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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
200/812

7

 

 食事を済ませた俺達は、お米の種籾を購入するため農業組合の第三島支部へ向かった。ここでは様々な植物や野菜の種が販売されていて、国民以外の人でも問題なく買える。


 展示されている種を見て回る。本当に色々とあるんだな、おぉ! これは小豆じゃないか! これで餡が作れるぞ。ん? これは甜菜か? こんな物まで売っているのか。確か砂糖大根とも言われていて、その名の通りこいつから砂糖を作る事が出来る。寒さに強く、寒冷地帯で多く育てられているんだよな? 良いね、これも買っておこう。


 それと、柿、西瓜、メロンと言った果物の種も購入した。野菜の種も幾つか買ったし、これで魔力収納内の畑と果樹園が更に大きくなったな。いや、西瓜は野菜だったか? まぁいいや、お米とついでに小麦と大麦の種籾も購入した。


「目的の物を買えたようですし、風呂屋に行きませんか? 潮風で体がベタついてますでしょう? 」


 銭湯のようなものかな? 良いね、丁度さっぱりしたいと思ってたんだ。


「良いですね。早速いきましょうか」


 テオドールに案内され着いたのは、大きな煙突がある建物だ。入り口には暖簾が掛けられており、中を潜ると、広い玄関に扉つきの四角い靴箱が並んでいる。靴を脱いでその靴箱に入れ、板で出来た小さな鍵を取ってポケットにしまう。何だかスーパー銭湯みたいな内観だな。


 カウンターで金を払い、タオルを借りる。


「それじゃ、施設内にある休憩所で待ち合わせしよう」


「分かったわ。また後でね」


 エレミアは女湯へ、俺とテオドールは男湯へ入り、脱衣所で竹で編んだ籠に服を脱いで入れる。ふと視線を感じて振り向くと、テオドールが驚いた表情で此方を見ていた。


「あぁ…… すみません。その体は、その、生れつきで? 」


 気不味い感じで聞いてくるテオドールに、俺は困り顔で軽く肩を竦める。


「気にしないで下さい。生まれた時からこの体ですから、慣れてます」


 テオドールはそれ以上何も言わなかった。


 浴槽は広く、サウナに水風呂、薬湯に露天風呂まである。この国には人間だけでなく、獣人やドワーフとエルフもいる。様々な種族が暮らす場所であっても俺は異質らしい。彼等は此方へ奇異の視線を向け、顔をしかめる。それでも直接何か言っては来ないので周りの事など気にせずに、木の腕を魔力で操りシャワーで体を洗う。


 湯に浸かり、思いっきり両足を伸ばす。うん、広い風呂は気持ちが良いね。


「どうです? 良い所でしょ? 私がよく利用する宿もあるので、今日はそこに泊まりましょう」


「スズキさんも仕事があるのに、何から何まですいません。助かります」


「いえいえ、助けて貰ったご恩がありますので、これぐらい当然の事ですよ」


 随分と義理堅い人だね。国へ連れてきた所で約束は果たしたというのに。


「…… ライルさんは、強いお人だ。そんな体で生まれ、今まで大変だったのでは? 今も不躾な視線に晒されているのに、微塵も気にする様子を見せない。それに店も持っているし、商人としても私より上です。どうすれば貴方のようになれるのでしょうか? 」


 どうすれば俺のようになれるか―― か。


「それは分かりません。俺は自分を強いと思った事はありませんし、今まで生きてこられたのは、出会いに恵まれていたからです。その人達に助けて貰ったからこそ、今の自分があります。でなければとっくに死んでいましたよ。こんな俺ですが、助けてくれる人がいる。それがどんなに心強い事か、俺をここまで生かしてくれた人達に感謝してもしきれない。だからこそ、こんな視線なんか気にならなくなります。どんな姿でも俺は俺ですからね。周りの顔色なんか窺っていたら、何も出来ませんよ。スズキさんも自分の思った事をやれば良いと思います。誰かになるのではなく、参考にする程度で良いんですよ。それでしたら、俺もお手伝い出来ると思います」


「良き出会い…… ですか」


「そうです。人生とは出会いを重ねる事でもあると、俺は思います。俺とスズキさんの出会いを無意味なものにしないよう、共に人生を諦める事なく頑張りましょう」


「出会いは人生…… そうですね、一人で生きていけるほど私達は強くはありませんからね。ライルさん、これからもどうか、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 人生とは、運命とは、沢山の出会いに満ちている。卵子と精子が出会い子供が出来る。出産して母と子が出会い、その子の人生が始まる。その子が成長していく間にも様々な出会いがあり、人生を選択していく。そして選んだ相手と子供を作り、新しい命と出会う。こうして命は紡がれていく。人も、動物も、命あるものは生きている限り、出会いを重ねていく。俺にも何時か、新しい命を育む人と出会うのだろうか?


 例え出会えなくとも、俺は満足だ。前世ではその出会いを、人生を、自ら放棄していたようなものだからな。俺を心配してくれる人もいただろう。力になってくれる人もいただろう。でも俺はそんな人達を見ようとも、聞こうともせず、自分の殻に閉じ籠った。結果、俺には不安だけしか残らなかった。これはチャンスでもあるんだ。今度は、あんな惨めな人生を過ごさないように、一つの出会いを大切にしよう。それが気にくわない人だったとしても。全ての出会いには意味があると思うから。

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