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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
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14

 

 教会の長い廊下を進み、階段を下りて辿り着いたのは、薄暗いジメジメとした地下牢だった。幾つかある牢の一つに件の人物が手枷を嵌められて座り込んでいる。この一見何の変哲もない男性がレイスに取り憑かれた人のようだ。


 牢番が鍵を開けて扉を開く。危険なので教皇様は牢屋の外で待機して貰い、俺とエレミアとカルネラ司教の三人で中へと入る。


 男性は胡座をかき、俯いている顔をゆっくりと上げた。そして此方を確認すると、へらへらと笑い出す。


「へへへ、今度は何をするつもりだ? お前らに俺様をどうにかすることなんか出来はしないぞ」


 人の体に取り憑いているからだろうか、随分と流暢に喋るな。本当に魔物が取り憑いているのか疑問に思ってしまう。


「初めまして、俺はライルと言います。貴方は本当にこの男性に取り憑いているレイスなのですか? 」


 男性は俺を見てニヤリと笑った。


「おう、これはまたとんでもねぇ化けもんが来たな。見た目もそうだが人間には見えねぇぞ。まぁいいや、そっちが名乗ったんだから、俺様も名乗らなければ失礼だな…… いいか、聞いて驚け! 見て慄け! アンデッドキングのテオドアとは俺様の事よ!! 」


 は? アンデッドキング? それって魔王候補であるキングの名を持つ魔物だよな。


『うわぁ~、コイツまだ生きてたんだ』


 アンネが嫌そうな顔で呟く。


『アンネの知り合い? 』


『う~ん、知り合いっちゃあ、知り合いかな? ケルン、じゃなくてカルネラも知っている筈だよ』


 カルネラ司教もこのレイスの事を知っているって? 俺は隣にいるカルネラ司教に顔を向けると、めんどくさそうな顔をして男性を見詰めていた。

 そして、徐に懐から小瓶を取り出して、中の液体を真顔で男性に振り掛ける。すると液体が掛けられた箇所から煙が上り、レイスは悲鳴を上げた。


「ぬわぁー!? あっつい!! だから! 聖水は無駄って言ってんだろがい! …… あつい! やめろ! やめてくだぁさい! 」


 一頻り聖水を振り撒いたカルネラ司教は満足したようで、手を止めた。


「まったく、なぜ貴方がここにいるかは知りませんが、とっととその男性から出ていきなさい」


「はぁ? なんだ貴様、この俺様に指図する気か? アンデッドキングの俺様に? ん? 馬鹿は休み休み言うんだな。出ていけと言われて素直に出てくのなら、初めから取り憑きゃしねぇよ」


「はぁ、そうですか。なら仕方ありません…… ライル君、お願いします。中から引っ張り出して下さい」


 何だかうんざりした様子でカルネラ司教は頼んできた。多少気になる所はあるけれど、今はこの男性からレイスを出さなければ。

 俺は自身の魔力を男性に送り、中にいるレイスを捕らえて、無理矢理に引きずり出した。


「んお! なんだ!? くそ! 放せ!! 」


 抵抗むなしく、全身半透明の三下っぽい顔つきの男性が俺の魔力に捕らわれ空中でもがいている。ほぉ、これがレイスか。何か思ってたのと違う。


「フハハハハ! 馬鹿め! こんな事でアンデッドキングである俺様を捕らえたつもりなのか? 片腹痛いわ! ……っ!? あっつい!! だから聖水はやめろぉ! 」


 なんだコイツ、本当にアンデットキングなのか?


「何時までも調子に乗ってんじゃねぇぞ! フンッ! 」


 テオドアと名乗ったレイスは俺の魔力による拘束から抜け出し、姿が完全に消えてしまった。


「レイスの肉体は魔力で構築されています。肉眼で捉えるのが不可能な程に自身を薄くする事が出来ます。加えてテオドアは気配すら消してしまうので厄介です」


 成る程、普通は魔力は見えないからな。だけど魔力を視る事が出来る俺には相手が丸見えである。今度は更に魔力を込めてレイスの体を包み、ガッチリと固めた。必死にもがくがどうにもならず、諦めてぐったりする様子が視える。観念したのかゆっくりと姿を現した。


「お前…… 一体何者だ? 俺様が身動き取れない程の魔力量、ほんとに人間なのか? 」


 失礼な、足りない部分があるだけで、どこをどう見ても人間だろうが。


「残念でしたぁ~。あんたじゃライルから逃げらんないよ! 」


 魔力収納からアンネが出てきて、勝ち誇ったようにレイスに向かって指を指す。


「妖精だと? お前、何処かで見た顔だな…… あっ!? 思い出したぞ! あのくそ生意気な勇者と一緒にいた妖精だな! お前らのせいで部下に情けない姿を晒すはめになったんだ! あの後の部下達の冷たい目といったら…… すっかりと信用を失っちまったよ」


「はぁ? あんた最初っから信用どころか慕われもしてなかったわよ。嫌々命令に従っている雰囲気なの気付かなかったの? 」


 レイスは信じられないといった風に目をむき、アンネを凝視する。


「え? だってお前、え? 俺様、アンデッドキングなんだよ? 全てのアンデッドを従えるキングなんだよ? 尊敬されていた筈…… だよな? 」


 いや…… 俺に聞かれても知らんがな。


「えぇ~、マジで? じゃあ、目覚めたら周りに誰もいなくなっていたのも俺様が嫌われてるから? いや違う! 全部あいつのせいだ! 俺様からキングの座を奪ったあの若造が悪い! 」


「なに? もうキングじゃ無いの? 」


 怒りの形相でレイスは憤慨しているが、俺の魔力で身動きが取れないので芋虫みたいにウネウネともがくだけであった。


「今はな! だが直ぐにキングの座を取り戻してみせる。そしてまた沢山の部下達を侍らせ、チヤホヤしてもらうんだ! その為に誰もやった事のない偉業を成し遂げ、あの憎たらしい泥棒からキングの座を奪い返すのだ! 」


「それでこの聖教国に単独で潜入してきたんですか? 結界もあるし、審査も厳しく厳重です。今までこの国に潜入しようとした魔物はいませんでしたよ」


 呆れるカルネラ司教にレイスは鼻で笑う。


「フッ、誰もやらない事に挑むから偉業なのだ。そんなのも分からんのか? 」


「でも結局は捕まってんじゃん」


 アンネに指摘され、悔しそうにレイスは唸る。


「ぐぬぬぬ…… 中に入れさえすれば此方のものだったのに、まさか俺様を捕らえる事が出来る人間がいようとは、予想外だった」


 あっ、分かった。さてはコイツ…… 馬鹿だな?

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