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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
198/812

5

 

 三日後、テオドールの船の修理も無事に終わり、俺とエレミアは港へ向かう準備をしていた。


「それじゃあ母さん、行ってきます。何かあったらマナフォンで連絡して」


「ええ、貴方も気を付けてね。向こうの気候に合わなかったら直ぐに戻ってくるのよ? 此処とは違うのだから、風邪引かないようにね」



 店を出て港へ向かうと、そんなに時間を掛けずに、テオドールの船と本人を見付ける事が出来た。


「おはようございます。待たせてしまいましたか? 」


「おはようございます、ライルさん。いえ、時間通りですよ。荷物も積み終わりましたし、出発致しましょうか」


 俺達はテオドールの魔動船に乗り込み、ジパングに向けて出港した。インファネースからジパングまでおよそ四日、結構距離があるな。まぁのんびりと船旅を楽しむとしようか。


 コバルトブルーの海が地平線の彼方まで続いている。そんな光景も二日も見ていれば飽きるというもの。だけど他にすることもない。釣りも飽きたし、海の上では何もすることがない。


 操舵室にはテオドールが舵を取っている。邪魔をしてはいけないとは思うけど訪ねてしまった。


「おや? どうかされましたか? 」


「操縦中、失礼します。船って案外する事がなくて暇でして」


「それはこれが魔動船だからですよ。普通の帆船でしたら、こうはいきません」


「そういうものですか。後どのくらいでジパングに着きますか? 」


「そうですね…… このまま順調に進めれば、二日後の午前中には到着すると思いますよ」


 まだ二日もあるのか。代わり映えしない景色はいくら綺麗でも厳しいものがある。そんな想いが顔に出ていたのか、テオドールが少し困った顔で話掛ける。


「ハハ…… 二日なんてあっという間ですよ」


「そうだと良いのですが、よければジパングの事を教えてくれませんか? 何も知らずに訪れるのは失礼かと思いまして」


「ええ、良いですとも。ジパングは四つの島で出来た国なのです。北東にある第一島、南東にある第二島、北西にある第三島、南西にある第四島。そして其々の島を鉄橋で繋いであり、馬車でも移動出来るようになっています。王国と言っていますが、王は世襲制ではありません。国民の投票で王が決まる仕組みになっているのです。王の任期は基本十年となっています」


 十年か、前世の記憶の影響なのか結構長く感じるな。


「私の国では、エルフやドワーフといった長命種の方も国民として暮らしておりますので、人間以外の王が誕生する事もあるんですよ。国父で有られるクロト様を除き、王は全て投票で決まってきました。立候補者には国民に向かって目標を掲げ、自分を売り込む期間が設けられます。その規模は大きく、その様子を見に大陸から多くの人が訪れます。今では十年に一度のお祭りのようになってますね」


 勇者が定めた法なのだろうか、微妙に民主主義が入っている。


「余所者はあまり好まれないとお聞きしたのですが、大丈夫ですかね? 」


「あぁ、確かに、そういう方達もいます。ジパングの最初の国民は全員元奴隷でした。私達はその子孫となります。だからなのでしょうか、大陸の人間達が先祖に非道な行ないをしてきた歴史が伝わっていまして、風当たりが強くなってしまうのかも知れません。もう五百年も前の話なので、私達人間にとっては過去のものです。ですが、奴隷の中にはエルフやドワーフもいます。人間よりも長く生きる彼等にとっては、まだ過去になりきってはいないのでしょうね。クロト様のお陰で奴隷制度も無くなりはしませんでしたが、随分と改善されたと聞いています。私も奴隷商を訪れて、しかとこの目で確認しました。だけど、飲み込めない者がいるのも事実です」


 こればっかりは難しい問題だな。人間とエルフ、ドワーフとは過ごす時間が違う。人間にとっては何代も前の事なのに対して、エルフやドワーフにとっては両親や祖父母の話なんだよな。折り合いがつかないのも当然か。下手に刺激しないよう、言動には注意が必要だな。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 いよいよ今日にはジパングに到着する。楽しみで仕方ない。だけど、アンネは反対に元気が無いように見える。


『アンネ、どうしたんだ? 元仲間である勇者が造った国なんだろ? 嬉しくはないのか? 』


『う~ん、あんましあの国には行きたくないんだよね。クロトの想いが詰まってるから。ライルなら分かるんじゃないかな? あの国に込められたクロトの想いが、クロトと同じ世界の記憶を持つライルなら…… さ』


 そう言ったアンネの顔は、何処か寂しげで悲しいものだった。クロトの想いとは一体なんなのだろうか? なんでそんな表情を浮かべているのか? テオドールの話では国として上手く行っているように思えるんだけどな。



「さぁ、見えてきましたよ。あれがジパングの入り口とも言われている第三島です。外から来た船は皆あの島の港へ止める事になっています」


 おぉ! やっと着いたか。まだ少し遠いけど、島の姿が見える。結構大きな島だな、あれと同等なのがあと三つあるんだろ? 国の面積として考えればかなりデカイぞ。

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