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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
199/812

6

 

 ジパングの北西に位置する第三島、そこにある港町に船をつける。国の入り口と言われるだけあって、かなり広い港だ。それに船の数も多い。でもジパング以外の船は少ないように見えるな。やはり大陸の国とはまだまだ交流が少ないようだ。


 木造建築に瓦屋根の家が建ち並ぶ風景が目の前に広がっている。ジパングの基本の建物らしい。なんか一昔前の日本って感じがするな。そこにエルフとドワーフが普通に生活しているんだから、俺からすれば違和感が半端ない。いや、別に否定している訳ではないんだけどね。


「よお! テオじゃねぇか! 戻ってきたのか。で? どうなんだ? 大陸まで行けたのか? それとも途中で引き返してきたのか? 」


 テオドールに声を掛けたきたのは、それなりに筋肉のついた男達だった。知り合いなのかな? それにしては様子がおかしい。


「どうも、皆さん。只今戻りました。お陰様で無事とは言い切れませんでしたけど、何とか大陸のインファネースに着く事が出来ました」


 それを聞いた男達は、喜ぶ者と悔しがる者とで別れていた。


「よっしゃ! 俺の勝ちだな」


「くそ~、ほんとかよ? お前嘘ついてるんじゃないか? 見栄を張らずに正直に言えよ」


 こいつら、大陸に着くか着かないかで賭けをしてやがったな。


「いえいえ、本当に大陸まで行ったんですよ。此方のライルさんは、そのインファネースからお越し頂きました。向こうで自分の店を開いているんですよ」


 男達は不躾な視線を俺とエレミアに向けてくる。


「へぇ~、確かに、こんな奴が俺達の国にいたら話題にならない筈がねぇからな。しかし、こんなガキが店を持てるなんてよ、大陸での商売ってのは簡単なんだな。なぁテオ、お前この国から出て大陸で商売やった方が良いんじゃねぇか? 」


 ギャハハハと笑う男達、あれ? これって馬鹿にされてるのか? あっ、エレミアの顔がヤバい。本気で怒ってるなこれは。


『エレミア、落ち着いてくれ。殺気が漏れてる。ここで問題は起こしたくない』


『そうね、殺しては目立つわね。半殺しで済ませるわ』


『それも目立つからね! この人達もふざけてるだけだと思うし、俺も気にしてないから。ありがとう、エレミア。俺は大丈夫だから』


 エレミアを魔力念話で何とか宥めて、そのままやり過ごす為、事の成り行きを見守る。


「失礼ではないですか? ライルさんは私なんかより、商才に溢れた人です。年齢と見た目だけで判断するのは早計ですよ? 」


「はんっ! お前より商才がある奴なんて其処ら中にいるぜ」


 好き勝手言って男達は去っていく。テオドールはばつが悪そうな顔で此方へ振り向いた。


「申し訳ありませんでした。不快な思いをさせてしまいまして…… 同じ国民として恥ずかしい限りです」


「いえ、お気になさらないで下さい。スズキさんが悪い訳ではないですので」


 俺達は気を取り直して、テオドールに町の案内をして貰う。最初に連れていってくれた場所は、種麹を専門に扱う店だった。この店は製造から販売まで全て行っているらしい。そこで粉末になった種麹を購入し、良い時間になったので、お奨めの小料理屋に案内してくれた。


 メニューを開くと、天ぷらにうどんに蕎麦…… おっ、刺身もある。他にも、カツ丼や親子丼等の丼物もあるな。う~ん、どれも懐かしくて迷ってしまうね。


 良し、せっかく生食のある文化なんだ、海鮮丼にしよう。


「おや? ライルさんは生魚は大丈夫なんですか? 大陸には魚を生で食べる文化は無かったのでは? 」


「前に人魚達からご馳走になったとき、美味しかったのでまた食べたいと思いまして」


 でも、今の人魚はすっかり料理に夢中になっているので、生魚を食べる機会がなくなったんだよな。日本人だった前世を覚えているクロトが国王だったなのならば、刺身や生牡蠣等の生食を求めた筈だ。だとすれば、この国の生食文化は五百年はあると思っても良いだろう。生の物を美味しく食べる技術が高いかも知れない。


「私はこの天ぷらというのにするわ」


 ほぅ、エレミアは天ぷらか、それも良いな。サクサクの衣にフワフワの魚の食感、プリプリの海老、かき揚げも久し振りに食べたい。是非ともエレミアにはこの味を覚えて貰いたいね。因みにテオドールはお刺身定食を頼んでいた。


 メニューを見てあれこれ考えている間に、俺が頼んだ海鮮丼が運ばれてくる。


 おぉ! 白いご飯の真ん中にイクラが盛られ、そのまわりには雲丹にマグロのような赤身とサーモンに似た刺身、これは甘エビかな? ホタテもあるし、これはカツオだろう。フグのように薄く切られた白身の魚に、この黄色いのはなんだ? よく分からん魚介もあるな。とにかく色鮮やかで美味しそうだ。


「へぇ、色合いが綺麗ね。これがライルの言っていた丼物なの? 」


「あぁ、そうだね。数ある丼物のひとつだよ」


 海鮮丼の味は美味しかったが、期待したほどではなかった。刺身の切り方ひとつで味が変わると言うからな。いくら日本に近づけようとしても、ここは日本では無いし、周りの人達も日本人ではない。食に対する情熱が、クロトと国民とでかなりの温度差があったのだろう。


 俺は改めて日本人の異常とまで言わしめた食への拘りを、この異世界で感じる事が出来た。

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