぬまで危険な仕事をさせられる。そこに人権なんてもんはない。だから犯罪奴隷達は希望を捨て、光を失い死んだ目をしながら、全てを諦めたような顔をしているのが大半だ。だけどあいつは違った。端から見たら、よく言うことをきく奴だが、ギラギラとした光を目の奥に隠していやがる。あれは諦めず、生に執着している者の目だ。そんな奴が突然消えて死んだと判断された。どうにも釈然としない。何処かで生き延びて、復讐の機会を窺っているような気がしてならないんだ」


 どうやらグラントも俺と同じように考えているようだ。いくら鉱山の中でも、監視のある中で少し目を離した隙に、誰にも気付かれずに姿なんか消せるものだろうか? 頭領に手を貸し、逃がした者がいると考えられないのか? でも、誰が何の為に? しかも逃がしたのは頭領だけで、他の元盗賊達はそのまま置き去りにしている。


 分からない。頭領一人の犯行か、それとも誰かが逃がしたのか、はたまた役人達が判断した通り死んでいるのか。情報が少なすぎて判断に困る。取り合えずシャロットに報告だ。もし頭領が生きていたとしたら、自分を捕まえたシャロットを憎んで報復するかも知れない。

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