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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
206/812

13

 

「へへ、大人しく言うことを聞けば痛い目にあわずに済んだのによ。大陸の奴等は馬鹿だよな」


 数から見て圧倒的有利と見た男達は、己の勝利を疑ってはいないようだ。十分に距離を詰めてきた所で、先手を切ったのは虎型の獣人の男性だった。獣人特有の身体能力の高さで俺達に迫ってくる。俺に向かって手を伸ばし、あわや掴まれると思ったその時、虎型の獣人は突如宙を舞い、地面に背中から落ちた。エレミアが俺を守る為に虎型の獣人が伸ばした手を掴み、後ろへ投げ飛ばしたのだ。


「なっ!? そ、そうか! 隷属魔術で無理矢理戦わせているのか。何処まで性根が腐っているんだ! 」


 エルフの青年が俺を睨み付け、ギリギリと歯噛みする。いや、だから違います。そっちの勘違いで勝手に恨みを深くしないでほしい。


「彼女には傷を負わすな! 取り押さえるだけにしろ! その間にその大陸人を痛め付けてやれ! 」


 複数の人達を相手にエレミアはこっちにまで手が回らなくなり、俺の方にも奴等が襲い掛かってくる。俺は鉄のガントレットを装着した木の腕を魔力で操り、襲い掛かる男達を投げ飛ばし、時にはどやしつけながら抵抗をする。


「くそ! なんだこいつ。こんななりしてやがるのに、意外とつえぇじゃねぇか」


 残念、俺も生きるのに必死だからね。ただのならず者に負ける訳にはいかないんだよ。


「中々やるようだね。なら、此方も本気で行くしかないか」


 腰に差している剣を抜き、エルフの青年は俺の方に歩いてくる。


 おい、剣なんか抜いたら喧嘩じゃ済まないぞ。こっちも相応に相手をしなければならない。エレミアも蛇腹剣を抜き、庇うように俺の前に出る。


「っ!? 何処までも卑怯な大陸人め、彼女を盾にするつもりか」


「何度も言ってるでしょ、私は自分の意思でライルを守るの」


「なにも心配することはないよ。直ぐに僕が自由にしてあげるからね。そしたら、その気味の悪い魔道具を取り外して目を治してあげるよ。その後は大陸なんかに戻らず、この国で暮らせば良い。皆歓迎してくれる」


「何故? 私も大陸の住人よ」


「ハハッ、僕達が憎んでいるのは大陸の人間だけさ。エルフとドワーフは被害者であって、人間達から保護しなくてはならない。だから君がここで住むには何も問題はないのさ」


 エルフの青年は素早く踏み込み、俺との距離を一気に縮めようとする。あの軽い身のこなし、戦い慣れているな。あくまで狙いは俺ということか。しかし、俺に向けられた刃は届くことはなく、エレミアによって阻まれた。軽々と蛇腹剣で受けるエレミアに、エルフの青年は感心した様子を見せる。


「やるじゃないか。益々気に入ったよ」


「私は気に入らないわ」


 そのまま二人は剣戟を振るい、一進一退の攻防を繰り広げる。お互いに相手を殺さないよう手加減をしているので、見た目互角にように感じるが、エレミアの方が幾分か余裕があるようだ。


『殺気が全く籠っていない。これでは子供の遊戯と一緒ではないか。まだこの者等の方がましだな』


 ギルが言ったように、エレミアとエルフの青年には殺気がまるでない。まるで稽古をしているみたいだ。それに比べて、俺とテオドールを囲む人達は殺気というか怒気が凄いね。


「ラ、ライルさん、こちらも剣を抜いてきましたよ。どうするんですか? 」


 テオドールが俺の後で不安そうにしている。まぁ普通は刃物なんか向けられたらビビるよな。


「へへ、頼みの嬢ちゃんは助けてはくれねぇぜ。なぁに、殺しはしねぇが、痛い目にはあって貰うぞ」


 下卑た笑みを浮かべる男達。成る程、俺が無理矢理戦わせていると勘違いしているので、エレミアを足止めしてその隙に俺を仕留めようって魂胆か。

 俺とエレミアだけなら特に問題はなかったけど、テオドールがいるからな。彼を守りながらでは少し骨が折れそうだ。


『ライル、あいつら、たべる? 』


『ムウナ、人間を食べては駄目だ。また体の自由がきかなくなるかも知れないぞ』


『わかった、たべない。かわりに、たおす! 』


 へ? ムウナはそう言うや否や、子供の姿で魔力収納から飛び出し、目の前にいる男の顔面を強く殴打した。殴られた男は変な声を漏らして地面に弾みながら吹っ飛んでいく。


「ちょっ! ムウナ! なに勝手に出てきてんの!? 」


「だいじょぶ、ころして、ない」


 フンスッ、と胸を張るムウナ。いやいや! 確かに殺してないのは偉いけど、問題はそこじゃないよ!


 突然現れた男の子の姿をしたムウナに、取り巻き共は目に見えて混乱していた。


「何で子供が?」

「それより、見たか? 殴られて吹っ飛んでいったぞ」

「あれは人間なのか? 」

「どうすんだよ、あれもやっちまうのか? 」

「何処にいたかは知らねぇが、あれも大陸人だろ? ならやることは同じだ」


 話が纏まった男達は剣を構える。おいおい、お前らは子供にも刃物を向けるのか?


「エレミア、やくそく、した。ライル、まもる」


 もしかして封印の遺跡でエレミアが頼んだことを今も律儀に守っているのか。はぁ、出てきたものは仕方ない。ムウナにも闘ってもらうか。


「ムウナ、殺しちゃ駄目だからな」


「わかった、まかせて」


 まぁこれでテオドールを守ることに専念出来るから、助かってはいるんだけどね。


『む? なら我も参加しても良いか? 殺さなければ良いのだろ? 』


『あっ、そんならわたしも! 久しぶりに人間に悪戯したい!! 』


 駄目だ駄目だ! あんたらが出てきたら騒ぎどころじゃ済まなくなるだろ。ギルの殺さないは信用出来ないし、アンネの悪戯なんて嫌な予感しかしないぞ。

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