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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
220/812

6

 

 アルラウネ達を迎え入れ、旅を続けること五日。特にこれと言った問題もなく、順調に進んでいる。


 アルラウネ達は朝起きると、畑やニワトリ達の世話をして、果樹園の果実を収穫したり、湖で下半身の根っこを水に浸けながら寛いでいたり、夜になったらマナの大木の下で眠るという生活をしている。この五日間、仕事も慣れ始め、魔力収納内を満喫しているようだ。ギルとムウナもアルラウネ達を受け入れ、関係は良好である。


 森で冒険者達に警戒しながら暮らしていた頃に比べて、此方の暮らしは楽園のようだと、アルラウネ達は口を揃えて言う。

 初日に蜂蜜とデザートワインを振る舞ったら、いたく気に入ったみたいで、これ等を仕事の報酬として月に一度与えると伝えた所、俄然やる気を漲らせていた。


 食事は基本水だけど、それだけじゃ味気ないと思い果実水を与えている。昔は肉等の固形物も食べていたらしいが、アルラウネには消化器官と排泄器官がないので、体内で食べた物の水分を吸い取った後、口から吐き出さなければならない。そんな面倒な事をするなら初めから液体のみを摂取していれば良いという結論に至ったのだそうだ。


 ムウナは良くアルラウネ達と一緒にいる事が多くなった。触手のように動く根っこに親近感が湧いたのだろう。住人が一気に増え、賑やかになったのをアンネとムウナは喜んでいるけど、ギルは『また騒がしくなる』 と小言を言っていた。


 エレミアは魔物だという理由で、まだアルラウネ達を警戒している節がある。まぁ俺だって自分の中に魔物を住まわせるのに抵抗を感じない訳ではないが、人手が欲しかったので実利を選ぶことにした。それに、楽しそうに暮らすアルラウネ達を見て、こういうのも悪くないと密かに思う。


 アルラウネ達のように人と暮らし、争いを避ける魔物もいれば、目の敵のように人間を襲う残虐なのもいる。人間と同じで色んな魔物が存在してる。人と魔物が争わず共存出来れば、世界は平和になるのだろうか? いや、どうだろうな。何処まで行っても争いは絶えない、何だかそんな気がするよ。


 魔力収納内の事はアルラウネ達に任せ、俺はギルと一緒にカーミラの転移魔術対策を考える。魔術を使った後に残る魔力の痕跡を辿って、何処に移動したのかの特定は可能か? 魔術で転移が使用不可になるような空間を発生させるのは? 相手の魔術そのものを封印するような術はあるのか? 転移した時の空間の歪みを感知するような魔道具は作れないのか?


 様々な観点で思案してみるが効果的なものは見付からず、夜になっても難航していた。せめてカーミラの使う転移魔術がどういった術式か分かれば良いのだけど、自分の魂を魔力結晶に封印しているせいか、ギルの “知識支配” のスキルでカーミラの知識を得る事が出来なかった。アンネの妖精の目でも魂を視る事は出来なかったし、厄介な相手だ。


 また姿を変えて何処かに潜伏しているのだろうか? そうだとしたら、それを見破る術も考えなければならない。国の中枢に転移魔術で移動して、召喚魔術で手下を呼び寄せ攻める事だって出来る。となれば、転移を防ぐ結界を考案した方が良いのか?


『どんなに根を詰めた所で、良い考えが出ないときは出ないのよ。そういう時は気分転換でもして、一旦頭を切り替えよう! ということで…… 酒盛りだぁー!! 』


 そう言ってアンネは、魔力で酒瓶を持ち上げてアルラウネ達の方へ飛んでいく。住人が増えて嬉しいのか、それとも大勢で騒ぐのが楽しいのか、事あるごとに酒盛りをしようとしてくるから困ったものだ。まぁアルラウネ達も喜んでいるから別に良いんだけどさ。果実酒とワインだけにしておいてくれよ、他の酒は数が少ないんだからさ。


 あっ、今さらだけど、カルネラ司教への手土産は何が良いのだろう? ここは定番でお酒にするか? なら純米酒とデザートワインなんか珍しくていいかな? それとも菓子折りの方が無難か?


『ほらぁ! ライルも飲んで飲んで! じゃないと気分転換になんないよ! 』


『全く、この羽虫は…… 事の重大さが分からんのか? 』


 等と言いつつ、ウイスキーを飲むギル。何だかんだ言っても酒は飲むんだな。


 酒を飲み、ムウナと一緒に踊るアルラウネ達を視ながら俺も清酒を飲む。隣ではエレミアがワインをたしなむ。設置したマジックテントの前で焚き火を見詰め、静かな夜なのに自分の中は騒がしい、そんな不思議な光景に俺は何処か嬉しく感じていた。


 世界に争いが消えないのなら、せめて俺の中だけでもこんな平和を保っていきたいものだ。魔物も、人間も、妖精も、龍も、エルフも、異界の者も関係なく一緒に酒を飲んで騒ぐ。これ以上の平和はないだろうな。世界もこのぐらい平和になれば良いのに…… 決して叶わない願いもあるのだと、そう思う夜だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「見えてきたわ。あれがサンクラッド聖教国の聖都ね」


 結局、気分転換をしても有効な対策は出来ないまま、国境を抜けてサンクラッド聖教国へ着いてしまった。あの酒盛りは一体何だったのか…… しかし、ここが聖都か。高く聳え立つ真っ白は外壁に囲まれていて中々に壮観だ。外から見る限り手入れもきちんとされていて清潔感がある。


 そして、まだ朝も早い時間だというのにこの長蛇の列。これ皆、観光者か参拝者か? 昼までには中に入れるといいんだけどな。


 馬車を列の最後尾につけ、全く進みそうにない様子に俺はげんなりとした。

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