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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
211/812

18

 

 地面に浮かび上がる大きな魔術陣から、これまた大きな魔物―― ギガンテスが三体も這い出てくる。その遠く後ろで、慌てて此方に走りよってくる衛兵達の姿があった。この騒ぎで誰かが通報したのだろう。


「そんな雑魚を何匹出そうが、我から逃げられるとは思うなよ」


 ギルの言葉を受けても、カーミラは平然とした態度は崩れない。余程自信があると見える。


「私はこの五百年、ひたすらに魔術の研究をしてきたのよ。ほんの少し時間を稼ぐだけで、容易く貴方達から逃げる事が出来るわ」


 カーミラが虚空に手を翳すと、空間が丸く歪んで別の景色が映し出された。あの現象には見覚えがある。あれは転移門やアンネの精霊魔法と同じ、転移する時に見る現象だ。


「フフ、転移魔術と言った所かしら。言ったでしょ? 人間の可能性は無限大だと…… 魔術は全てを可能にするのよ」


「待って!! カーミラ! ほんとにクロトはそんな事を望んだの? クロトはそこまでこの世界の事を…… 」


 アンネの悲痛とも取れる声でカーミラを呼び止める。だけど、カーミラのアンネを見る目は何処までも冷たいものだった。


「クロトの苦悩は貴女には分からないわ。傍にずっといた私でさえ、完全に理解出来なかったのだから。でも、ライル。君なら分かる筈よ。クロトと同じ世界の記憶を持つ君なら…… 全てを知った時、君は私の考えに賛同してくれるわ。そして私と共にこの世界と言う牢獄から全ての魂を救済するのよ。いずれまた君を迎えに行くから、それまで待っててね」


 バイバイと手を振り、カーミラは歪みを通り抜け消えていった。その様子をアンネは寂しそうに見詰めている。


「アンネ…… 」


「…… 大丈夫、大丈夫だよ、ライル。私は平気だから」


 全然そうは見えなかったけど、かける言葉が見付からなかった。


「おい! まだ戦いは終わってはいない。集中を切らすな」


 そうだ、ギルの言う通りまだ終わっていない。三体のギガンテスが動き出したその時、ギガンテスの後方から魔法が飛んでくる。どうやら衛兵達が到着したようだ。もう少し早く来てくれたらとは思うが、もう過ぎた事なので仕方がない。衛兵達がギガンテス達を取り囲み、剣を抜く。


「これは一体どういう事なのか、説明して頂きたい! 」


 兵長であるロンバウトが声を荒らげて聞いてくる。う~ん、なんて答えれば良いのだろう。そちらが用意した魔術師が実は五百年前の勇者の仲間である賢者で、ギガンテスを三体召喚して転移魔術で逃げて行きました―― なんて誰が信じるんだ?


「レインとか言う魔術師が、あの化け物共を呼び出したんだ! 」


 悩んでいる横から誰かが叫ぶ。声の方へ顔を向けると、そこにはアズエルがばつが悪そうに此方へ歩いてくる。何時から気が付いていたんだ?


「なっ!? レインだと? それは本当なのか? 」


「あぁ、本当だ。この耳でしかと聞いていたから間違いない」


 エルフの耳は人間よりずっと優秀だ。それを知っているロンバウトは小さく嘆息する。


「詳しくは、あの化物共を何とかしてからお聞きします。しかしあんな巨体が三体もとなると厳しいな」


 駆け付けた衛兵達は十数人程度、ロンバウトの見立て通り、厳しいだろうな。


「あの、俺達も協力します」


「それは助かります。妖精様の力を借りられるのならば、勝機は十分にある」


「僕も手を貸そう、あんな化物にこの国を荒らされてたまるか」


 アンネを見て何処か安心するロンバウトに、愛国心だけは強いアズエル。ほんと、穿った考えさえ持たなければ立派な人物になっていただろうに、惜しいね。


「迷惑を掛けた分、ここで取り返して見せるわ」


「よっしゃ! わたしもやったるぜ! 」


「我に掛かればあんな雑魚、どうと言う事はない。切り刻んでくれる」


「ライル、あれ、たべて、いい? 」


 さっきまでの失態を払拭しようと張り切るエレミア、何とか気を持ち直したアンネ、何時も通り強気なギル。それとムウナ、人目が多いから食べるのは我慢してくれ。


「こいつらは動きは鈍い! ひとつ所に固まらず散開せよ! 」


 ロンバウトの号令で散らばる衛兵達。


「魔法発射準備用意! 構え! …… 撃てぇ!! 」


 ギガンテス達に向けられた衛兵達の掌から、火球、雷、風の刃、氷柱、土塊と、様々は魔法が一斉に放たれる。何れも決定打にはならないが、隙を作るのには十分だった。


 その隙をついてエレミアは、ありったけの魔力を雷に変換して剣身に纏わせる。バチバチと煩く鳴り、眩く光る蛇腹剣をギガンテスへと伸ばした。真っ直ぐ、それでいて素早く、雷を纏った剣身は常人の眼には捉えられない程のスピードでギガンテスの頭を撃ち抜く。動きの鈍いギガンテスでは避けることは不可能。刃の先端が頭部にめり込んだ刹那、パァン! と小気味良い音と共に頭が爆ぜた。


 一方、ギルは別のギガンテスをミスリルの大剣でいたぶるように斬り刻んでいる。微笑を浮かべ、身の丈のある大剣を軽々と振り回す姿は、最早どちらが悪者か分からなくなってしまう。ギガンテスの指を落とし、脇腹を斬り裂き、アキレス腱を断ち切り、片足をついた所で曲げたギガンテスの膝を蹴り、頭上へ跳び上がる。そして上段から一気に大剣を降り下ろした。ギガンテスの頭は縦に割れ、血飛沫がまるで雨のように辺りに降り注ぐ。その中をギルは大剣を肩に担ぎ、満足そうに歩いてくる。


 アンネを頭に乗せ、最後のギガンテスへとムウナはひた走っていた。それに気付いたギガンテスはムウナの体より大きい己の拳を放つ。誰もがその巨大な拳に潰されてしまうのを想像しただろう。かくいう俺もそうだった。だが、誰もが抱いたであろう未来はギガンテスの拳と共にムウナによって打ち砕かれてしまう。

 あろうことかムウナは避けることもせず、向かってくる拳に自分の小さな拳をぶつけたのだ。拳と拳がぶつかった衝撃で近くにある建物の窓が割れていく。そして、一拍置いた後にギガンテスの拳から血が吹き出した。あんな小さな体の子供が素手でギガンテスの拳を砕いたことに、衛兵達は信じられないといった感じで驚いている。


 すかさず、ムウナの頭に乗っているアンネが風の精霊魔法でギガンテスの喉元までムウナを打ち上げた。打ち上げられたムウナは素早く自身の右手をドラゴンの頭に変化させギガンテスの喉を食い破ったあと、直ぐに元の右手へと戻す。その一連の動きは一瞬とも言える程に早く、余程の実力者でなければムウナの右手が掻き消えたかのように見えただろう。喉を半分程食いちぎられたギガンテスは頭の重さで後ろへ首が倒れ、後頭部と背中がくっついてしまう。ギガンテスの後ろにいた衛兵達の何名かは目があってしまったんじゃないか? 顔が青くなっているぞ。というかムウナ、ちゃっかり食べているじゃないか。お腹空いて我慢ができなかったか?



 ふぅ…… 俺の出番、全く無かったな。まぁ別にいいんだけどね。

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