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あぁマジかよ……頭では理解しているつもりだった、でも、心では否定していたんだ。
こんなにボロボロになってしまっては生き残れる可能性は少ないだろうと、だけど死にたくはない、当たり前だけど死にたくないんだ!
だから有るか無いか分からない“希望”にすがり付くしかなかったのに、これはさすがにあんまりなんじゃないかな。
俺は目の前に広がる火の海を見つめながら、誰に聞かせるわけでなく、ただ心の中でつぶやいた。 視界の上から火がついた書類がパラパラと落ちてきては炎に吸い込まれ、勢いを増す。罅が入った床には、先程まで動いていたであろう人が無惨な姿で転がっていた。瓦礫に押し潰されている者、死んでもなお炎に焼かれ続けている者。現実味の無いその光景に俺は涙一つ流すことは無く、まるで他人事のように感じていた。
絶望一色に染まっていても人間の本能ってやつはすごいもので、それでも生きようと必死でもがき続ける。
今の俺には、それに逆らう気なんかこれっぽっちも残っちゃいない、おとなしく本能に従いながら、出来るだけ火の少ない方へ這って行く。だが、体力も気力も限界だ。体が重くて上手く動かせず、余り進めない。視界が段々とぼやけてくるが、両腕の肘から上も使って、少しでも前に進もうと足掻いた。
その必死な抵抗を嘲笑うかのように、炎はじりじりと追い詰めてきた。
まるで意志でも宿っているかのように、じわり……じわり……と迫ってくる。
そして、ついに俺は奴に追い付かれてしまった。
炎はまず俺の左半分に食らい付いて来た。熱くて、苦しくて、意識が遠のいてしまう。
薄れていく意識の中で、あぁ、これは一酸化炭素中毒というやつかな? それとも血を流し過ぎたか? まぁ、生きたまま焼かれて死ぬよりはまだましかな……………
そのまま暗い闇の中へ微睡みながら落ちて行った。
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とまぁ、これが俺の……いや、元俺の人生の最後だった。
じゃぁ、今の俺は何だって?
それはこっちが聞きたいね、確かに俺は死んだ。
これは胸を張って断言できる!
だけど目を覚ました時にはすでにこの有り様だよ。
びっくりしたね、この一言しか思い付かないしこの言葉以上に適切なものはないだろう。
そう、俺は気が付いたら“赤ん坊”の姿になっていた。
最初に言ったけど決して頭がイカれたわけではない、これは真実である。
まぁ何にせよ俺はこれからも俺として生きていられるだけで有難いことだ。
生まれ変わりは信じてはいなかったがこれからは考え方を変えないといけないな、神様とやらにはまだ会ったことはないからどうとも言えないが、少なくとも魂の存在と生まれ変わりという現象は実在すると俺のなかでは証明できたと言える。
今までの人生観が大きく変わったのを実感したよ。
だけど、あえて一言いわせてもらいたい。
いや、不満とかじゃあないんだけど、もう一回人生ってやつを経験できるのは嬉しいし、感謝しかないんだけど………どうしても言いたいことがあるんだ!
――何で、俺には“両腕が無い”んだ!?
う~ん……今世の俺は長生き出来るか不安しかないよ、せめて前世よりは生きたいな~。