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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
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1

 

 季節はすっかり冬。街を行き交う人達は半袖から長袖へと衣替えをしている。とはいっても、大陸南部に位置するこのリラグンド王国は真冬でもそれほど気温は下がらない。一番寒いなと思う時で十七度前後もある。だから年中薄着でいる人も珍しくはない。


 ジパングから戻ってきた俺は、すぐ母さん達にカーミラの事を話した。当然母さんは俺の心配をしていたが、事の重大さを理解してくれた。そこからはもう、あちこちと大忙しだ。マナフォンでエルフの長老、人魚の女王、ドワーフの王、インファネースの領主に連絡を入れてアポを取ってから其々に赴き、事の顛末と注意喚起を促す。


 特にシャロットには十分に気を付けるようにと忠告した。彼女もまた、俺と同じ世界の記憶を持っている。カーミラが接触してくる可能性は高い。シャロット自身は今の家族を大切に思っているし、前世からの夢を叶えられるかも知れない世界に生まれた事を喜ばしく感じている。それが魔物と人間を殺し合わせる世界だとしても。なのでカーミラの考えには賛同しないと明言してくれた。


 この国の第二王子であるコルタス殿下にはシャロットから伝えて貰ったけど、カーミラが何処にいてどんな手を使ってくるか、それとカーミラは単独なのか組織を組んでいるのかさえ分からないので、対策の練りようがない。今分かっていることは、隷属魔術を使い人を操る事と、人工的に魔物を造り出し、召喚魔術で何時でも呼び出せるという事だけ。


 リラグンド王国では王位争いが激化の一途を辿っている。第三王子の暗殺を企む第一王子に、早々に王位継承権を放棄してやりたい放題の第二王子、この国は大丈夫なのかと嘆くデイジーだけど、それはあくまでも噂話の域を出ない。色々と立て込んでいてカーミラの事まで手が回らない状況なのは分かった。


 エルフ、人魚、ドワーフは各自警戒してくれているが、基本自分達の領土から出ないからな。もし出たとしても余りにも目立ってしまうので情報収集には向かない。人間の、それでいて色んな場所にいても怪しまれないような人達の協力が必要になってくる。頼みの王族の目とやらも宛には出来ないと分かった今、白羽の矢を立てたのがサンクラッド聖教国である。


 この世界の宗教はひとつ、属性神の教えのみ。よって聖教国は中立の立場を守り、各国に教会が建てられている。神官達なら何処にいても怪しまれる心配はないだろう。それに、国ひとつに肩入れするわけでなく世界の危機という事で話を聞いてくれると思う。カルネラ司祭も、俺なら無下な対応はしないと言ってくれたし、協力を仰いでみるか。



「あらぁ! クラリスさんの髪、艶々ねぇ~ 白髪も減ったように見えるし、一体どんなお手入れをしているのか是非聞きたいわぁ」


「いえ、特別な事はなにも。息子が作ってくれたシャンプーとトリートメントを使っているだけですよ」


 デイジーに誉められた母さんは、上機嫌であっさりと白状してしまう。それにデイジーは、一瞬だけど猛禽類を彷彿とさせる目で俺を見た。


 そんな目で睨むな、怖いんだよ! 自慢したくなるのは分かるけど、程々にお願いしますよ、母さん。


 日頃の心労と冬の乾燥で母さんの髪は痛みまくっていた。心なしか白髪も増えた気がする。心労の原因はほぼ俺なので、何とかしたいと思い、独自にシャンプーとトリートメントを開発したのだ。主な材料には魔力収納で育てた花やハーブを使用している。

 収納内の大量の魔力とその魔力がこもった土で育った花やハーブで作ったので効果が予想以上に早く、如実に表れてしまった。僅か数日で母さんの髪に艶が戻り、白髪も根元が黒くなってきている。


「ねぇ~ん、ライルくぅ~ん。そのシャンプーとトリートメント、私も欲しいわぁ。売り物じゃないの? 」


 止めろ、色気を出した所で俺には通用せんぞ。それにあんた角刈りじゃないか。必要なのか?


「すいません。材料も少ないので、家で使う分しか作って無いんですよ」


「それって、庭にあるお花とハーブを使ってるのかしら? …… 何よ、そんな驚いた顔して。私は薬剤師よ、エルフ程ではないけど植物には詳しいわ。そんな私でさえ、あんたの家の庭で植わっているお花とハーブの種類が分からない。なら、それらを使用してるんじゃないかと思うのは当然でしょ? ねぇ、もう一人分くらい作る余裕はないの? お金はちゃんと払うから、ね? 」


 デイジーは腰をくねらせ、カウンター越しから迫ってくる。この人は勘が鋭いからな、敵に回すと厄介だ。


「はぁ、分かりましたよ。後で作って置きますから、離れて下さい」


 よっしゃあ!! と野太い声でガッツポーズをするデイジーに、俺は無意識に大きな溜め息を吐く。次いでにリタとリタのお姉さんの分も作っておこう、絶対デイジーは自慢する筈だからな。

 それでなくても犬型の獣人である双子のシャルルとキッカの艶々の髪を見れば気付くか。尻尾なんかよりふさふさで触り心地が良さそうだ。両腕がない俺ではその感触を十分に堪能することは叶わないのが残念で仕方ないよ。


 さて、行動に移すのは早い方が良い。準備を整えてサンクラッド聖教国へと向かうとしよう。まぁその前にシャンプーとトリートメントを作り置きしなくちゃな。


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