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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
204/812

11

 

 ジパングは町の外でもちゃんと道が石で舗装されていて馬車で走りやすく、そこにルーサの馬力が加わり予定よりも早く温泉町に着くことが出来た。

 ルーサが張りきりすぎたってのもあるけど、馬車で一日の所を半日足らずにしたんだから驚きだ。もうルーサは魔獣になってしまったのかと疑ってしまう程である。因みに御者はエレミアがしている。


「いやぁ、馬車だけでなく馬も一級品とは流石ですね! まさか今日中に着けるとは思いもしませんでしたよ」


 ルーサも魔力収納の中で長くいたからか、普通の馬と比べると体の大きさと筋肉の付き方が全然違う。けれど性格は購入した頃となんら変わらず、大人しいままだ。


 町の門を潜り、馬屋で馬車とルーサを預ける。魔力収納内に戻したかったのだが、観光町なだけあって人目が多い。まぁこの馬屋にも馬専用の温泉があるらしいから、ルーサもゆっくりと寛いでくれ。


「凄い匂いね、なにかしら? この匂いをどう例えればいいのか分からないわ」


 エレミアが町中に漂う硫黄の匂いに顔をしかめる。一般的には卵が腐った匂いとは言うけど、実際に腐った卵を嗅いだことがないので俺にも分からない。正確には硫黄は無臭で硫化水素の匂いなのだが、言葉の成りたちから考えて、硫黄の匂いがする―― は別に間違った言葉ではないらしい。


「ハハッ、慣れない内は厳しいかも知れませんが、この匂いを嗅ぐと温泉に来たと実感出来ます。さて、もう夜も遅いので先に泊まる旅館を決めてしまいましょう。私のお薦めで良いですか? 」


「はい、お任せします。因みにその旅館にも温泉はあるんですよね? 」


「勿論です。ここは温泉町ですよ? 全ての旅館と宿には温泉がついてます」


 それは楽しみだ。町の街灯には大きな提灯がぶら下がり、まるで日本の祭りみたいな雰囲気も出ている。そんな新鮮だけど何処か懐かしい町並みを歩き、テオドールお薦めの旅館で部屋を借りる。何時もの如く、テオドールと俺達は別々の部屋を取った。


 部屋には浴衣が用意されていたので早速着替えてエレミアと温泉に向かう。夕食は旅の途中で既に済ませてあるから、後は温泉に浸かって寝るだけだ。

 今は夜の十一時過ぎ、温泉に入る人は少ない。落ち着いてゆったりと温泉を楽しめるな。服を脱ぎ、体を洗ってから屋内の温泉に浸かる。


 はぁ~…… いい湯だ。疲れがきれいさっぱり取れるようだ。本当、温泉なんて何時ぶりだろうか? 覚えているのは前世で俺が小学生だった頃、家族全員で最近出来たという温泉テーマパークに泊まりで行った事があったな。家を出てからはたまに銭湯に行くぐらいだったから、それ以来か。


 さてと、体も温まった事だし露天風呂の方に行くとしよう。



「あぁ、お待ちしてましたよライルさん。一緒に飲みましょう」


 露天風呂で俺を待っていたと言うテオドールが、湯に浮かせている木の桶からお猪口を取り出して此方に差し出した。桶の中には徳利もある。もしやこれは、一度はやってみたいと思うシチュエーションのひとつ、“温泉に浸かりながら酒を飲む” ではないか!


 流石テオドールだ、分かってらっしゃる。俺はお猪口を受け取り、お互いに酒を注ぎ合う。そして、「お疲れ様でした」 と軽く乾杯して酒を飲む。


 …… かぁ~! たまんないね! 秋の冷えはじめの空気の中、外の温泉に浸かりながら酒を飲むのは実に贅沢な気分になる。風呂で酒を飲むというのは危険な行為なのだが、それをあえてするのも気持ちが良い。でも、酔いが回りやすいので量は控えめに。


「この時間は人が少なくていいですね。のんびりと出来ますから。明日はどうしましょうか? この町には珍しい温泉が沢山ありますよ」


「それは楽しみですね。なら明日は温泉巡りと行きましょうか、肌がふやけるまで入りますよ」


 そう言う俺に、「程々にお願いしますよ」 とテオドールは静かに笑った。


『むぅ、その酒の飲み方は我もしてみたいぞ。ライル、今すぐ浴槽を作り、温泉を引き込むのだ』


『お! 良いね~、わたしもやろっかな? 』


 あらら、やっぱりギルも興味をもったか。温泉じゃなくてただのお湯でも良いですかね? 流石にここの温泉を盗む事は出来ないよ。


 ギルにはそれで妥協してもらい、ほろ酔い気分で温泉から上った後で、魔力収納内の花畑が見える位置に、露天風呂みたいな石で出来た浴槽を作って湯を張った。


『まぁ、景色はあれとして、こういう飲み方も中々良いな』


『なによ~、いい景色でしょ。最高じゃない! 』


『いや、もう見飽きてしまった』


 ギルとアンネは、湯に浸かりながら酒を飲み、また何か言い争っている。このやり取りは飽きないんだね。


『…… あったか、ぷかぷか』


 男の子の姿をしたムウナは、なにもせず湯に浮かんでるだけ。楽しそうだからまぁいいか。


 部屋に戻ると、既に布団が二組敷かれていた。


「あ、お帰り。ライル、顔が赤いわよ。のぼせたの? 」


 先に戻っていたエレミアに温泉に浸かりながら酒を飲んでいたと説明したら、


「へぇ~、そんな飲み方があるんだ? 私も後で試してみようかな」


 と、興味深そうに言った。


 勢い良く布団に飛び込み仰向けになる。風呂上がりで体がほぐれ、いい感じにお酒も入り眠気を誘う。今日はもう休もう、明日は朝から温泉巡りだ。


 眠気に勝てず目をつむる俺に、エレミアはそっと毛布を掛けてくれた。

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