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ギガンテスを倒した俺達は、兵長であるロンバウトに連れられて、またあの取調室に来ていた。
「むう…… 俄には信じられないが、アズエルも同じ事を言っているしな。まさかレインが…… 姿を変えたと言いましたよね? それは、レインに化けていたという事ですか? だとすれば本物のレインの安否を確認しなくてはなりません」
確かに、カーミラが化けていただけなら何処かに本物がいると考えてもおかしくはない。
「…… 残念だけど、レインという人物は最初からいなかったと思うよ。カーミラは賢者として有名だから、この国で知っている人もいる。それで姿と変え、身分を隠して活動してたんじゃないかな? 本物がいる人間に変装するなんて、そんな足がつくような事はしない筈よ」
「成る程、貴女様がそう仰るのならば、そうなのでしょうな。賢者様が生きていた事にも驚きでしたが、町中であんな化物を造り呼び出すとは、何を考えていらっしゃるのやら」
随分とアンネには姿勢が低いロンバウト。この国の妖精の立ち位置はどうなっているんだろう?
「しかし、ライル君も人が悪い。妖精様とお知り合いなら始めからそう言って貰えれば、エレミアさんを調べるような事はしませんでしたよ」
「いえ、ジパングでの妖精の扱いが分からなかったので、大事をとって人目に晒さないようにしてました」
「そうでしたか。なら、その心配はご無用です。国に伝わっている伝承では、妖精様の力で多くの解放された奴隷達をこの地へ送ったとされています。勇者であり、国父でもあるクロト様の良き友人であったと。よって、妖精様を邪険に扱う者はジパングにはおりませんよ」
良き友人―― か、横目でアンネの様子をチラリと窺うが、無表情でいまいち感情が読み取れない。伝承とカーミラの言葉、どれを信じれば良いのだろうか。出来る事なら伝承の方を信じたい。
「フンッ! 妖精に免じて今回の事はお前を信じてやる。だが、大陸人を認めた訳ではないぞ。如何に奴隷制度が変わり、待遇が良くなろうとも奴隷は奴隷だ。我々は奴隷など断じて認めない」
奴隷という存在が世界から無くなるまで戦い続ける気なのだろうか? やはり制度はそのままで、派遣組合とかに呼び方を変えた方が良いんじゃないかな? う~ん、第二王子ともお知り合いなった訳だし、帰ったら相談してみようかな。
「アズエルさん、お口添えありがとうございました。お陰様でロンバウトさんへの報告も滞りなく進みました」
「…… 僕は自分で見て聞いた事を、嘘偽りなく答えただけだ。礼を言われる筋合いはない。最初はあの女の口車に乗せられてしまったが、少しおかしいと思ってな。やられたふりをして様子を窺っていたんだ。決して、そこの大剣を持った男に勝てないと思ったからではないぞ! 勘違いするなよ! 」
なんとも情けない捨て台詞を吐いて、アズエルは部屋から出ていった。彼とはまた何かで衝突しそうな気がする。面倒な人と知り合いになってしまったな。これもまた人生か……。
アンネを引き留めようとするロンバウトに断りを入れて、俺達は昨日泊まった旅館へ戻った。その道すがらギル達を魔力収納へ入れようかと思ったが、「我も温泉に入りたい」 という要望を聞き、一部屋多く借りる事になった。
先程からずっと聞きたそうにウズウズしていたテオドールに、ギル達を紹介する。
「ほぉ~、ライルさんの収納スキルの中に住んでいらっしゃるのですか、これはなんとも不思議ですな。ふぅ、今日は色々と大変な一日でしたね。早く旅館で休みましょう」
テオドールは必要以上に聞いてこず、此方を気遣う素振りを見せる。結果的にテオドールを巻き込む形になったようで、何だか申し訳ない。
旅館に到着して部屋を借りようとしたら、アンネを見た中居さんが慌てて女将を呼び、ちょっとした騒ぎになったりもしたけど、無事に部屋を借りられ、俺とエレミアとアンネは部屋でのんびりと寛いでいる。ギルとムウナとテオドールは早速温泉に浸かりに行った。
エレミアが淹れてくれたお茶を飲み、隷属魔術の対策を思案する。俺が知っているのは魔道具を使用した物だけで、人に直接刻む方法があったとは。ギルが言うには昔によく使われていた方法だそうだ。
だが一度刻むと容易には消せず、無理に消そうとすると魂が傷つき精神に異常をきたすようで、人道的ではないと禁止になった。それに伴い術式を後世に伝えないよう破棄されたらしい。
魔力支配のスキルだからこそ、エレミアに刻まれた隷属魔術を何の傷害も残さずに消せたのだろう。
カーミラはその隷属魔術が使われていた時代から生きているので術式も知っている。何か良い対策はないものか。
「ねぇ、ライル。わたしと一緒に来てもらいたい所があるんだけど…… 良いかな? 」
アンネが遠慮がちに聞いてくる。珍しいな、アンネが俺を連れていきたい場所か。何処だろう?
「あぁ、良いよ。何時行くんだ? 」
「出来れば今すぐに」
今から? 何とも急な話だね。俺はエレミアに部屋に残るように伝える。初めは渋っていたエレミアだったが、部屋に誰もいなかったらギル達が心配するからという理由でどうにか納得してもらえた。
アンネの精霊魔法で移動した先にあったのは、綺麗に加工された石が三段に積み重なっていて、三段目には長方形の石が乗っている懐かしい日本式のお墓だ。
お墓の周りには沢山の花が供えられている。此処がアンネの連れてきたかった所か? だとすると、このお墓は……
「ここはね…… クロトのお墓だよ」