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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
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14

 

「ぐへっ! 」 「ぶぺっ! 」 と奇声を発しながら男の子に殴り飛ばされる大人達、なんてシュールな光景だ。


「なんだ、このガキ! 強すぎるだろ! 」


 ムウナの強さに男達はすっかり逃げ腰になる。無理もない、見た目は男の子でも、中身は怪物だからね。


 時折、俺の方にも襲い掛かってくるが、事もなくいなし続ける。手加減して相手をするのは案外難しいものだな。出来るだけ傷を負わさないようにしているけど、ムウナにやられた人達は皆顔面を強打されて、鼻血を流し気絶している。中には歯が折れてる者もいた。


 確かに、ムウナにしては随分と軽めだ。俺の言い付けをちゃんと守っているのは分かる。しかし、過剰防衛で訴えられたりはしないよな?


 襲われている俺達を見て、エレミアはこっちに向かいたがっているが、エルフの青年が通せんぼしていて若干苛ついているように苦い顔をしている。無用に傷付けないよう手加減をしているうえに多少腕が立つエルフの青年に、思うように動けないみたいだ。


 そろそろお互いに疲れが見え始めたところに、ホイッスルに似た音が鳴り響いた。その音に争いの手は一時止まり、ガチャガチャと鎧が鳴る音が近付いてくる。


「お前ら! 大人しくしろ! 全員武器を収めるんだ! 」


 鎧を着込んだ人達が俺達を取り囲む。国の兵士だろうか?


「あぁ、良かった。衛兵達が駆け付けてくれましたよ。これで安心ですね」


 テオドールはホッと息を吐き、安堵している様子を見せる。これで終わってくれるといいんだけどね。


「私はこの温泉町の衛兵を束ねている、ロンバウト・イガラシと言います。町で乱闘事件が起きていると通報を受けて来たのですが、詳しくお聞きしても宜しいですか? 」


 青い短髪の壮年男性―― ロンバウトが俺達を集め、話を伺ってきた。


「僕は何も間違った事はしていない! 無理矢理奴隷にされている同族を救おうとしただけだ! 」


「…… 確かに、この国で奴隷は禁止されています。もし、大陸から奴隷が来た場合は如何に理由があろうとも、隷属魔術が施されているのなら、それを解除しなければならないという法があります。貴方の考えは何ら間違ってはいないと言えるでしょう。しかし、その手段が間違っていると私は思います。本当に救いたいと思っているのなら、力ずくではなく我々に通報して、法の範疇で行動して頂きたい」


 ロンバウトに嗜められ、エルフの青年は顔を顰め下唇を噛む。その様子にロンバウトは軽くため息をつき、俺とエレミアに向かい合う。


「それで…… この者の言う通り、そちらのエルフの女性は貴方の奴隷なのですか? 」


「いえ、違います。エレミアは奴隷ではありません」


「嘘をつくな!! この卑怯な大陸人め! 」


 横槍を入れてきたエルフの青年を、ロンバウトは部下に命じて遠ざける。


「失礼しました。本当に貴方の奴隷ではないのですね? 実は両目に魔道具を埋め込まれた奴隷らしきエルフの女性がいると通報がありましね。その女性を引き連れている大陸から来た人間の特徴も貴方と一致する」


「そんな…… お二人は家族も同然です。奴隷な筈がありません」


「それは調べれば分かること。我々とご同行願いますかな? そこで詳しく事情を説明して頂きたい」


 テオドールの言葉をにべもなくあしらうロンバウト。こちらの意見を聞いているようで、半場強制しているのが窺える。反発しても無駄だろう、ここは大人しくついていってきちんと説明した方が良さそうだ。


「分かりました」


「ご協力ありがとうございます。では案内致しますのでついてきて下さい」





 衛兵達に連れられて俺は一人、取調室のような部屋でロンバウトとは別の衛兵に事情を説明していた。


「…… ですから、エレミアは生れつき眼球が無かったんです。それで、眼の代わりになる魔道具を作製して、嵌めているんです」


「ほ~、なるほどね~。それで、彼女とは何処で出会ったのかな? 」


 はぁ…… 何で同じ話を何回もしなくちゃならないんだよ。真面目に話を聞く気あるのか?


「あの、エレミアの検査なんですけど、どういう検査方法なんですか? 」


「ん? 別に危ない事はしていないよ。魔術師を呼んで、彼女自身、または両目にある魔道具に隷属の魔術が施されていないか調べるだけさ。ちゃんと女性の魔術師を呼んだから、変な心配は無用だよ」


 それを聞いて安心した。まぁ、テオドールとムウナも一緒にいるから大丈夫だと思うけど。


「もうひとつ質問しても良いですか? 」


「あぁ、どうぞ」


「襲ってきた人達はどうなるんですか? 」


「彼等はね、今回は厳重注意だけで済むかな。死者も出ていないし、怪我もそんなに酷くないからね」


 今回は? 何だかあの人達を知っているようだな。


「有名な方達なんですか? 」


「まぁね、有名といえば有名かな。彼等は反大陸派の連中なんだよ。主にエルフが中心となって組織されている。君に突っ掛かってきたエルフの男がいただろ? 名前はアズエル、反大陸派組織の幹部の一人さ。あいつの母親が五百年前に大陸で奴隷にされていたらしくてね。その話を幼い頃から聞かされていたアズエルは、大陸の人達を憎むようになったのさ」


 それで盲目的に大陸の人間を憎んでいるのか。そんな話を聞かされて育ってきたんじゃ仕方ないのかも知れない。子供にとって母親は絶対に正しい存在だからな。

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