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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
217/812

3

 

 サンクラッド聖教国は大陸の中央に位置するひとつの都市と、その周辺地域が独立した国。所謂、都市国家というやつだ。

 それでいて宗教国家でもある。都市に住む人達は全て教会に属する者であり、それ以外の人達は観光やその他の理由で何日かの滞在は認められるが、永住は許されない。


 この世界の国々は決して教会に手を出せない。何故なら彼等は中立を保つため、他国の干渉を避けるため、硬貨の製造を独占している。大陸全土に使われているお金は全て聖教国が造っているのだ。もし、何処かの国が聖教国に何かしらの危害を加えようとしたならば、その国は硬貨を大量に得る機会が無くなってしまう。ならば自分の国で製造すれば良いと思うがそうもいかない。


 大陸で使用されているのはただの硬貨ではなく、特殊な造りになっている。白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、この全ての硬貨は魔力を込めると、表面に刻まれてある紋様が虹色に光り出す仕組みになっていて、例えそれ以外の硬貨を製造したとしても、偽金と見られて信用されず、取り引きは成立しない。製造方法は秘匿されていて誰も知らないので、複製は不可能。

 俺も魔力支配のスキルで解析をした事があるのだが、全く分からなかった。魔術じゃないのは確かなんだけど……


 各国々は、自分達が採掘した金塊、銀塊、銅塊を聖教国へと運び、同じ重さの硬貨と交換している。硬貨には若干の鉄が混ざっているが、差分は聖教国の取り分として、国の運営費用にしている。流石にタダで造る訳にはいかないらしい。

 このように昔から大陸のお金は全て同じ硬貨が使用されている。両替の手間が無くて良いね。よって教会に危害を加える国はいない。過度な干渉もしてはいけないし、されることもない。硬貨の製造という力をもって、昔から中立の立場を厳正に守ってきている。


 都市には大規模な結界が張られていて、教会に属する者と許可された者しか中に入れないようになっている。魔術ではなく魔法による結界だ。今まで誰にも破られた事もない強力な結界だと言う。過去にも聖教国に攻め入った国があったようだけど、結界を破る術が見付からず、諦めて退却していったという逸話もある。属性神達の加護を受けた都市だとも言われているらしい。本当かどうかはさて置き、それほどまでに強力な結界が都市全体に張られているって事だ。


 そんな聖教国の協力を得られれば、カーミラの動きも把握出来るかも知れない。最悪協力は望めなくとも、カーミラの存在だけは報せなければならない。世界の安定を補佐するという名目がある以上、無視は出来ない筈だ。





 馬車を走らせて数日。国境を抜けて隣国へと入国した。ここを北に抜ければサンクラッド聖教国だ。当たり前の事だけど、北へ進んでいるので段々と寒さが厳しくなっていく。俺とエレミアはエルフの里から出る時に貰った深緑のローブを羽織っている。


 ふぅ、大分寒くなってきたな。何だか懐かしい。俺の前世での故郷も冬は厳しかったな。試される大地程ではないが、吹雪で前方が殆ど見えなくなる事もあった。でも夏はうだるように蒸し暑い。都心に越してから、よくあんな場所に住んでたなと思ったものだ。


 日が傾いてきた頃、前方に村が見えてくる。この寒さの中、出来るだけ野宿は避けたい。


「今日はあの村で一泊しようか? 」


「そうね、そうしましょう」


 村へと入った俺達は、宿が無かったので村長から空き家を一軒借りて一夜を越す事にした。多少ボロいけど屋根と壁があるだけで安心できる。


 エレミアに夕食の準備をして貰い、食事を済ませる。魔力収納内の畑を拡張して種類も豊富になった。米も育て始め、胡椒や甜菜、大豆も育てているので塩以外の調味料も自給自足で何とかなる。しかし管理が大変になったのは問題だ。花や果樹園はハニービィがいるから俺が手を出さなくても大丈夫なのだが、他がね……


 それからルーサとニワトリ達の世話もして貰いたい。インファネースの西商店街代表である、ティリアに紹介された農家から譲り受けた四羽のニワトリは、今ではひよこを含めて十五羽まで増えていた。魔力収納という特殊な環境で暮らしているせいか、卵の味が良くなった気がする。肉も旨くなっているんだろうな、でもまだ我慢しなくてはならない。先ずは数を増やして卵の回収率を上げる事が最優先事項だ。そしたら、雄は食肉として育てられる。


 ふふっ…… 思わず鼻で笑ってしまう。俺達人間だって、こうして家畜を増やしたり減らしたりしているのに、いざ自分達が同じ境遇になると不満不平を顕にする。そういう所がギルとアンネには理解し難いようだ。俺達は生きる為に、神達は世界の為に、命を犠牲にしている。もう何が正しいのか、考えれば考えるほど分からなくなってきて頭がどうにかなりそうだ。


 もう寝よう、だらだらと答えの出ない事を思案してもしょうがない。俺は守りたい人を守る為にカーミラの野望を阻止する。今はそれで良い。少しでも疑問に思ってたら、手遅れになるかも知れない。目的を見失うな、しっかりしろ。


 ベッドが無いので床に布団を敷き眠りに就く。もう余計な事を考えないように無理に目をつむる。大丈夫、明日になればこの悩みも消えているさ。それでまた、前を向いて歩けば良い。


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