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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
203/812

10

 

 担当者のコバヤシに商品を用意してもらい、商談は成立した。元値を余り知らないので言い値で買うしかなかったけど、次は今より安く仕入れようと思う。


 酒も仕入れたし、後は工芸品なんかを見ながらお土産でも探すかな? 等と考えていると、コバヤシが少し遠慮がちに聞いてきた。


「あの、ライルさんは大陸の方なら、そちらにいるエレミアさんも大陸からいらしたのですよね? 」


「え? はい、そうですが、それが何か? 」


 尚も顔をしかめて言いづらそうにするコバヤシ。一体どうしたと言うのだろうか?


「不躾では御座いますが、お二人の関係をお伺いしてもよろしいですか? 」


「俺とエレミアの、ですか? 別に構いませんよ」


 俺はコバヤシに、エルフの里でお世話になった時の事を簡潔に話して伝えると、コバヤシの表情は徐々に柔らかくなっていった。


「そうでしたか、それで両目に魔道具を…… それは目の代わりなんですね。お気をつけ下さい、大陸の人間というだけで色眼鏡で貴方を見る人もいます。それに加えて両目に魔道具を埋め込められたエルフを連れている。大陸には隷属の魔道具があるそうですね? つまり、そういう風に見られるという事です。余計な問題を起こされる前に、この国から出るのをお薦めしますよ。大陸に恨みを持つ人達もいますので」


 それって、俺が無理矢理エレミアを奴隷にして連れ歩いていると見ている人がいるってことか? 勘弁してくれよ。大陸との交流が少ないから、今の奴隷制度の情報がちゃんと伝わっていないのかも知れない。


「ご忠告ありがとうございます」


 商業組合の建物から出ても、コバヤシの言葉がまだ頭に残っている。今も通りすがりに露骨な視線を送る人達も、エレミアを俺の奴隷として見ているのだろうか? 俺はどんな風に見られても平気だけど、エレミアがそんな目で見られていると思うと、なんか嫌だな。


「ライル、私は大丈夫だよ。どんな目で見られようと、私達は何もやましい事はしていないんだから。何か言われたとしても、堂々としていればいいわ」


 そうだな、周りの目は気にしない。そうテオドールにも言ったし、堂々としていよう。


『くだらない、周りが勝手に勘違いしているだけではないか。よく考えもせずに、見た目と出生地だけで決めつけている。愚かとしか言いようがないな。そんな者達など相手にする価値もない』


『う~ん、クロトが連れてきた時はこんなに酷くはなかったと思うんだけどな~。まぁ、最初は国を造るのに必死だったから、そんなことを考える余裕がなかっただけなんかな? 』


『そんな、ことより、はらへった! 』


 ギルは相変わらず辛辣だがその通りだと思う。きっとアンネが言ったように、心に余裕が出来たからこそ虐げられてきた恨みを、怒りを、表に出してきたんだろう。

 でも五百年も前の事なんだから、その恨みを晴らす相手はもういない。奴隷制度も改善されているし、お門違いも良いとこだ。

 仕方ないと言えばそれまでだけど、今の大陸の人間達からしたらたまったもんじゃない。でもここは彼等彼女等の国な訳だし、とっとと出ていった方が良いのかな?

 それとムウナ、食事はさっきしたばかりだろ? 最近燃費が悪いぞ、お昼まで我慢しなさい。


「お待たせ致しました。思いの外長引いてしまいまして」


 お? テオドールが商業組合から出てきた、結構時間が掛かったな。


「いえ、そんなに待ってはいませんよ。それより査定の方はどうでしたか? 」


「いやぁ、マジックバックとマジックテントは希望金額より高く見積もって貰いましたよ。それと、ライルさんから購入した蜂蜜も予想より良かったです。ハニービィは知能も高く、警戒心が強いので養蜂は難しいんです。なのでジパングでも蜂蜜は高級品なんですよ。デザートワインもその珍しさから、かなり色をつけて貰いました。こんなに稼がせてもらったのは初めてで、何だか怖いくらいです」


 よっぽど嬉しいのか、テオドールは誰が見ても浮かれている。これを維持するのが一番難しい所なんだけど、今は喜びに浸らせておこう。


「ライルさんの方はどうなんですか? あまり浮かないご様子。目当ての物が無かったので? 」


「いえ、買いたい物は買えましたが…… 」


 俺はテオドールに、担当者のコバヤシから受けた忠告を伝えた。


「確かに、事情を知らなければそう思われてしまうかも知れませんね。この国は過去を過去として受け止めて、前に進まなければならないのに…… 何時まで憎み続ければ気が済むのでしょうか? ライルさん達にはまた不快な思いをさせてしまいましたね。こんな時こそ温泉ですよ! 温泉に浸かり体をほぐし、綺麗な景色で心を癒しましょう! 」


 おぉ! そうだ、これから温泉に行くんだった。帰るのは温泉に入ってからだな。温泉に旨い料理と酒で、嫌な事は忘れてしまおう。馬車で約一日か、久しぶりにルーサを走らせてやれるな。


 馬車を借りようとしていたテオドールを止めて、人目のつかない場所で魔力収納から馬車と馬のルーサを取り出した。テオドールには俺のスキルの事は殆どばれているようだし、信用もしているので特に問題はないと判断した。


「生き物まで収納できるとは…… ライルさんのスキルは私の空間収納の上位互換みたいなスキルなのですね。羨ましいです」


 馬車に乗り込んだ後もテオドールはまた驚愕した。


「外見よりも中が広い! これはマジックテントと同じ仕組みですね! これは凄いですよ、ライルさん。この技術が広まれば、運送業が益々発展して物流の流れが更に良くなります」


 まぁ、その辺りはテオドールに任せよう。俺は大陸の人間だからね。俺達は港町を出て温泉町へと馬車を走らせた。久し振りの広い大地を、また一段と逞しくなったルーサは嬉しそうに走っている。

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