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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
209/812

16

 

 愉悦の笑みを浮かべるレイン、さっきまでとはまるで別人のようだ。いや、これが彼女の本性なのだろうか? だとするとエレミアに隷属魔術を仕掛けたのはレインなのか?


「ライル、だいじょぶ? 」


 落ちている首を拾ってくっ付けたムウナが何事も無かったかのように俺の心配をする。


「あ、あぁ、お陰で助かったよ。ムウナこそ、平気なのか? 」


「ん、だいじょぶ。もんだい、ない」


 この俺とムウナのやり取りを興味深く観察するレインが楽しそうに声を荒らげる。


「良いね! 良いよ! 実に素晴らしい素体だ」


「素体? レインさん、エレミアをどうするつもりなんですか? 」


「うん? あぁ、彼女は別に…… 利用できそうだったから、しただけだよ。私の目的はそっちの子供の姿を模した化物とライル、君さ」


 俺とムウナが狙いだと? それでエレミアに隷属魔術までかけて利用したと? くそっ! ふざけやがって!


「くっ…… ライル、ごめ、ん。体が、思うように、動かないの」


 エレミアが苦しそうに喋る。どうやら意識はあるみたいだ。


「ふふ、私の隷属魔術は強力だよ? 今じゃ彼女は私の立派は操り人形さ」


 一刻も早くエレミアに刻まれている隷属魔術を解除しなくては。だけど、それにはエレミアの動きを封じる必要がある。


「ムウナ、エレミアを取り押さえてくれ」


「ん、わかった」


 ムウナがエレミアを押さえている間に、俺の魔力支配で隷属魔術の術式を完全に消すしかない。


「おっと、そうはいかないよ…… アズエルさん! 助けて下さい! 彼等はまたエレミアさんに無理矢理、隷属魔術をかけようとしています! 」


 何が起こったのか理解出来ずに傍観しているアズエルに、レインは目を潤ませ哀願する。


「なに!? それは本当か? 衛兵達は隷属魔術は仕掛けられていないと言っていたが? 」


「私がエレミアさんを調べた時に解除したんです。衛兵達に任せてしまえば、エレミアさんは国の保護を受けるでしょう。ですが、今の国の政策ではいまいち信用出来ません。それよりもアズエルさん達にお任せした方が、ずっとエレミアさんの為になると思ったんです」


 こいつ、二重人格か何かか? よくもまぁそんな台詞をすらすらと。


「成る程、確かに今の政策では信用出来ないのは分かる。そう言うことなら喜んで手を貸すぞ! 」


 ちっ、またややこしい事になった。テオドールは未だに現状を理解出来ずにオロオロしている。ごめん、今は説明している暇はない。


 どうする? エレミアは強い。俺とムウナで相手をしなければ厳しいだろう。アズエルだけならさして問題はないのだが、レインの実力は未知数、アンネだけでは不安が残る。


『ギル、頼める? 』


『フン、我の相手はあの小僧か、つまらんな』


『いや、レインとアズエルの二人をなんだけど』


『ふむ、それなら少しは楽しめそうだ』


 魔力収納から人化したギルが、ミスリルの大剣を携えて出てくる。


「アンネは守りに徹してほしい。何をしてくるか分からないからね」


「あいよ! りょ~かい! 」


 突如出現したギルにアズエルは驚きを隠せず、レインはニヤニヤと笑うだけ。


「へぇ、また凄いのが出てきたね。楽しくなってきたわ」


「その余裕、何時まで持つかな? 」


 ギルが素早い踏み込みでレインとの距離を詰め、大剣で斬りかかる。しかし、レインの周りの空間が歪みギルの大剣を受け止める。


「隙あり! 」


 そこへアズエルがギルに向かって剣を振るうが簡単に避けられてしまい、ギルの胴体へと蹴り一発で吹っ飛び、気を失ってしまう。

 アズエル…… もう少し頑張れよ。あまりの呆気なさに、ついそう思ってしまった。


「空間魔術か、中々やりよる」


「お褒めに預かり光栄ですね。次は私から行きますよ」


 レインの両肩の前に魔術陣が浮かび、その中からバチバチと音を鳴らしながら鞭のように細い雷の塊が出現する。


「この雷の鞭から逃げられるかしら? 」


 両肩から生える雷の鞭がギルを襲う。ギルは全て大剣で弾くが、疾風の如く振るう鞭の動きに、反撃のチャンスを掴めないようだ。


「ライル! こっちも来るよ! 」


 アンネの言葉と同時にエレミアが蛇腹剣の剣身を伸ばし襲い掛かってくる。それをアンネが精霊魔法で防ぎ、ムウナが全身から触手を生やしエレミアを取り押さえようとする。だけどエレミアの雷魔法でムウナの触手が焼き焦がされてしまった。


 やっぱりそう上手くはいかないか。剣身を戻した蛇腹剣で上段から斬り下ろしてくるのを、俺は魔力で操るミスリルの剣で受ける。そして、もう一本の剣で反撃を試みるが容易に躱されてしまう。

 その流れで俺とエレミアの剣での応酬が繰り広げられるが、何だか懐かしく感じる。エルフの里で良くこうしてエレミアと稽古をしたもんだ。あの時は木剣だったけど、まさか真剣で打ち合う事になるなんて思いもしなかったよ。


 でも、あの時と比べて動きがぎこちない、顔も苦しそうだ。必死に隷属魔術の強制力から抵抗しているように見える。エレミア、直ぐに楽にしてやるからな。もう少しだけ頑張ってくれ。


 俺はエレミアの体に魔力を送り、動きを止めようとスキルで体の支配を試みる。意識が残っているのなら完全には拒否されない筈。俺の思惑通り、少しだけ動きが鈍くなり、その隙にムウナの触手でエレミアの全身を縛り押さえるのに成功した。


 エレミアの意識がなく完璧に操られていたのなら、こうはいかなかっただろう。でなければ魔法も使われて、お互い無事では済まなかった筈。エレミアもまた、隷属魔術と戦っていたんだ。


 俺はすぐさま集中して魔力をエレミアに流す。エレミア自身を解析し、魂まで辿り着く。そこにエレミアを縛る術式が視える、これが隷属魔術の術式か。しかもそれだけではない、何重にもプロテクトが掛けられていて隷属魔術まで届かないようになっている。


 へぇ、こんな事も出来るのか。いや、今は関心している場合ではない。魔力支配でプロテクトを一つ一つ破壊していく。どんなに頑丈にしていたとしても、意思を持たないただの術式なら、この魔力支配の力の前では無力。術式そのものを完全に消し去る事が出来る。


 最後のプロテクトを破壊し、隷属魔術の術式を消していく。まるでノートに書かれた字を消しゴムで消すかのように、一文字も残すことなく消し去った。


 ふぅ…… これで大丈夫な筈だけど、どうかな? ムウナに触手を緩めてもらうと、エレミアはゆっくりと起き上がる。


「…… ライル、ごめん。油断した」


「いや、こうして無事に戻れて良かった。俺の方こそ、直ぐに気付けずにごめんよ」


「ううん…… ライルは何も悪くない。この借りはしっかりと返させて貰うわ」


 エレミアは蛇腹剣を拾い、レインとギルが戦っている光景を力強く見据える。


 この調子なら大丈夫そうだ。良かった、もしエレミアを開放出来なかったらと思うと胸が苦しくなる。しかし、レインは一体何者なんだ? 何れにせよ、エレミアに隷属魔術を掛けた落とし前は必ずして貰わなければならない。

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