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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
218/812

4

 

 一夜明けて、村を出る前に村長へ挨拶をしていた所に、木の根を担いだ冒険者達が村に入ってきた。


「村長、何故あの冒険者達は木の根を担いでいるんですか? 」


 村長は長く伸びた白い髭を撫でながら答えた。


「あぁ、あれは村からちょっと行った所にある森に住む “アルラウネ” の根っこじゃよ。他の魔物と比べて無害なんじゃが、数が増えると厄介でな。定期的に冒険者達が討伐してるんじゃ。それと根っこは薬の材料にもなるでよ」


 アルラウネ? 確か植物の魔物だったと記憶している。


「それと、あいつらの上半身は人間と似ている姿をしてるんで、若い成り立ての冒険者が良く練習として狩っておるな」


「練習とは、何の練習ですか? 」


「そりゃ、盗賊等の人間を相手にする練習じゃよ。経験の無い者は、いざその時となると躊躇してしまうそうじゃ」


 成る程、その時に備えて人間に似ている魔物で慣れておこうという訳か。しかし、無害の魔物を一方的に殺すのはどうなのだろうか? いくら無害でも数が増えすぎたら困るから? この世界では魔物は見つけ次第殺すのが常識だし、これが普通なのかな?


 少しモヤモヤしたものを胸に抱きつつ、俺達は村を後にした。


 アルラウネ、植物の魔物で基本的には無害。意思疎通が可能ならば、交渉次第で魔力収納内の管理を手伝ってくれるんじゃないか?


『アンネ、アルラウネについて教えてくれないか? 』


『ほぇ? そうだね…… 大人しいというより、臆病な性格かな? 昔は森に迷った旅人なんかを襲って体液を吸い取っていたけど、今は人間達を避けてるようね。知能は人並みだから意思疎通は出来ると思うよ』


 なら決まりだな。俺は進路を変更して、アルラウネ達が住む森へ向かった。


 一時間もしないうちに森の前まで移動し、馬車とルーサを魔力収納へと戻したら、徒歩で森の中を捜索する。


「ねぇ、本当に魔物を引き入れるつもりなの? 臆病で無害と言っても魔物は魔物よ。それに昔は人を襲っていたってアンネ様も仰っていたじゃない」


 エレミアは俺の考えには少し否定的なようだ。相手は魔物だから無理もない、心配する気持ちも分かる。


「それでも、俺にとっては都合の良い相手なのは確かだよ。交渉に応じなければ直ぐに逃げるさ」


「倒さないの? 」


「あぁ、倒さない。無害なら放っておく。態々此方から殺す必要も理由も無いからね」


 長い間何もしてない、してこなかった者達を、魔物だという理由だけで殺すのは気が引ける。


 暫く歩いていると複数の魔力が集まっているのを確認出来た。数は二十とちょっとで人間ではない。十中八九、アルラウネ達だろう。俺はその魔力が集まっている場所へ足を進める。近くまで来たら気配を抑え、気付かれないよう忍び足で目視できる所まで行き様子を窺う。


 森の少し開けた場所で何かがいる。人間に似た緑色の上半身、細い枝が集まったかのような髪、肘から先は木の皮を張り付けたような腕をしている。下半身には足が無く、代わりに木の根っこを思わせる物が数本生えていた。その根っこを器用に動かして歩いている。顔も人間に似ていて、中性的な顔付きをしている。胸は平たいので男か女か区別がつかない。あれがアルラウネか、想像以上に人間に似ている。


 アルラウネ達は忙しなく何かを運んでは地面に埋めていた。何だろうと良く観察すると、下半身が無くなった仲間の死体を埋めているのだ。きっと村で見た冒険者達に殺された者達なのだろう。弔っているのかな? 魔物にもそういう習慣があるのか。


 う~ん、人間にやられたばかりなのに俺が出ていって大丈夫なのかな? すぐに逃げられてしまいそうだ。


 俺はゆっくりと、アルラウネ達を刺激しないよう繁みから出て姿を見せる。突然現れた人間とエルフにアルラウネ達は面食らったようで、一斉に動きを止め此方を凝視した。


「初めまして、俺はライルと言います。皆さんと話がしたいのですが、言葉はわかりますか? 」


 頭を下げ、出来るだけ優しい口調で話し掛けたけど、アルラウネ達の警戒心は消えることはなかった。しかし、丁寧に話し掛けてくる人間は珍しいのか、対応に困っている様子だ。そんな中、一体のアルラウネが前に出た。


「アナタハ、ニンゲンカ? ワタシタチヲ、コロシニキタノデハナイノカ? 」


 たどたどしくはあるが、言葉を喋る。意思疎通は可能のようだ。


「はい、俺は人間ですが、貴方達に危害を加えるつもりは毛頭ありません。取り引きがしたいのです」


 取り引き? とアルラウネ達はお互いの顔を見合わせ、戸惑っている。


「ワタシタチニ、ナニヲサセルツモリダ? 」


 俺は自分のスキルについて話した。魔力収納の説明の為、表に出てきたアンネの姿を見て、アルラウネ達は驚きと安堵の表情を浮かべる。


「どうでしょうか? 俺の魔力収納内で畑やニワトリ達の世話をしてくれませんか? 人間に襲われない生活をお約束しますよ」


「ナルホド、ヨウセイガイルノナラ、タショウハシンヨウデキソウダ。ダガ、カンゼンデハナイ。アナタノハナシガ、ホントウカドウカ、タシカメテカラ、キメル」


 うん、それは至極当然の事だ。オークやゴブリンと違ってとても理性的である。魔物と言っても、色々いるんだな。


「では、先に一人だけ魔力収納内をご案内しますので、確かめてみて下さい。それで信用できない、納得できないのであれば断って頂けて結構です。その時は何もせず、大人しく帰ると約束します」


 貴方達を騙すつもりはない。真摯な態度を心懸け、アルラウネ達と向き合う。その様子に、俺と話をしていたアルラウネが意を決した。


「ワカッタ、ワタシガタシカメヨウ」


 周りのアルラウネ達が引き止めようとするのを振り払い、俺に近付いてくる。


「ワタシガ、モドラナイトキハ、ニゲロトツタエテアル。ワタシヲトラエテモムダダゾ」


「そんな事はしませんので、心配は無用です。では、俺の魔力を受け入れて下さい」


 俺の魔力でアルラウネを包み込み、魔力収納へと入れる。突如として目の前から消えた仲間を見て、他のアルラウネ達がざわめき立つ。


『ナ、ナンダココハ!? コレハゲンジツカ? コンナトコロガソンザイスルトハ…… 』


 魔力収納の中へ入ったアルラウネは、一面に広がる花畑と湖、果樹園にマナの大木を見て、目を剥き呆然とした。


 反応は上々だな。これで信じてくれれば良いんだけどね。

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