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「それじゃ、今のアンデッドキングであるヴァンパイアはどうなんだ? 」
彼等もグールと同じように死体から魔物になったのだろうか? テオドアは苦い顔をしながらも答えてくれた。
「あいつらはちょっとばかし特殊でな。生きたまま魔物化した人間なんだ。正確には自ら魔物になったと聞いている」
人間が望んで魔物に? そんな事が可能なのか?
「最初のヴァンパイアは何処にでもいるような魔術師だったんだとよ。純粋に力を求め続けた結果、どうにか人間のまま魔物の力を得たいと考えたそうだ。そして自身を魔物に近い体に変化させる術を編み出した。人間と魔物には分かりやすい違いがある。人間にはなくて魔物にはある物だ。解るか? 相棒」
えっ? なんだろう? 魔物にある物といえば……
「…… 魔核? 」
「その通り、魔核だ。その魔核を研究して自分の体の中で作りやがったのさ。そうして出来上がったのがヴァンパイアって訳だ。でも結局は死人と同じで体の機能が殆ど停止しちまって他のアンデッドと同じように繁殖能力も失われた。つまり子供を産む事が出来なくなっちまったのさ。人間を魔物化する術はある一部の吸血鬼にしか伝わってなく、数を増やす方法は今のところそれしかない。無限に近い再生能力、血を操り姿を変化させたり、寿命も無いに等しい。一見無敵にも見えるが弱点も多い。アンデッドみたいに日の光りには弱いし、神官共が使う浄化の力や聖水も効く。そういう所からヴァンパイアはアンデッドに区分されたのかもな。しかしあいつらは自分達の事を人間と魔物を超越した存在だと言って威張りくさってやがる。アンデッドキングになった時点で俺様達と同じ魔物だと証明されたようなものなのにな」
勘違いも甚だしいと笑うテオドアに、レイシアは鋭い視線を送る。
「アンデッドについてはよく分かった。しかし貴様を信用出来ない事には変わりない。魔物は魔物、危険な存在には違いない。特にアンデッドになる者は悪人が多いのだろう? 事が起こる前にここで始末した方が良いと思うが? 」
腰に差してある剣に手を伸ばし、テオドアを睨み付けるレイシア。そんな彼女にテオドアも睨み返した。
「あぁ? さっきからうるせぇな。 魔物? 人間? そんなのは些細な違いでしかねぇ。俺様から見れば魔物も人間も似たようなもんだぜ。生きる為に他者を殺し奪うのはどちらも変わらねぇんだからな。むしろ人間の方が魔物なんかよりよっぽど危険で信用できねぇぜ? 魔物になっちまった今だから分かる。人間は魔物より恐ろしい」
「何が言いたい? 」
「信用できねぇのはお互い様だってことさ、騎士様? まぁあんたが俺様を信用しようがしなかろうが関係ねぇけどな。俺様は俺様の思うように動くだけだ。誰の許可も求めてねぇし必要ないんだよ! 文句があるならかかってこいや! てめぇなんかにやられる俺様じゃねぇ。元アンデッドキングを舐めんなよ! ボケがぁ!! 」
正に一触即発。二人の殺気で空気がピリピリする。近寄り難い雰囲気の中、クレスはレイシアの肩に優しく手を置いた。
「落ち着けレイシア。ライル君の話し通りなら彼は人間に危害を加えることは出来ない。それに彼の力をライル君が必要としたから誓約を交わしたんだろ? 僕も思う所はあるけど、今僕らがそれについて意見を言える立場ではないよ。それにここで暴れでもしたら店に迷惑だし、大人しく引き下がろう」
「クレス…… 分かった。この者は信用出来ないが、クレスとライル殿に免じてここは引こう。だがしかし! 何か問題を起こすような事があれば、直ぐにでも私の手で貴様を屠ってやる! 肝に命じておくんだな」
「へへ、おもしれぇ。その時を楽しみにしてるぜ」
これ以上場が乱れないよう、俺はテオドアを魔力収納へと入れた。騎士道を重んじるレイシアと根っからの悪党であるテオドアは、決して相容れることのない水と油のようなものだな。
悪かったねと言葉を残し、クレス達は店から出ていった。ふぅ、全くテオドアには困ったものだ。あの空気には流石に肝を冷やしたよ。不必要に煽るのは止めて欲しいね。
『いや、あれは向こうも悪いと思うぜ? 魔物だから信用できねぇって、人間の方がよっぽど信用できねぇってのによ』
『なぁ、悪人はアンデッドになりやすいと言っていたけど、何でなんだ? 』
『アンデッドってのはな、マナや魔力が濃い場所に強い想いを抱いたまま死んだり、死体を放置されたりした場合に発生しやすいんだよ。まともに暮らしていれば死体を放置されずに、ちゃんと処理をして墓に入れるだろ? 野晒しになっちまうような死体なんか、盗賊等の悪党が多い。そんな奴等はこぞって怨み辛みや未練ってやつが人一倍強いもんだ。後は死に場所の条件さえ揃えば簡単にアンデッドになっちまう。だからアンデッドになる奴は悪人が多いのさ』
成る程ね、条件さえ揃えば誰でもアンデッドになる可能性はある。ただ悪事を働く人達がその条件に当てはまりやすいだけって訳か。
『それじゃ、テオドアは生前に何か悪事を働いていたんだ? 』
『ん? そうだぜ。俺様は山賊の一味だったのさ。そん中で重要な役職に就いていたんだぜ。仲間達の食事を用意したり、アジトや服を清潔に保ったり、拐ってきた使用済みの女達を綺麗にしたり、仲間達が仕事に出掛けた後のアジトを守るといった重要な任務を日々こなしていたのさ』
それってただの下っ端なんじゃ?
『だけど、なんとかって国が騎士団を派遣しやがってな。俺様達はその場で皆殺しよ。そんで気付いたらレイスになってたって訳。仲間の大半もレイスやグールになってたな。はぁ~、俺様を顎で使っていた奴等が、キングになった俺様を褒め称える。実に心地良かったもんだ。それを奪いやがって…… かならずキングの座を奪い返して、もう一度あの心地よい日々を取り戻すのだ! 』
うわぁ、清々しいまでに動機が不純で小さいな。戦争を仕掛けるとか世界を支配するとかではなく、小さなコミュニティーの中でトップになり悦に浸りたいとは…… 見下げた奴だよ。
でも、下手に野心が強い奴よりテオドアみたいなのがアンデットキングになった方が、まだましなのかな?




