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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十一幕】古代遺跡と終わりを願う自動人形
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7

 

 リリィに協力して貰い始めて三日、転移も防げる結界魔術の術式が漸く形になってきた。後はこの術式を刻む媒体を用意して、テストを重ねてから効果と安全性、コストパフォーマンスを調べなくてはならない。


「…… この術式は複雑な上に容量が大きい。魔核や魔石では心許ない。なので魔力結晶を使いたい。用意出来る? 」


「あぁ、大丈夫。ドワーフの王から譲って貰った魔力結晶を作り出す魔道具があるからね」


「…… それとミスリルも必要。それ以下の金属では、術に耐えきれず壊れしまう可能性がある。 見た目はこだわらなくていいから、頑丈に作って欲しい」


 リリィの考えた術式は複雑で容量が大きいようで、魔力結晶だけに術式を刻もうとするのなら、大魔力結晶ほどではないが、その三分の一位の大きさが必要になってしまう。


 そこでリリィは術式を分散させることにした。結界の効果とオンオフ機能を魔力結晶に刻み、その周りをミスリルで囲い、そのミスリルに結界を展開する規模を調整する補助的な術式を刻むといった考えだ。これならそんなに大きくない魔力結晶で十分らしい。


「これで、インファネースや他の主要都市をこの結界で守れるのか? 」


「…… 都市全体となると、出来なくはないけど維持が難しい。大量の魔力を常に補充し続けなければならない。いま作ろうとしている魔力結晶の大きさでは、魔力供給が追い付かない。この店の地下にある大魔力結晶位の大きさでないと、都市全体に結界を張り続けるのは不可能」


 そうか…… でも大魔力結晶があるインファネースでは、それが可能だと言うことだよな? 都市全体に結界を張るか、領主の館等のインファネースの主要場所だけにするか、悩みどころである。後で領主と相談しなければな。


「…… それで、転移はこの術式で防げるはずだけど、他のはどうする? 人間以外も通れないようにする? 」


「う~ん…… 人間以外となると、他種族であるエルフやドワーフ、人魚達も入れなくなるんだろ? 魔物だけ通れないようにするのは出来ないの? 」


「…… 魔物だけというのは実質不可能に近い。そういう術式を組もうとするなら、全種類の魔物の魔力を解析して、術式に組み込む必要がある。それなら、結界を通すと決めた種族の魔力の波動を調べて組み込んだ方が早い」


 そうか、魔物と言っても様々だからな。オークにはオークの、ゴブリンにはゴブリンの魔力の波動がある。それらを調べ尽くすのは至難の業。


『おいおい! そんな結界張られちまったら、俺様はどうすりゃ良いんだよ! この都市から出たら入れなくなるのか? 不便すぎるだろ』


 魔力収納内でリリィの俺達の会話を聞いていたテオドアが、声を荒らげて抗議してきた。


 あっ、良いこと思い付いた。


「なぁ、リリィ。結界はインファネース全体に張る物と、建物に張る物と分けないか? 」


「…… ? それは何故? 」


「いや、同じ人間でも信用出来ないのはいるからね。宿屋とかでさ、強盗等の侵入を防ぐんだよ。宿泊客には泊まる時、その人の魔力を登録させて、結界を通れるようにするんだ。そうすれば関係ない者は宿屋に入る事は出来ないから、安全って訳だ」


「…… 成る程、それは確かに安全。でも、インファネース全部の宿屋に魔道具を設置するのは良いとして、それを発動、維持する為の魔力は何処から? いくら大魔力結晶でも一つだけで賄えるか不安。いっその事、宿屋全体ではなく部屋毎に魔道具を置くのは? 寝るときだけ発動すれば良いし、術式を発動、維持には宿泊客の魔力に任せれば良い」


 うん、その方が現実的かな? 結界を発動するかしないかは客の判断に任せてしまえば良いのか。それでもし、結界を使わなくて物取りにでもあったとしても、自己責任でとも言えるしな。店側も楽になる。


「じゃあ、宿屋の浴場にも結界の魔道具を設置しよう。風呂に入ってる時が一番無防備だというしね。これで安心して入浴できるよ」


「…… うん。それ、良い考え」


 そんな俺とリリィのやり取りを聞いたテオドアが、またしても抗議してくる。


『そりゃないぜ! 相棒! そんな事しちまったら、俺様が覗けなくなっちまうだろうが! 後生だから、それだけはやめてくれぇ~。俺様の数少ない趣味の一つなんだ、奪わないでくれよぉ~』


 そんな悪趣味、止めちまえ! それが原因でレイシアに殺されかけた事をもう忘れたのか?


『良いだろ、別にさ。直接手は出していないんだしよ。ていうか、この体じゃ無理なんだけどな。だからせめて見るだけでも、お願いしますよ相棒。相棒だって本当は見たいんだろ? 気になる女がいるのなら、俺様が覗いて相棒に魔力念話でその映像をお届けしますぜ』


 ぐっ! なんという強力な悪魔の囁き…… そうだよな、見るだけなんだし? バレなきゃ問題にならない―― かな?


『とりゃー!! 全部聞かせて貰ったわよ。ライルを誘惑するのは止めろい! この悪党め!! 覗きは立派な犯罪だ! 』


『うお!? なんだ、このチビ助! 邪魔すんじゃねぇ!! これはな、俺様にとって見過ごせない事なんだ! 貴様を倒してでも、風呂場に結界を張るなんてのは阻止させて貰うぞ! 誓約で人間に手は出せないが、それ以外は誓約外なんだぜ』


『ふふ…… 馬鹿ね。態々戦わなくても、もう勝敗はついてるのよ…… ライル! この下衆の言うことなんか聞いたら、エレミアに言い付けるんだからね!! 』


 っ!? それはまずい! エレミアのことだから、こういう話をしていただけでも機嫌が悪くなる。母さんと結託して、夕食のおかずを減らされてしまう。成長期で食べ盛りの体には、一種の拷問だよ。


『テオドア…… アンネの言う通り、覗きは犯罪だ。諦めろ』


 そんなぁ、と膝から崩れ落ちるテオドアを、アンネはどうだと言わんばかりの笑顔で勝ち誇っていた。

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