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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
230/812

16

 

「ま、まぁ過ぎたことは変えようがありません。ここは聞かなかった事にしましょう」


 カルネラ司教に賛成だな。その後カーミラとクロトが一緒にならなかったのは今を見れば分かる。何があったかは知らないけど、知らない方が良いこともある。


「それで、カルネラ司教様。彼が裏切らない保証はありませんが、そこまで信用出来るのですか? 」


「大丈夫ですよ。テオドアとライル君とで神々の下で誓約を交わして貰います」


 カルネラ司教の話によれば、特殊な場所で約束を交わすと、神々の誓約というスキルが発生してその約束を破るならば、神罰が下されるらしい。


「テオドアにライル君には逆らえないようにと誓約してしまえば、もう自由に動けなくなりますし、言うことも聞いてくれますよ。テオドアは隠密能力に優れていますので、諜報等に大いに役に立ちます」


 成る程、テオドアの生殺与奪の権利を握ってしまおうと言うことか。中々に容赦がない。


 テオドアを捕らえたまま、俺達は聖堂とは別の場所にあるもう一つの祭壇へと足を運んだ。殺風景で窓も無い部屋、何やら儀式を行う部屋らしい。祭壇の前で教皇様が立ち、その前に俺とテオドアが向かい合うように待機する。


「では、始めます。汝テオドアは、その者ライルの意志に逆らうことなく、従う事を誓いますか? 」


「…… 断る」


 テオドアがそう言ったと同時に、彼を捕らえている俺の魔力がどんどんと吸収されていく。


「フハハハハ! 馬鹿め、まんまと騙されたな! 俺様を捕らえる事など不可能なのだ!! 」


 拘束から抜け出したテオドアは、勢いよく教皇様の体に入ってしまった。


「くっ、しまった! テオドアは相手の魔力を吸収できるのを失念していました」


 なんと! 馬鹿だと思っていたのは、全ては教皇様に近付く為の演技だったのか! すっかり騙されてしまった。


「…… 多分、本人も今まで忘れてたんじゃない? それで、今さっき思い出したとか? 」


 アンネが疑いの目を教皇様の肉体に侵入したテオドアに向ける。すると教皇様の腹からテオドアの顔がにゅっと出てきた。


「ばっか! お前、ちげぇよ! 全部演技だよ、わざとだよ! 断じて忘れてた訳じゃねぇからな? まだ目覚めたばかりだから、思い出すのに時間が掛かっただけだ! 」


 忘れてたんじゃないか! やっぱりただの馬鹿だ。こんな奴にまんまとやられてしまうとは、くやしい!


「無駄な抵抗はおよしなさい。貴方に勝ち目はありませんよ。大人しく教皇様から出ていくのです」


「ククク、確かに俺様だけではお前らに勝てないだろう。だが、お前らも俺様を捕らえることは出来ない。このまま教皇を殺して逃げる事も可能なんだぜ? 」


 逃げるのに専念されたら難しいかも知れない。教皇様を人質に取られ、その体で聖都から出られてしまったら、今の俺達にはテオドアを追う方法はない。


「教皇様を殺すのか? それとも、何か別の目的でも? 」


 殺そうとも逃げようともしないテオドアに疑問を持った俺は、そう問い掛けた。


「そうだな…… 俺様とお前で取り引きをしようじゃないか。別に力を貸すのはいいんだが、俺様が不利になるような一方的な誓約はしたくないんでな」


「何をお望みで? 」


「いや何、簡単な事だ。俺様はお前に力を貸す。その代わりにお前は俺様の強化に協力する。今よりもっと強くなって、アンデッドキングの座を取り戻す為にな。他に意図はない、まさか教皇ってのがこんな冴えない爺さんだとは思わなかった。こんな見窄らしい爺さんを殺したって何の自慢にもなりゃしねぇ。それよりも、確実に力を増す事が出来るのなら、それに食い付くのは普通だろ? 」


 聖都に潜り込んだのも、教皇様の暗殺を企んだのも、全てはアンデッドキングに再びなる為にテオドアが計画したもの。強くなって力ずくで取り戻せるのなら、教皇様を殺して己を誇示する必要はない訳か。


「強化とは具体的に何をすれば? 」


「俺様達魔物はな、高濃度な魔力を浴び続ける事により力が増す。なので定期的にお前のその馬鹿でかい魔力を俺様に浴びせるんだ。後の方法はそっちが考えてくれよ。信用出来ねぇってんなら、誓約ってやつをすれば良い。さっきも言ったと思うが、力を貸すのは良い。俺様にも旨みが欲しいだけなんだよ」


 お互いにウィンウィンな関係でありたいってことだな。その言い分は分からない訳でもない。


「奴の提案に乗るの? ライルの力でまた引っ張りだして、戦えば倒せるわよ? 」


「うん、エレミアの言う通り倒せるかも知れない。だけどそうなると少なからず街に被害が出る。相手の実力が未知数なら尚更街中で争うのは避けたい」


 どんなに馬鹿でも、勇者クロトと戦って逃げ延びた相手だ。もう油断は許されない。


「…… 分かりました。此方が求めるのは貴方の協力と、人間達に危害を加えないという事です。それに了承してくれるのなら、貴方の強化を手伝います。期限は俺の命が尽きるまでとしますが、それでよろしいですか? 」


「よし、交渉成立だな。そうと決まればさっさと誓約とやらを交わしてしまおうぜ」


 体の一部を教皇様に残したまま出てきたテオドアと向かい合い、教皇様主導の下で誓約を交わす。すると祭壇が光り、その光が俺とテオドアを包んでは消えた。魔力で自分自身を解析すると、“神々の誓約” というスキルが生じていた。どうやら誓約は成されたようだ。


「へへ、よろしく頼むぜ相棒! 俺様を再びアンデッドキングまでに押し上げてくれ! 待ってろよヴァンパイアの糞ガキめ、相棒の命が尽きた時、それが貴様の最後となるのだ! 」


 上機嫌で高笑いするテオドアに一株の不安を抱くが仕方ない。誓約も交わしたし、色々と利用させてもらおう。

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