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村を出て、森へ向かって歩いていると、後ろから人の形をした白い影を捉えた。数は三つ――おそらく先程の男達だろう……どうやら俺を尾行しているようなので、森に入った俺は魔力飛行を使い、一気に進んだ。男達も走って追って来ていたが、見失ったみたいだ。
家に着いて椅子に座って休んでいると、アンネが起きたので村で男達に絡まれた事を話した。
「なにそれ? 森は誰のものでもないのに、バッカじゃないの!」
「ここも、そろそろ潮時なのかもな……」
勝手に住んでいるのは事実だから、長くは居られない。
「そう? 今度はどっちに行く?」
そうだな、このまま宛のない旅を続けるのは正直しんどい……本格的に腰を落ちつける場所を探さないと。
「何処か大きな町でも探して、ゆっくりと暮らしたいよ」
「ふ~ん、いいんじゃない? 町での暮らしも楽しそうだし、いつ出発する?」
「色々と準備する事があるから、二、三日後には出発したいな」
さてと、まずはさっき買ったエールを魔力支配で水分を抜き、アルコール濃度の高い酒を作る。この酒に魔力収納の中で実った果実を漬け込み果実酒にする。
他にもハニービィの蜂蜜を使い、蜂蜜酒を作っている。アンネはこれ等が大好物なので、作っておかないと機嫌が悪くなってしまう。
「ねぇ、ライル~、今日はもうどこも行かないよね? だから“アレ”ちょうだい!」
「また、昼間から飲むつもりか? ……どっちにするんだ?」
「んとね、蜂蜜酒!」
アンネに蜂蜜酒を渡すと、うれしそうに飲み始めた。渡した酒瓶とグラスはアンネのサイズに合わせて、俺が作った物だ。
俺はまだ未成年なので飲めないのに、アンネが俺の目の前で美味しそうに酒を飲んでいる姿は、ある種の拷問だ。ちくしょう、俺も酒が飲みてぇ……この世界では十五歳で成人と見なされているので、それまでは我慢するしかない。
酒の仕込みを終わらせ、次は武器作りだ。
アンネの異世界の知識でという提案で、思い付いたのは “工具” だ。前世の工具を参考にして作ろうと考えたのだ。
電動式は構造が複雑でどうしようかと思ったが、よくよく考えみたら、電気ではなくて魔力で動かすのだから忠実に再現する必要は無いと考えた。
俺は鍛冶屋の親父さんから譲って貰った屑鉄を魔力支配でひとつに纏め、そこから純粋な鉄とその他の不純物とで分けて純度の高い鉄を作り、インゴットの形に整えた。
あとは、ここから工具という名の武器を製作するのだが、少し手を加えようと思う。
まずは、鉄を薄い円型にして、縁に細かい刃をつける。所謂 “丸ノコ” と言うやつだ。その中心に穴を開ける。
そして次に、円い盾――バックラーを二つ作り、その盾で丸ノコを挟む。まるで刃が生えた大きいヨーヨーみたいだ……でも、これなら中の刃だけ回して攻撃できるし、盾の部分で防御もできる――バックラーは通常の大きさで、中の丸ノコだけ大分はみ出るくらい大きく作った。
作業が終わると辺りはすっかり暗くなっていた。
出来たら見せるとアンネに言ったので見せたら、
「おお! 何これ? うゎ~すっごいギザギザ……えげつないわね~、これが異世界の武器?」
アンネは興味深そうに見ていると、
「ねぇ、これ何て名前なの?」
と聞いてきた。
「え? 名前?」
名前かぁ……確かあっちでは“電気丸ノコ”や “サーキュラソー”とか呼ばれていたな。でも、どちらも“電気で動くノコギリ”て言う意味だしな、電気ではなくて魔力で動くから……
「……“魔動式丸ノコ”……とか?」
「…………なにそれ! カッコ悪い!!」
「じゃあ、“魔力式丸ノコ”は?」
「さっきのと変わってないよ! 丸ノコだけでいいじゃん」
「いや、向こうの丸ノコとは似て非なる物だから……そのままで呼ぶのは、少し抵抗があるんだよ」
なんか違うから、呼べないんだよな……
「ふ~ん、じゃあ最初のでいいよ」
“魔動式丸ノコ”か……それでいいかな。
「で? どうやって使うの?」
そうだな、武器として使えるかテストしないと……
「明日、狩りの時に試してみようと思ってる」
「楽しみだね!」
他にもチェーンソーやドリルなんかもあるけど……素材に余裕があったら挑戦してみようかな。
しかし、この世界で工具か……意外とありかも。




